AE(アナザー・エピソード)その西部隊が先行していたことを兵士達は知らない
「ぐわぁ!」
銃弾を受け冒険者が負傷する。
アルセ神防具を身に付けてはいるモノの、顔や腕、足などの一部は剝き身だった金の無い冒険者が真っ先に犠牲になった。
負傷した彼らは後ろへと引いて無事なモノが前に出る。
しかし数千に上る兵士たちの連続射撃に近づくことも出来ず徐々に戦線は後退し始めていた。
「クソッ、こんなに苦戦するもんかよ!?」
西門防衛に回っていたゴードンは思わず呻く。
他の場所は大丈夫だろうか?
同じように押されていれば中央付近で挟み撃ちされることになるぞ。思わず呻くゴードンだが、仲間が負傷したのを見て撤退を決めざるをえなくなっていた。
「クソ、グラスホッパーズ一時撤退。けが人の手当てを最優先しろ。騎士団からは最悪王城まで引けと言われてる。急げ! 死人は極力だすんじゃねぇ!!」
黄金の全身鎧を煌めかせたゴードンが斧を投げる。
トマホークという斧で、投げることを前提に作られたこれは、一度投げれば円を描いて戻ってくる投擲武具であった。
ゴードンの得意武器で、近接遠距離を一つの武器で兼用できるのでお気に入りの武器だった。
トマホークが兵士を五体ほど斬り倒し、戻ってきた柄を掴み取る。
銃弾のお返しが来たが、腕で顔を隠して受け流す。
黄金鎧は無残にも穴空きとなるが、その下に着ていたアルセ神服に遮られ身体までは届かない。
「くあぁ、俺の黄金鎧が穴だらけじゃねーか。どれだけしたと思ってんだくそったれ!」
徐々に後退する西方防衛軍。
結局は国内に押し込まれ、鍛冶屋街と王城前への道に後退し始める。
ゴードン率いるグラスホッパーズは鍛冶屋街方面に逃げていたが、王城前の防衛軍はかなり壊滅的打撃を受けていた。
おそらく王城まで追い込まれてしまうだろう。
「はは、西門突破だ。全軍市街地戦開始! 他の征圧部隊と合流しマイネフランを蹂躙しろ!」
高らかと男の声が響く。
ゴードンは思わず歯噛みした。
だが、次の瞬間男の焦った声に訝しむ。
「は? 他の方門が突破されてない!? どうなってる!?」
「……西門以外は突破されてねぇのか? クソ、俺らが不甲斐ねぇみてぇじゃねぇか」
野郎共気合い入れろ! とばかりにゴードンがグラスホッパーズに激を飛ばす。
なんとか反撃を行おうとするが、敵兵士たちの銃撃が激し過ぎて彼らに反撃が出来ない。
このまま後退させられるだけか。悔しげに唸るゴードン。その頭上から、無数の影が差した。
「全軍前進止め、なんだ?」
敵の兵士達も異変に気づき空を見上げる。
鍛冶屋街道の左右に立てられた鍛冶屋や防具屋、武器屋の屋根に、彼女達は待っていた。
それは、アルセ神防具を身に付けた空の支配者。
「アルセ、頼んだ。我等、ニンゲン、助ける。全員、攻撃ーっ!」
翼を帝国兵へと振り下ろしたのは、ハーピークイーンのピッカである。
ピッカの号令の元、無数のハーピー達が空より急襲を開始した。
ある者は足に持っていた武器や防具を投げつける。
ここは鍛冶屋街。鉄屑、失敗作には事欠かず、武器屋の親父たちから事前に使ってくれて構わないと了承されたガラクタを敵軍へと落下させ始めたのである。
袋入りの剣の束が高所から落下してばさりと開く。
袋から飛びだした剣の群れが逃げ場の無い帝国兵達へと降り注ぐ。
先程まで押していた帝国兵は一気に劣勢に立たされてしまった。
これを見た冒険者達も気勢新たに突撃を始める。
前と頭上への攻撃分散を余儀なくされた帝国兵達が徐々に押されだす。
王城へ向かわせた帝国兵と分散したせいで半数に減っていた西方征圧部隊はハーピーの参戦で敗北への道を歩み始めたのであった。
「バカな!? 魔物が人間に協力だと!?」
「クソっ、なんだこのハーピー、ハーピーってのは考えなしの魔物じゃなかったのか、無駄に統率されてるぞ!?」
「がぁぁ!? 矢が、頭に矢がぁ!!」
混乱を始めた帝国兵に冒険者達が激突。アルセ神グッズで銃弾を弾きながら近づき、帝国兵を切り裂いて行く。
一部は銃を奪い取り帝国兵へと打ち込む冒険者まで現れ、それを見たハーピーが帝国兵を一人拉致して上空へ。他のハーピーが近づき銃を奪い取ると、帝国兵だけ落下させて両足で器用に銃を操りだす。
「あ、それおもしろそ、私もするっ」
空からアサルトライフルを連射するハーピーに興味を覚えたピッカが同じように兵士から銃を奪い取り両足に一丁づつ掴んで蹂躙を開始した。
ハーピー達がこれを真似て兵士達から銃を奪いだす。
「クソっ。ハーピーを優先して叩け!」
「無理だ、上から狙われる危険の方が高い、このままじゃ壊滅するぞ!」
「て、撤退、撤退だ!」
「やらせるか、よっ!!」
指示を与えていた帝国兵を見付けたゴードンがトマホークを投げる。
隊長格は気付きもしなかったようだ。背後の兵士達に指示を与えていたために、その首が飛ぶのにすら気付いちゃいなかった。




