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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その北方部隊がどうなったかを兵士達は知らない

 西方部隊がマイネフランに侵入を成功させた頃、北方部隊は森の中で襲撃を受けていた。


「クソ、なんだあの葉っぱ共は!」


「タスケテー」


「こっちからは変な鳥が変な鳴き声で来てるぞ。その数、い、一体いくらいやがるんだ!?」


「にょきにょきにょっき」


「うるっせぇ!!」


 無数の銃撃がアンダカギオギオたちの葉っぱら薙ぎ散らす。しかし森の中で彼らを完全に捕捉するのは難しく、隙を付かれて投げ槍の餌食になる帝国兵が出始める。

 あるいはヘルピングペッカーの群れに頭から丸呑みされていく。

 アローシザーズたちが必死に咆え猛り、周囲の魔物達が次々と集まってくる。

 ブラックドッグにより即死するモノも現れ、逃げだした兵士にはウッドウルフやキルベア、レッドマンティスが襲いかかる。




 聖樹の森の魔物達によりマイネフラン北方侵略軍は壊滅的打撃を受けていたのだ。

 この指揮を取っていた聖樹の森の主、アルラウネは遠くからこの状況を感知しながら森の中の魔物に指示を出して行く。

 彼女は光り輝く大木の根元に陣取り、無数のアルルーナ、そしてアルセイデスと共に防御陣を構築しながら踊っていた。


 大木の根元にアルラウネ、その周囲をアルルーナ、さらに外周をアルセイデスたちが取り囲み、盆踊りのように踊りながら回っている。

 空から見れば一つの魔法陣にも見えるその陣形で、森全体の動きをアルラウネが感知し森の魔物達へと指示を飛ばす魔法を扱っているのである。


「ふふ、ここでティアラザウルス投入。トレント移動、奴らの逃げ道を塞いで、そう、ああ、こっちだけ空けておきなさい。そう、マイネフランから遠ざかり森の奥に向かうように、奴の巣穴に導いてあげましょう。アルセ達も知らないこの森の凶獣……ワルセイデスの巣穴に」


 アルラウネの顔に黒い笑みが浮かぶ。

 北方帝国軍は知りもしない。自分たちは今、魔物たちの罠にかかっていることに、そもそも魔物がそんな知恵ある行動をするなど思いもしていない連中なのだ、彼らが気付く訳もなかった。




「クソ、どうなってる!?」


「この森に人が居ない時点で気付くべきだった。ここは魔物の森だ。何が聖樹だ。ふざけんな!」


「って……待て、ちょっと待て。魔物の攻撃がやんだぞ?」


「そう言えば、急に逃げ出して……おい、周り中エンテだらけだぞ!?」


「逃げ道がない!? 何をする気だ?」


「何もなにも魔物だぞ、本能に従った結果じゃ……待て、アレだけの魔物が本能で逃げるって……」


 はっと気付いた彼らの頭上に影が差す。

 マズい。気付いた時には既に遅かった。

 恐る恐る見上げた彼らは目撃する。

 冠を被ったような恐竜、ティアラサウルスが周囲の木々をエンテ諸共なぎ倒し、彼らの元へとやって来たのである。


「で、でけぇ!?」


「勝てるか! 迫撃砲は!?」


「エンテの向こうだ。葉っぱ人間共に奪われた!」


「何やってんだ!?」


「そんなこといいから撃て! あれを殺さないと俺らが死……ぎゃぺっ」


 ズシン。

 その一撃は頭上からだった。

 逃げ場などない場所で上空からの一撃、幾らアサルトライフルを持とうとも、重量物に押しつぶされてはもはや生存は不可能。


「う、撃て! ひたすら撃てば倒せる筈だ!」


「アホか、あいつがなぎ倒したあっちから脱出に決まってるだろ、死にたきゃ一人で死ね!」


 兵士たちは我先にとティアラザウルスが踏み潰したエンテ方面から逃げ出して行く。

 しかしそこもまるで誘導するかのようにエンテが左右に陣取っており、兵士たちはそれを不自然と思うことすらなく必死にティアラザウルスから逃走する。


 やがて本来向う筈のマイネフランから遠ざかり、聖樹の森深部へと足を踏み入れていく。

 彼らが気付いた時には森が深くなり、生態系が激変していることが分かるが、もはや自分たちが何処からそこへやって来たのか分からなくなってしまっていた。


「どこだ、ここ?」


 生存した兵士300名程がアサルトライフルを構えながら周囲を探る。


「待て、あそこ、何かあるぞ?」


「森の中に森? なんだここは?」


 森の中に違う生態系の森があった。

 黒い針葉樹が乱立する森に、兵士たちは警戒しながらも入って行く。

 全員が侵入すると、出てくるなとばかりにエンテが入口を塞いで来る。


「退路が絶たれたな」


「まるでここに誘導された気がするんだが」


「相手魔物だぜ、そんな誘導とかする訳が……」


「待て、何かいるぞ!」


 小さな少女が彼らの前に居た。

 黒い素肌に漆黒の蔦が巻き付いた不気味な少女。

 頭からは双葉が生えて揺れている。


「アルセイデス?」


「おー……け」


「待て、様子が……」


 目がらんらんと赤く光るそいつが突然ケタケタと笑いだす。


「おけけけけけけけけけけけ」


「総員構えろ! 敵だ!」


 刹那。森が姿を変えた。

 そこかしこから伸びた蔦が兵士達を拘束する。


「クソッ!? 陽動だと!?」


「黒いアルルーナ!?」


「違う、魔物スカウターを見ろ、奴等名前が違うぞ!」


「ホントだ、ワルセイデスと、ワルルーナ!?」


「クソ、撃て! とにかく撃ち殺して逃げるぞッ!!」


 無数のワルルーナとワルセイデスに囲まれ、北方侵略軍の絶望的闘いが始まるのだった。

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