AE(アナザー・エピソード)その戦場に生まれるモノを国王は知らない
「ふふ。幼女神の神罰を受けるがいいのです」
ロリデッス神父の攻撃により行動不能にされた兵士達。
避難民の少女が一人舞台上に立ち、それを見つめる客といった状況で拘束されていた。
何が起こったのか分かっていない兵士たちは、身動きを封じられたままステージ上で怯えている少女を見続けるしか出来なかった。
そんな謎のフィールドから少し離れた場所に、ネッテとルルリカが不安げに見守っている。
ネッテの横で未だに熱心に祈りを捧げるセイン。まるで帝国兵など居ないかのような祈る姿に、他のアルセ神信者たちもまた、アルセ神像へと祈りを捧げるのだった。
「大丈夫なのかな……」
「一応アルセ神グッズは内部に着込んでるけど、正直生きた心地はしないわね。あの兵士達、どうやって撃退する気なのかし……痛っ」
「ネッテお姉様?」
「お、お腹、痛い。何コレ、凄く……」
「ま、まさか、それ陣痛じゃないですか!?」
驚くルルリカになるほど、と納得顔のネッテ。
一瞬の空白ののち、ルルリカが切羽詰まった顔で叫んだ。
「だ、誰か産婆さん呼んでくださいっ。ネッテ様の御子が生まれますっ」
「「「「はあぁぁぁぁっ!?」」」」
こんな状況でか!?
驚く信者たち。産婆と言われてもこんな場所に都合よく居る訳もない。
どうしようもないだろう。という空気が場を満たそうとした次の瞬間、セインが立ち上がる。
「シスター・マルメラ。初心湯を用意してください」
「へ? せ、セイン様?」
「これもきっとアルセ神様の思し召し。今日。この日に生まれいでる奇跡の子に祝福を。何としても安全に産ませて見せましょう。皆さんも手伝ってください。きっと、アルセ神様も生まれる子を笑顔で出迎えてくださいます」
にこり、微笑むセインの笑顔にやられ、信者たちが動き出す。
既に近くに帝国兵が銃器を構えているのに、誰も恐れることなく出産準備を始めていた。
遅れ、マイネフラン中央騎士団が雪崩れ込んで来て帝国兵を囲み、教会内から一人残らず押し出して行く。
「ふぅ、なんとかなりましたか」
「お疲れ様ですロリデッス司祭」
「神父でいいんですがね。セインさん、クッキーとかどうですか?」
「今はいらないです。それよりロリコン神父、御産を行いますのでこっち見るなです」
「幼女でもない女性の御産に興味はございません。せいぜい元気な幼女を産んでくださいませ」
「女の子とはかぎらないです」
「なんとっ!? この世には神も仏もいないのですか!?」
「意味分かんないです。ヘンリーに掘られればいいのです」
神父のすねを蹴りつけセインはネッテの元へと戻る。
ありがとうございますっ。と思わず叫んだロリデッス神父は皆に白い目で見られながらデレデレの顔でセインを見守るのだった。
「そこの椅子に腰かけて貰いましょう。たしか座った方がよいと聞いたことがあるです」
「私は土下座みたいな姿の方が産みやすいと聞きましたけど」
ああでもない、こうでもない。信者たちがフォローをしようと自分の知っている知識を披露するが、皆がまちまちだった。
「数時間掛かりますよね、私、城に避難してる産婆さんを呼んで来ま……」
信者の一人が駆けだそうとした次の瞬間、破水したらしいネッテが呻く。
「駄目よ、今外に出るのは危険です」
「しかし、どうすれば?」
「回復魔弾を使いましょう。最悪腹を裂くです」
そう告げるセインの周囲を祝福の光が舞い始める。
どうやら妖精たちが何かをしているようだ。
ただの演出かもしれない。
まるでアルセ神の祝福があるとでもいうように、ネッテの周囲に光が集まり始める。
回復機能でもあるのかネッテの表情に和らぎが見える。
「ご、ごめんルルリカ、手を……」
苦しげに呻くネッテ。必死に伸ばされた手をルルリカが即座に両手で掴む。
「むしろ喜んでですわお姉様。私がしっかり付いておっふぅ!?」
「ルルリカ?」
「……は、破水しました」
「「「「は?」」」」
ネッテに遅れること数分。あまり大きくなっていないため気付かれて居なかったが、ルルリカも同時に破水を迎えたらしい。出産しそうなに妊婦が二人に増えた。
「ちょぉ!? あの王様御盛ん過ぎるでしょ!? こんな時に同時出産とか馬鹿ですか!?」
思わず叫ぶセイン。折角格好付けた聖女ぜんとした姿が崩れ去ってしまっていたが、誰も咎めようとは思わなかった。
皆だって同じ思いだったのだ、聖女が思わず苦言を告げたってしょうがないのである。
気を取り直したセインの指示のもと、二人の出産が始まった。
互いに手を握り合うネッテとルルリカ。頑張りましょうと声を掛け合い痛みに呻く。
父が戦場で闘う間、母たちもまた闘いに身を投じるのであった。




