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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)そのフィグナートの神童を兵士達は知りたくなかった

「盾兵構え! 弓隊射撃。魔法部隊詠唱開始!」


 フィグナート帝国もまた、新日本帝国兵の侵略を受けていた。

 彼らと対峙するのはジーン国王。

 今回本来の国王を監禁して王国を乗っ取った男であった。


「第一特殊部隊、第二特殊部隊、行動開始。第三特殊部隊行動準備!」


 街門は一つだけ、各方面に一応兵士を置いて監視しているが、敵軍は前面から蹂躙するつもりらしく、ジーンも前門に全ての戦力を集中させることが出来ていた。

 そのことだけはありがたいと相手にお礼を言いたいジーンだが、状況はそれ程甘くは無い。


 国王から一時的とはいえ王権を奪った男を、例え救国の為だったとはいえ兵士たち全てが国王と認める訳ではないのだ。

 それでも国を守るためと、上がらない士気のまま戦に駆り出されている状態である。

 せめて戦意だけでも高ければと思うが、流石にそこまではジーンがやれるものではなかった。


 彼が出来るのは帝国兵が国に侵入しないように押し留めるだけである。

 だが、銃撃が始まった瞬間からフィグナート帝国は劣勢に立たされる。

 アルセ神盾が充分に防御を発揮したのだが、この盾の効能を信用しなかった兵士たちの一部が蹂躙されたせいで盾部隊に穴が開いてしまったのだ。


 咄嗟に他の盾部隊がフォローに入るがその間に後方の歩兵と弓部隊にかなりの被害が出てしまっていた。

 だから言ったじゃないか。思いながらも口には出さず、ようやく敵の脅威を理解した兵士達に新たな指示を出して行く。

 だが、敵の銃撃に少ない士気をさらに下げられた兵士達の動きは鈍く、逃げ出してしまう盾兵まで出るほど。

 逃げ場などないのに何処に逃げるというのか。

 徐々に減って行く兵士達に舌打ちしながら天運を待つ。


「やっぱり特殊部隊が肝ですね。皆さんにフィグナートの命運を託します。私は策を提案し、指示を出すだけ、この国を守るのは兵士の皆さんですから……祈りますよ、貴方達の勝利を」


 天を見上げるジーン。

 途端、敵軍後方から爆炎が上がった。

 敵軍の動きが一瞬止まる。


 だが、すぐに進軍中の兵士達が行動を再開。

 フィグナート兵たちも気を取られたせいでこの隙に体勢を整えることが出来なかったようだ。

 練度の低さに思わず呻く。

 フィグナート帝国はここ数十年他国に侵略を行っておらず、前回の大戦でも勇者任せだったため、軍としての実力が殆どないのだ。

 今更ながら練兵に力を入れていなかったことを悔やみながら、ジーンは第二特殊部隊の合図を待つ。


 すると、遥か遠くよりゴゴゴゴと地鳴りが聞こえだす。

 来た。

 ジーンは思わず手を握る。


「よし、第三特殊部隊行動開始、第四特殊部隊用意!」


「だ、濁流!? 総員退避――――っ!!」


 ジーンの言葉と共に、異変に気付いた敵兵から悲痛な声が聞こえた。

 逃げ出す帝国兵。しかし、一歩及ばず敵陣を濁流が襲いかかる。


「なぜだ!? なぜこんな……」


「貯水池なんてないからね。不思議だろう?」


 思わず呟くジーン。しかし、その表情は芳しくない。


「出てくるな、第二陣。今出て来られたら……」


「敵軍蹂躙完了、残敵の討伐に……」


「ジーン国王陛下、緊急事態ですッ!」


 ジーンは思わず押し黙る。

 慌てて走ってきた伝令は、ジーンの前に傅く。


「撃破した敵軍の後方に新たな敵軍勢を確認。巨大な箱型機械や、空に浮かぶ鉄の塊が!」


「だろうね。やっぱりそう簡単にこっちの都合に合わせてはくれないか」


 第三特殊部隊が城壁から巨大弩弓を引き絞る。


「目標敵陣鋼鉄の箱。放て! 第四部隊上空の鉄の鳥、放て!!」


 導火線に火を付けた大砲が空へと砲口を向ける。

 迫り来る巨大兵器群に古代兵器で立ち向かうフィグナート軍。しかし、やはり付け焼刃では彼らに太刀打ちが出来なかった。


 戦車による砲撃で街門が崩壊する。

 空からやってきた戦闘機が機銃を一斉射。数多くの兵士と共に特殊部隊も壊滅的打撃を受ける。

 小細工など踏み潰すとばかりに軍靴を鳴らして迫り来る帝国兵に、ジーンは悔しげに唇を噛むしか出来なかった。


「国王陛下、これ以上は……」


「停戦は不可能だ。例え一兵になろうとも抗わないと……クソ、やっぱり僕じゃ駄目なのか……このままじゃこの国が……」


「陛下、ここは危険です、退避を……あれ?」


「……ん? どうした?」


「陛下。鉄の鳥に混じって、巨大な鳥が……」


「鳥? と、り? いや、アレは……アレは瑞獣だッ!!」


 伝令兵に言われて見上げた空に、編隊を組んで迫る鳥の群れ。

 巨大な鳥から無数の鳥たちが出撃、その上に人影が見えた。

 巨大な鳥はそのままフィグナート上空を通過してマイネフラン方面へと向かってしまう。

 だが、それでいい。それでいいのだ。

 空には既に種が蒔かれていた。

 援軍という名の、偽人たちが空軍カモメに乗ってフィグナートの空を舞う。


「フィグナートはまだ無事ね!」


「チグサ、それにジャッポンの皆さん。私の国を、守ってくださいっ」


 フィグナートの勇者チグサ。そして王女ケトルがジャッポン同盟軍と共にフィグナートの援軍に駆け付けたのであった。

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