AE(アナザー・エピソード)そのダリアの御使いを兵士達は知りたくなかった
銃撃が鳴り響く。
無数の怒号に悲鳴が混じり、軍靴が着々と進む音が聞こえる。
ダリア連邦では今、いくつかの連邦国が軍靴に踏みにじられていた。
と言っても、平民は全てアルセ教会地下に避難しており、扉が蔦で閉じられているので兵士達が平民を蹂躙することは無い。
兵士達だけが重軽傷を負っているのだが、これもアルセ神グッズの御蔭で殆どの兵が死んでいなかった。
それでも銃器を持ち戦車や戦闘機まで完備している新日本帝国軍相手にダリア連邦は苦戦していた。
国もいくつが灰塵に帰したかわからない。
アルセ教教会地下から出てきた平民達が呆然とするだろう未来が簡単に予想できるステファンだったが、彼の領地にやってきた軍靴の音に、ふぅと息を吐き気合いを入れる。
「全軍、戦闘準備。アルセ神様の使徒たる我らが力、賊徒どもに見せつけよ! 蹂躙せよ!!」
カチャリ、ステファンたちを見付けた帝国兵たちが銃器を構える。
だが、御使いたちはそれを気にすることなく駆けだした。
全軍突撃の御使いを見て帝国兵から笑いが漏れる。
「はっ。馬鹿が突っ込んで来やがった」
「脳天撃ち抜いてやれ。そら、一匹っ」
アサルトライフルが火を噴く。先頭を駆けるステファンの顔面に直撃し、一瞬ステファンが立ち止まる。
「っしゃ! 命中!」
「お、おい待て。死んでねぇぞ?」
「はぁ?」
銃撃を受け仰け反ったステファン。真上に向いていた顔がゆっくりと前に戻る。
歯と歯の間に銃弾を咥え、憤怒の形相で帝国兵を睨んできた。
「嘘だろ……」
「うぉおれ、ひひょうもほろもめぇッ」
バキリ、銃弾を噛み砕きペッと吐き出すステファン。モーニングスターを振りまわし、敵陣へと突っ込んだ。
「クソ、バケモノが!」
「効かぬ効かぬ効かぬッ!! 我が肉体はアルセ神様のご加護でできておる! 我こそは神の御使いステファン・ビルグリムなりっ!! 我が威光とくと見よォォォッ!!」
バサリ、ステファンの背中から純白の羽が飛びだす。
神々しき悪魔のような顔の男に、帝国兵は一斉に銃弾を叩き込む。
だが羽ばたくステファンの風撃で、弾丸はあらぬ方向へと飛んで行った。
風を切り裂く銃弾だが、羽ばたきにより指向を変えられた風により軌道を逸らされたらしい。
「本格的にバケモノじゃねぇか!?」
「これ、アレだろ、聖都ででてきたバケモノ。誰かドラゴン殺しの大剣か黒の剣士連れて来てっ」
「大丈夫だ落ち付け、アレと違って硬くも無いし、翼を拳にもしてこねぇよ」
「閃光弾で目を潰せ! ついでに足元に手榴弾投げろ!」
「なんか光の魔法使って来たぞ!」
敵兵士が混乱の渦に巻き込まれる。
ステファン一人が相手の為、軍全体としての動揺には程遠いが、充分敵を集めていると言えるだろう。
だが、所詮は一人、流石に戦線を押し上げるには至らない。
「す、ステファン卿、モーイヤン卿の軍が破れました! 右翼ダリアに雪崩れ込みます!」
「ええい不甲斐ないぞモーイヤン!」
「マジヨエー卿戦死ッ! 左翼ダリアに雪崩れ込みます!」
「くッ、中央を守ってもこれでは……」
三方に展開していた敵軍に合わせて軍を割ったのは悪手だっただろうか? ステファンは思わず背後のダリアを見る。
ここが落ちればダリア連邦は壊滅したと言われても仕方無いだろう。
今から援軍に向かったところで市街地戦。
国が滅ぶのを止められない。
歯噛みしたステファン。
だが、ダリアに迫る敵軍向けて、空から光が一筋。
なんだ? 気付いた者たちが空を見上げ、次の瞬間光から黒い何かが分かたれた。
光は右翼に、黒い者は空中に停止して左翼を睨む。
「ふっ。これはまた敗戦必死か。行くぞハニー!」
「ふぇっへっへ」
空に停止したのは半裸の男。紫の体躯を持つ魔族。名をデヌという存在だった。
「お、おおお、おおおおおおおおおおおっ!?」
ステファンはその二人を見て思わず咆哮する。
光が右翼の敵軍を駆け抜ける。
「ば。ババァだ!? ババァが居るぞ!?」
「なんだこのババァ、滅茶苦茶速ぇ!? 追い切れな……ぎゃああああああ!?」
「ひぃぃ、あのババァ真正面にいた少将にダイレクトキッス!?」
ドサリ、少将と呼ばれた男が悶絶しながら倒れる。
コハーと息を吐いたのは光の速さを越えて動く、一人の老婆。名を、Gババァ。
「ああ、アルセ神様は我等をお救い下さる。皆の者気勢をあげよ! あの二人こそ、アルセ姫護衛騎士団、魔人デヌとその妻、閃光のGババァだ!!」
ステファンの声に歓声が上がる。
ダリア連邦の反撃が始まる。
左翼にデヌの暗黒魔法。右翼に閃光のGババァ。そして中央には、狂気の御使いステファン・ビルグリム。
新日本帝国ダリア侵攻部隊の激戦は、今ようやく始まったばかりであった。




