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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)そのアホ毛の危機を彼らは知りたくなかった

「全身盾部隊用意!」


「弓矢隊構え!」


 コイントスは本日、アンサー王子を総司令官として国防戦に臨んでいた。

 一応アンサーの側には女王マリナも来ている。

 彼女が死んでしまうと国が崩壊するため今回は一番安全な指令部に居て貰う。


 基本はアンサーが指揮を取るのだが、押されてしまうとそうも言っていられないので最終的にはマリナが旗印になるだろう。

 いや、それよりも、手早く片づける方法はあることはあるのだ。

 問題はどうやって敵を捕獲するかだ。


「全軍に通達、敵兵一体でいい。生け捕りにして連れて来てほしい」


 アンサーのスキルが使えれば、おそらくこの闘いは一瞬で決着を付けられるだろう。

 問題は敵の銃器だ。

 もっと早くに敵の種類に気付けていればアルセ姫護衛騎士団全員で敵を一体拉致るくらい楽だったんだけど……

 アンサーは思ったが、今更だったので口を噤む。


「とー!」


 やれー。とばかりに拳を突き上げるマリナ。

 それに釣られるように兵士達が拳を突き上げおーっと叫ぶ。

 兵士たちの気力はかなり高い。それだけは救いだ。


 帝国軍の進軍が始まり、全身盾部隊が銃撃を防御、真上から弓と魔法が飛びかかり、帝国軍を蹂躙する。

 最初はかなり順調だった。

 敵もゆっくり近づいてくるだけなので百人二百人と撃破出来ている。


 だが、それも戦車や戦闘機が組み込まれた第二陣がやってくるまでだった。

 装甲車が出現したことで弓による攻撃が効かなくなり、魔法使いは戦闘機が率先して撃破して来る。

 何より空を飛行する敵相手にこの国の誰も攻撃が届かない。


「とー!?」


「マズいですね……」


 ぐぬぬ。と唇を噛むアンサーとマリナ。

 やがてもう許せんとばかりにマリナが走りだす。

 何処へ行くつもりだ?

 驚くアンサーを放置して城を垂直に駆け上がったマリナ。

 偽人なんだなぁと改めて見上げるアンサーの目の前で、城の丁頭部へとやって来たマリナは近くを通りがかった戦闘機向け、渾身のドロップキック。


「は?」


 戦闘機に穴が開く。

 さらにその機体を足場に編隊を組んでいた他の戦闘機にドロップキック。


「いやいやいや!?」


「とーっ!!」


 戦闘機が一機、また一機と撃墜されて行く。

 アンサーは空を見上げたまま、あははと呟くしかできなかった。




「ブルーフレア!」


 ユイアとバルスは突撃組だ。

 と言ってもユイアは魔法が使えるので戦車に向けて最大級の火炎魔法を叩き込んでいた。

 バルスは大盾が保つ間は待機である。


 ユイアの一撃を受けた戦車が蒸し焼きになる。

 青い炎で熱された鋼鉄の内部は地獄のようで、悲鳴が上がり、すぐに動きが止まる。

 バルスはそんなユイアの横で魔力回復薬を適時ユイアに渡すだけの係であった。


「とーっ」


「うわー。ドロップキックで戦闘機破壊してるよ……」


 空から聞こえた元気な声に思わず見上げたバルス。

 誰からも返答は無かった。

 皆死力を尽くして防衛に当っているのだ。


「クソ、これだけやっても向こうの接近の方が速い、大盾がもう持たんぞ!」


 大盾自体はまだまだ健在だ。しかし持ち手の直前まで近づかれ、物理的に排除されれば大盾も意味を成さない。


「クソ大盾部隊退け! 第二防衛陣まで後退。決死部隊突撃! 大盾部隊が配置に付くまで粘れ!」


 雄叫び上げながら男達が殺到する。

 大盾の間を抜けて帝国兵へと駆け込むが、銃弾を受けてその殆どが死に絶える。

 だが、倒れた仲間の身体を盾に、死を覚悟した兵士たちが接近、帝国兵を斬り殺して行く。


「こいつ等、決死部隊か!?」


「初めから死を覚悟した奴らか。クソ、全力で撃ち殺せ!」


 バルスとユイアは大盾の背後に隠れて遠距離攻撃をする予定だ。なので二人も大盾部隊と共に退くつもりだった。

 ユイアの側頭部を流れ弾が貫通する。

 バルスが気付いた時にはユイアが倒れた後だった。


「ユイア!?」


「死ね死ね死ねぇ!!」


 決死部隊を押しのけ近づいて来た帝国兵。

 バルスは慌てて大盾部隊の背後に逃げ込む。

 ど、どうする?

 バルスは震えながら周囲を見回す。

 別にユイアを見捨てるつもりは無い。

 でも、ユイアはアホ毛が本体である以上銃撃を受けただけでは死なない。今はまだ問題は無いのだ。


 だが、自分は違う。一撃でも銃弾が当れば死ぬ可能性があるのだ。

 ユイアを助けるにも、自分は生きていなければならない。

 でも、彼女を助けたい。どうにかしなければ、でも、どうすれば?


「無事かバルス君」


「あ、アンサーさん!?」


「守る者が突撃してしまったのでね、とにかく敵兵一人でも確保出来れば起死回生の一手を放てる筈なんだ。なんとか捕縛出来ないだろうか? それで、ユイアさんは?」


「あ、あそこ。助けたいけど……」


 既に帝国兵たちが殺到する区画に倒れたままのユイアを指し示す。

 気付いたアンサーも悔しげに唸るしかなかった。

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