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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)そのエルフの激闘を兵士たちは知りたくなかった

「何処に消えた!?」


 エルフ村では今、兵士たちの泣きそうな悲鳴が至る所で上がっていた。

 中央広場に居たリーダーは自分を中心にして兵士達に円陣組ませ、周囲を索敵しながら指示をだしていた。

 しかし、散り散りになった仲間たちがスプリガンの奇襲やドリアデスの誘いなどを受け、悲鳴をあげては逃げているようだ。


「エルフはたかが一人だろう。皆何をしている! スプリガン程度ロケットランチャーで一撃だろう!」


「それが、奴等タマネギンを投げつけて来て……泉で目を洗おうとしたチームもタイダルネクツァの餌食に。ブロックオリーが歩行の邪魔をするので各チームが合流するのも難しく……」


「黙れ、言い訳はいい。それよりも誰かあのエルフを見付けたか!?」


 エルフの少年は真上に飛び上がり木々に紛れた後、ようとして行方を眩ましたままだった。

 時折思い出したように何処からともなく矢が放たれてくる。

 丁度意識が途切れた瞬間を狙ったのか、気付いた時には一人の側頭部に突き刺さって仲間が死んでしまうのだ。


「クソ、このままではたった一人に我が軍が……」


「あのエルフ闘い慣れてやがる、クソ、魔物をトラップに使うとかそんなのありかよ」


「こうなったらもうこの村焼き払うしかねぇーんじゃねーか」


「それもいいかもぬぁ!?」


「ん? おい?」


 グラリ、また一人兵士が倒れていく。

 眉間に矢が突き立った男は突き刺さった場所から紫色に染まり、びくりびくりと激しく痙攣して泡を噴き出す。

 鏃に毒が塗ってあるらしい。


 円陣が狭まる。

 隊長格は必死に周囲を探るが、エルフの姿は全く分からなかった。

 完全に森に同化しているような見事な気配遮断である。


 そんな兵士達を見ながら、遠く離れた木の上で、ランツェル・ドゥ・にゃるぱは静かに弓を引き絞る。

 両目は顰められ、ただ一点のみに集中されていた。

 放つ。

 ピィンと弓鳴りを残し、弦が振動する。

 飛ばされた矢は数百メートル離れた男の側頭部に突き刺さった。


 ラスフィ―旅団。それが彼の所属していた冒険者パーティーだ。

 数百年前のパーティーだが、当時最高峰と言われ、そのパーティー内で弓神と呼ばれていた男は、単身愛用の弓だけでドラゴンを討伐したと記録されている。

 遥か遠くからドラゴンの逆鱗だけを打ち抜き、さらにその矢を次の矢で押し込み。さらに押し込み、そしてドラゴンの脳へと到達させて斃した。

 その正確無比の射撃は今、帝国兵へ向けて撃ち放たれていた。


「このアルセ神の蔦で作った弓はいいな。どれだけ酷使しても壊れないのは重宝ものだ」


 ククとランツェルは口元を歪ませる。


「なんぞ昔の戦争を思い出すの。老骨であったが、滾ってきたわ。年寄りの冷や水にならん程度に、駆逐させて貰うぞ帝国兵」


 再び矢を居る。

 喉を貫かれた兵士がドゥと倒れた。

 数メートル先から放たれた矢であれば彼らも対応はできていたのだろう。

 だが、ここは数百メートル離れた場所。

 狙撃用のスナイパーライフルですら届くかどうかの遠距離から狙われているのだ。


「無防備過ぎるぞ若いの」


 ニヤリ、笑みを浮かべたランツェルの一撃。また一人兵士が消えた。


「ぬっ。この辺りから変な音が聞こえた筈だが」


 不意に、足元に帝国兵。

 どうやら弓のしなりと矢の風斬り音を頼りに別部隊がやって来たらしい。

 ランツェルは慌てることなく用意しておいたタマネギンを投下すると、即座にその場から離れる。


「ぐわっ、何か降ってきた」


 落下して頭に直撃したモノを掴み上げた兵士。タマネギンの幼体を見て一瞬固まる。


「た、タマネギンッ!?」


 驚く瞬間、タマネギンの汁が飛ばされる。

 目をやられた兵士が仰け反り、周囲に居た兵士達もタマネギンの攻撃を受けて恐慌状態に陥る。

 そこへ彼女は現れる。


「ふふ、今日は得物が大量ね。さぁドライアド、しっかり養分を絞り取りなさい」


 スクーグズヌフラが兵士を昏倒させ、ドリアデスたちが武装を奪って行く。


「頑張りなさいランツェル。貴方ならやり切れ……あら?」


 ふと、彼女は気付く。森の中に気配が二つ。真っ直ぐこちらに向かって来る。


「あらあら、しょうがない子たちね」


 気付いてしまったからには仕方無い。

 スクーグズヌフラは森の管理者然とした振る舞いでゆっくりと歩きながら、プリカたちの元へと向かうのだった。


 プリカとアニアは走っていた。

 そこかしこから銃撃が聞こえる。

 兵士たちの怒号に悲鳴。


 まだまだ戦闘が続いているのだ。

 ランツェルが健在なのは明らかだろう。

 ならばプリカが行うべきは脇目も振らずにランツェルの元へ辿りつくことだった。


「もうすぐ、もうすぐだよアニア」


「そうなんだけど、ちょっと、急ぎ過ぎっ。もうちょっと周りに気を配って!?」


 涙目のアニアの言葉を無視し、プリカはひたすらに走るのだった。

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