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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
1273/1818

AE(アナザー・エピソード)その黒き軍団を帝国兵は知りたくなかった

 コットン共和国では篭城が始まっていた。

 兵士たちは言われた通りネズミ一匹入れないよう窓や通風口を完全に密閉する。

 それでも空気が淀むことは無い。

 何しろこの城はヒヒイロアイヴィで補強され、空気だけは素通り出来るようにされているのだ。

 有毒物質も通さない優れた防壁の御蔭で、城を囲むようにしている帝国兵は手だし出来ないでいるようだ。


「よ、よいのだよな?」


 玉座に座り、兵士長から状況を聞かされたハーケンは思わず尋ねる。

 皆、確証は無いのでおそらくとしか言えず、実際敵兵士がどれ程の攻撃を行ってもヒヒイロアイヴィを破壊出来ていないのでたぶん大丈夫だろうと安堵するしかないのだ。

 不安に思いながらも次々に聞こえる爆音にびくりびくりと肩をすくませる大臣たち。

 このまま長い日々篭城するのだろうか? ハーケンが不安に思っていた時だった。


 一人の兵士が慌てたように謁見の間へと駆け込んでくる。

 ただならぬ気配にまさか敵兵が突入して来たのか!? と皆が青くなる。

 息も整わない兵士は転がるように王に謁見すると、かすれた声で叫ぶ。


「報告! 蟻が、無数の蟻が突然城内に溢れかえって来ました!!」


「……蟻? なぜこんな時に!?」


『ぬふふ。それは当然、手伝ってやりに来たのでち』


 びくん。

 突然聞こえた少女の声にハーケンは思わず背筋を伸ばした。

 今の声は、小さいながら耳の中から聞こえた気がする。

 謎の感触が耳から外へと向かって行く。

 何か小さな虫に這われているようなむず痒さ。


 喉元を通過した瞬間、反射的に手でバシンと叩き潰した。

 なんだったのかと手を見て、あっと青ざめる。

 蟻に乗った少女が潰れていた。


「な、あ、あ……」


『むぅぅ、酷いのでち。折角援軍に来たのに殺されたでち』


 むくむくっと立体へ蘇る小人と蟻。

 余りに衝撃的な姿に背筋をぞぉっとした何かが這う。


「え、ええ、援、軍?」


『妖精郷よりコットン共和国へ、ムリアン1000000000000、軍団パーリーアント100000000000000、援軍に来たのでち!』


 ただの蟻や小人が増えただけならハーケンはアホかと一蹴しただろう。しかし、ムリアンたち最小の妖精の数は10兆人。その相方として連れて来たのは軍団パーリーアント。

 この国には生息していない蟻だが、その特性は嫌でも知っている。100億のパーリーアントが昔とある国で発生し、黒い絨毯と化したという記述が残っている。

 一夜にして国が滅んだとされる軍団蟻の行軍。

 しかもパーリーアントは文字通り、パーティーでも開いているかのように張っちゃけ続ける蟻の群れであり、近づく者はティアラザウルスだろうがその対軍力で狩り殺すと言われる凶悪な災害指定蟻である。その数およそムリアンの100倍。


「馬鹿な、これ程のパーリーアントが、従っているのか? そ、そなたたちに?」


『我等はムリアン。蟻に乗る最も小さき妖精なのでち!』


 ゴクリ、喉が鳴った。

 防衛するしか出来ないと思っていた。

 だが、これならば……


 ハーケンは立ち上がると、ムリアンと蟻を玉座に置き、自分は檀下へと向かう、そして、玉座に残されたムリアン向けて、土下座した。


「国王!?」


「ムリアン殿。恥を忍んで頼む。我が国を、悪辣な兵団より守ってほしい。我々はこの城から出ることは叶わぬ。援軍も出来ぬ。だが、それでも……」


『うむ、苦しゅうない面を上げよ。なのでち。我らムリアン、受けた恩を返すためアルセ様のお手伝いをするのでち!』


 玉座の上に乗ったパーリーアントに騎乗したムリアンが両手を腰に当てふんぞり返る。

 小さ過ぎるせいで誰にも見えなかったが、ムリアンだけは自己満足出来たようだ。


「おお、やってくれるのか!」


『なのでこちらからの要望は一つ。今日から蟻を見かけてもむやみに踏むな、なのでち』


 ははーっとハーケンが再び土下座する。

 空気を察したのか、大臣たちも同じようにムリアンにひれ伏した。

 コットン共和国は防衛に入りながらも、反撃の牙を手に入れたのである。




 コットン城を取り囲む兵士たちは、あまりにも強固な城壁に苦戦していた。

 戦車の砲弾も戦闘機の機銃斉射も、戦闘機の特攻すらも無傷で受け止めていたのだ。この城をどう攻略するか、今は無駄打ちを控えて隊長格が集まって会議をしているところだった。


「ん?」


 兵士の一人が思わず目をこする。

 会議をしていた隊長が気付いて窘めようとするが、彼は眠さを紛らわせようとした訳ではなかったようで、再び目をこする。


「どうした?」


「……なんか、あの辺黒く……」


「おい、なんか黒いのが溢れてくるぞ!?」


 兵士達からどよめきが起こる。

 その間にも黒い何かは徐々に城の壁から溢れて来る。

 小さいからこそ蔦の網目を通って内部から外へと出て来れる。

 やがて、黒い無数のそれが兵士達の前へと出現した。


「あ、蟻、蟻だ――――ッ!!」


 銃撃が始まる。

 軍団パーリーアントの饗宴が始まった。

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