AE(アナザー・エピソード)その拡大解釈を兵士達は知りたくなかった
バルスとアンサーは悔しげに兵士達を睨んでいた。
市街地戦なため、破壊された壁の隙間から敵軍を覗いているのだが、敵は戦車を前面に押し出しながら砲撃を開始しているらしい。
そこかしこの壁が弾け飛び、街を守る外壁が壊滅的ダメージを被っている。
「アレが……リーダーか?」
「ヘルメットに角が生えてますね。あいつだけみたいだし、リーダーでいいのかも? 同じ顔ばっかりだから分かりませんが」
アンサーの呟きにバルスも頷く。
既に砲撃がユイアの側にも着弾し始めたために予断は許せなくなっている。
一見無敵のユイアも、本体であるアホ毛が身体から引き離されれば死んでしまう。
最悪でもアホ毛だけは回収するつもりではあるが、このままでは近づくことも出来ない。
ユイアは側頭部を貫通された衝撃で気絶したままのようだし、あそこから自力で逃げるのは難しいだろう。
「たった一人、一人を斬れば勝てるのに……」
アンサーは今回の闘いの切り札的存在だ。
できるならば彼に敵を斬らせてしまいたい。だが、それすらも難しい。
銃というのは離れた場所からも狙い打てるので、下手にアンサーを前に出す訳にも行かないのだ。
相手の反撃を封じて周囲からのフォローも無くし、その上でアンサーが兵士達を同一であると認識しながら斬る必要がある。
どうすれば……
打つ手なく兵士達が市街地へと入り始める。
ああ、ユイアの身体が踏まれ始めた。
既に兵士たちはユイアを死体と思っているようで、踏みつけ蹴りつけ踏み越えていく。
「このままじゃマリナ女王が戦闘機を全て撃破しても城が占拠されかねない……」
「……アンサーさん」
不意に、バルスは思った。
それは強引過ぎる気がしなくも無かった。
だが、もしもそれが可能であるならば……
「バルス君?」
「アンサーさん、あの指揮官の角……アレって、アホ毛、ですかね?」
「え? 何を言って、アレは角で……」
言い掛けて、アンサーもまた難しい顔で顎に手を上げる。
「アホ毛、かもしれませんね」
内心それは違うだろう。
そう思ったが否定はしない。もとよりバルスもアレがアホ毛だとは認識しては居ないだろう。
だが、それではいけないのだ。
だから彼らは言い聞かせる。
あれは角でしかないと思う自分自身に、アレはアホ毛の一種なのだと。
「アホ毛、ですよね?」
「ああ、アレはアホ毛だバルス君」
「アホ毛。あれもアホ毛……あ、ああ。来た。欲しい。アホ毛欲が湧きあがってくるのが分かります」
なんだアホ毛欲って。思ったがアンサーは否定しない。
なぜならば、これこそが起死回生の一手。自分たちに出来る反撃の狼煙なのだから。
「アレはアホ毛、アホ毛、アホ毛だ! あの隊長格はアホ毛リーダー。他のじゃまな異物たちを蹴散らして、僕は……あのアホ毛を手に入れるッ」
スキル拡大解釈が発動する。
広い意味で解釈することでスキルの効果範囲を高めるというこのスキルは、単体だけならば意味の無いスキルである。だが、彼が持つもう一つのスキルと組み合わさることで絶大の効果が発揮される。
対アホ毛特化スキル。そう、アホ毛を持つ相手が敵対者に居た時に限り全能力を極大増加させるスキルである。
「行きます!」
「任せた!」
新種のアホ毛を狩るために、アホ毛ハンターが動き出す。
物影からバルスが飛びだす。
即座に反応する帝国兵。しかし、今のバルスに反応できる者はいなかった。
引き金が引かれ無数の銃弾が飛び交うが、そこにバルスの姿は既にない。
「右だ!」
「違う左に居るぞ!?」
「どうなっ……ぎゃぁ!?」
「邪魔だ。お前達はアホ毛の邪魔だァ!!」
魔剣エルガドが振り下ろされ血飛沫が舞う。
慌てて銃口がそちらを向くが、既に倒れ始めた兵士がいるだけでバルスの姿を捉えられない。
「馬鹿な!? 何者だ!?」
一人、また一人と斃されて行く帝国兵。
銃口を向けようにも物凄い速度で動くバルスには当てられないようだ。
「速いぞ!?」
「目で追えない!?」
「クソ、なんなんだよコイツ!?」
「アホ毛、アホ毛、アホ毛ぇぇぇぇ!!」
「何だこいつ!? 目が血走ってやがる!?」
狂人にしか見えないバルス。
その動きは人とは思えない素早さで、兵士たちは悉く翻弄されるのだった。
「よし、これなら一人くらい。どの敵を狙うべきか……」
アンサーもまた、必殺の一撃を放つべく、攻撃の薄い敵陣を探す。
「クソ、あの野郎戦車部隊に近づき出したぞ!?」
「誰か止めろ! ヤバいのが向かったぞ!?」
バルスが敵陣へと単騎突撃を開始する。
援護の無い状態でアレはマズいのでは? と思うアンサーだが、すでに暴走状態のバルスを救う術を彼は持っていなかったのであった。




