AE(アナザー・エピソード)そのトルーミングの最終兵器を兵士たちは知りたくなかった
「敵軍進軍開始ッ!」
「絶対に通すな!」
「アルセ神神殿には絶対に行かせるな、王城が落ちてもあそこさえ守り切ればいい!」
トルーミング王国のアルセ教会は即席だった。
アルセが昨日やって来てささっと一分もかからず作って帰って行ったのだ。
教会は緑の蔦で作られていたが、その強度は城よりも強固であったし、地下施設は街民全てを収容しても余りある大容量。
これで避難以外何に使えというのか、国王は即座に判断を下し、今日の昼までに全国民をここに集結させた、王族も貴族も平民も乞食も犯罪者も、全て避難民として一カ所に集まっている。
しかし、犯罪者たちが何かを行うことは無い。
何しろここはアルセ神の教会内なのだ。アルセ信者たちはここに皆が入った時に告げた。
ここはアルセ神様の温情で作られた民の避難場である。
ここで犯罪を犯せば神罰が下るであろうと。
ただの宣言だけならば犯罪を起こす者は居ただろう。しかし、この国では起こらない。否、起こせない。
何しろアルセ神により神罰を受けた王子が実際に存在しているからだ。
犯罪者たちも、否、乞食ですらも知っている。
国王自ら国中に伝えたのだ、アルセ神による神罰で、オーギュストという第四皇子が神罰を受けた事を。
彼は今も自分から動くことはできず、オナラをすれば周囲のニンゲンに物理ダメージを与え、四十代位の男達を魅了する不思議なフェロモンを放出しているという。
一度、暗殺して、居なくなった者にしようとする計画もあったが、死ぬことも許されなかったオーギュストが殺されることはなかったのだ。
だから、同じようにアルセ姫護衛騎士団にちょっかいをかけて地獄に落ちる者がでないよう、国王は国に広く伝え、アルセ姫護衛騎士団が来た時には、丁重に迎えるように伝えていたのである。
結局昨日アルセが鳥に乗って来た以外に騎士団が来た事は無かったのだが。
そうして王城は空城となり、アルセ教会、否、ここではアルセ神神殿と呼ばれているそこに、防衛戦力だけを残し、他の騎士団は全て敵の迎撃に向かっていた。
アンディとリアッティも、オーギュストの両手両足を持って運搬し、騎士団の元へと駆け付ける。
「お待たせしやした。秘密兵器投入です」
「おお、ついにオーギュスト王子の御出陣か……って、そこの女性はなぜ裸?」
「き、気にしないで下さる? 一応服は着ているのよ」
「え?」
「アルセ神の神罰っすわ。オーギュスト王子の付き人やってたんで」
「ああ、なるほど。だがグッジョブ。その姿でちょっとそこいらを歩いてくれないか、兵士たちのモチベーションが上がる」
「はぁ? 嫌よ。幾ら慣れたっていっても女性以外に裸見せたくないし」
ふざけんな。とリアッティはアンディの禿げた頭を叩く。
「あいた!?」
「あんただって呪われてんでしょが。そら、さっさと行くわよアンディ」
「へいへい。っつーわけで皆さんフォローよろしく、王子を敵の中心に持ってくんで」
「ああ。わか……いや、待て、いいのがある」
騎士団の隊長だろう。ニヤリと笑みを浮かべ指示を出す。
大盾部隊が街門を防御し、絶えまない銃撃が盾に弾かれる音が聞こえ出す。
その街門から伸びる大通りに、キュラキュラと何かがやって来た。
「ありゃあ……」
「大砲っつー奴だ。攻城戦で使うんだがここ近年は戦争する事がなかったしな、埃被ってたが昨日見付けて何かの役に立つだろうと撃てる状態にしといたんだ」
「んで? アレをなんに使うの?」
「死なねぇんだろ、オーギュスト王子」
「ああ。え、まさか……」
「玉を込めろ! 狙うは敵陣中央! 急げ!」
アンディとリアッティは唖然とその光景を見守る。
四十代位の男がひょいっとオーギュストを抱えあげ、乱暴に服を引きちぎると穴へと詰め込む。
「任せるぜハニー。盛大に飛ばしちまえ」
「もう、どうでもいいよ……」
溜息を付くオーギュスト、今まで無反応だったがようやく男に反応を見せた。
「無事に奴等殲滅できたらよ、しっかり楽しもうぜハニー」
兵士がガハハと笑いながら大砲から離れる。
別の兵士が着火を始めた。
「行ってきてくれ最終兵器!」
「俺らの思いを受け止め、奴等にぶちまけてくれ!」
「いや、もう奴等にぶちまけられてくれっ!!」
号砲が鳴った。
放物線を描いて男が一人飛んで行く。
溜息を吐いたオーギュスト。服を破かれたせいで全裸の彼が兵士たちの中央へと落下した。
「何か飛んで来たぞ!?」
「人だ! 全裸の男が飛んで来た!」
「はぁ? なんだそりゃ、とりあえず撃ち殺せ」
「お、おい、こいつ銃弾が効かない!?」
「はぁ……オヤジ狩り狩り……発動」
オーギュストは全てを諦めた顔で告げる。
スキルが発動し、周囲一帯の40代未満の男達を魅了していく。
帝国兵たちは全員増殖の勇者、40代未満の男達だった。
「な、なんだ、下半身が……」
「あ、ありえねぇ、こいつ、何でこんな魅力的に……」
一人の男に男達が群がりはじめる。
「よし、奴らはしばらく反撃できん、全軍突撃準備、間違っても40代未満の兵士は突撃に参加すんなよ!!」
トルーミング王国の反撃が始まった。




