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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)そのゲーテリアの七大罪を兵士たちは知りたくなかった

「本当に、大丈夫なのか?」


 ゲーテリア王は即席で作られたアルセ神教会地下に避難して思わず呟く。

 ゲーテリア王国にも昨日アルセがやって来て教会を立てていった。

 国民は全て収容、貴族と平民でいざこざが起こりかけたが、国王自ら止め、平民と貴族の住み分けを行った事でしばらくは不満も出ないだろう。

 流石に数日過ぎればいろいろと禍根の残る結果となるだろうが、短期決戦になると各国の連絡網で告げられたのでそこは安心している。


 一緒に付いて来たアルセギンに問いかける。

 各国に直通の連絡網を構築したアルセギンから答えはすぐに返って来た。


『アルセ教教会の強度は保障しますわゲーテリア王。相手の爆撃でもこちらの教会は傷つきませんでした』


「そ、そうではなくてだな、助っ人だ。あの小娘一人で、本当に大丈夫なのかマイネフランの王妃よ!?」


『ああ。えっと、ゲーテリアに向かったのはパイラだっけ? ならば安心でしょう』


「し、信じていいのだな?」


『むしろ兵士が巻き添えを喰らわないようにちゃんと彼らは喰うなと伝えておいてください』


「は? 喰う?」


『ええ。彼女は七大罪・飽食のパイラですから』


 聞いたことはあった。

 遠くの国で捕まえ、交渉で食料を毎日与える代わりに大人しく軟禁されたと言われる七大罪のバケモノ。

 だが、そう聞かされてもあの容姿を見てしまえば本当なのか疑ってしまう。

 不安な顔をしながらゲーテリアの無事を心から祈る。

 彼ら民の命は、小さな一人の少女にゆだねられたと言っても良かった。




「弓矢用意! 射て!」


 ゲーテリア騎士団長が声を張り上げる。


「ははは。雑魚どもが蹂躙してくれる」


 アサルトライフルが一斉に向けられる。

 街門前で整列したゲーテリア騎士団に、数千の銃器が一斉に火を吹いた。


「全身盾前面展開、ここが最初で最後の防衛線だ、全力で受け止めろッ」


 騎士団長の声で盾部隊が前面展開。その頭上を矢が飛びだして行く。


「どこも同じだな。薄緑の盾に真上からの矢と魔法。全ての国で同じ方法取って勝てると思ってるのか?」


「馬鹿は死ななきゃ治らないってな。奴らが気付いた時には屍だぜ、俺たちは無限に湧き出るんだからな。東大陸からの本隊が来る前に決着を付けてやるぜ」


 帝国兵が徐々に迫る。

 矢を受け魔法を受け死んでいく者もいたが、数千に上る大部隊は気にせず軍靴を鳴らしている。


「クソ、このままじゃ遠からず接敵される。大盾が引きはがされたら終わりだぞ!?」


「た、隊長、どうしましょう。歩兵はただ殺されるだけですし……」


「う……む」


 決め手がない。

 騎士団長は思わず唸る。


「槍隊は大盾部隊の左右に展開、大盾を破って侵入して来た敵を突き殺せ! あとは……」


「無駄なことしてるわね」


「なにっ!?」


 突然掛かった声に思わずイラつきを顔に出す騎士団長。

 その目の前に居たのは、ほくほくの焼きイモの束の入った袋を片手に、イモにもぐつく少女だった。


「何だお前?」


「アルセ姫護衛騎士団、蹂躙隊長に任命させられた。パイラ」


「アルセ姫護衛騎士団? ああ、国王が言っていた助っ人か。え? お前一人?」


「防御も攻撃も温いわね」


「おい、待て、子供は下がっていろ。助っ人に来て死なれては寝覚めが悪い」


 パイラが少女だったので思わず戦力外と判断した騎士団長だったが。パイラはこれを無視して飛び上がると、大盾部隊の一人の頭を足蹴にして大盾の外へと舞い降りる。


「なっ!? バカな、今出たら蜂の巣に……」


 驚く騎士団長。しかし既にパイラは大盾の向こう側。銃弾飛び交う危険地帯に入ってしまっていた。


「な、なんだ? 子供?」


「気にするな、運が無いバカな小娘が蜂の巣になりに来ただけだ。とにかく撃ちまくれ!」


 無数の弾丸がパイラへと向かって行く。

 当然、本来ならば蜂の巣になる筈のパイラ。だがその場に着地した時点で彼らは気付くべきだったのだ。

 なぜその場で蜂の巣にならずに生きているのかを。


 パイラは口を開いて息を吸う。

 強烈なバキュームが周囲の弾丸全てを口の中へと引き込み始める。


「な、なんだこれは!?」


「弾丸が全て口内に吸い込まれているぞ!?」


「自殺志願者か!?」


「いや待て、野郎、銃弾を食べてやがる!?」


「んなバカな!?」


「お、おい、相手のステータス出たぞ! 退け! こいつ七大罪の一人飽食だ!」


 七大罪。貪欲を持つ増殖の勇者は知っていた。

 他の七大罪もまた強力な力を持っているのだ。下手に敵対すると面倒なことになるので出来るだけ闘わないよう意思統一した筈だった。


「ふざけんな、あいつが向かって来るんだぞ、やるしかねぇ!」


 突撃銃を持って突撃する兵士が一人。

 誰かが止める暇も無くセミオートでパイラを撃ちながら接敵する。

 その全ての銃弾はパイラの胃の中へと消え去り、パイラの口がさらに大きく開かれる。


「な、くっ。引っ張られ……う、うわああああああああああああ」


 ごきゅん


 パイラの喉が一際大きく鳴った。

 次の瞬間、兵士が一人消えたことに、帝国兵たちは気付いた。


「そ、総員退避ッ、奴に捕まるなッ、全身食い殺されるぞッ!?」


 ゲーテリア襲撃部隊はパイラ一人の出現で総崩れとなって退避に走ったのだった。

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