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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その穴の先の恐怖を僕等は知らない

 マイネフランは東西南北に街門がある。

 北は聖樹の森があり、西はゴボル平原が広がり、東はオリーの森へ向う街道。南には街道と側面にメライトス森林。

 このため、部隊を四方向に向けて防衛せざるをえなくなっていた。


 防御部隊は騎士団と冒険者の混合チーム。

 各部隊均等に分けられた彼らは正午になった途端気合いを入れて武器を構える。

 遠くに見える敵兵士の群れもゆっくりと動き出したのが見えた。


 南の小高い丘の上にはアルセたちが陣取っており、既に戦闘準備を整えている。

 東の街道ではオッカケ達が銃撃を受けている。

 だが、皆気付いては居なかった。

 メライトス森林の奥地でひっそりと新日本帝国兵たちが部隊を展開し、スコップやショベルカーで穴を掘っていることに。


「そろそろ侵攻開始か。このトンネル作戦、果たして効果があるのかどうか」


「事前に調べた感じですとマイネフランはダンジョンの上に成り立っているようです。貫通すればダンジョンからマイネフランに出て第五の進入路から征圧できますな」


「ここは他の国と綿密に連携を取っているようで西大陸の中心的役割を持っているらしいからな、グーレイ教共々早期に潰さねばならん」


 隊長格の呟きに兵士たちは同意するように頷く。


「隊長、貫通しました!」


 ボロリ、掘っていた縦穴がついに繋がった。


「ふっ。マイネフランは気付きもせんだろうな。自分たちがダンジョンの上に居を構えていることに、そしてそこから兵士達が侵入して来ることに」


 男達は笑い合う。

 マイネフランが気付きもしない真下からの奇襲作戦。

 思いついたのはこの国がダンジョンの上に作られていることが下調べでわかったからである。


 思いついたらもう、これしかなかった。

 一度やってみたかったのだ。敵の不意を付いて敵地に潜入、内側から掻き回して蹂躙する都市制圧戦というものを。

 ダンジョンとは既に繋がった。後はマイネフランの中心地の天井を爆破してそこから急襲部隊を突入させるだけである。


 遊び心を忘れることなく侵攻する。

 所詮これはリアル型の侵略ゲームだ。

 増殖の勇者たちは下卑た笑みを浮かべながらロープを垂らす。


「奇襲部隊降下せよ。一応形なりに偵察部隊から向かえ」


 兵士達がダンジョンへと降下していく。


『偵察部隊より連絡、ダンジョン内はうす暗くヘッドライト必須。敵性は……ネズミ?』


 丸っこいネズミらしき生物が光に当てられ慌てて逃げる姿が見えた。


『はは、ネズミ共が逃げて行きやがる』


『この程度ならダンジョンも脅威にならないな』


「さっさと指定位置まで向かえ、脅威が無ければ再度連絡だ」


『了解』


 探索部隊からの通信が切れる。

 簡易指令部を作ったリーダー格はふぅっと息を吐いて周囲を見る。

 ここは森林地帯だからか鳥の鳴き声や木々のざわめきしかないが、静寂というものが一秒すら無いように感じる。

 いい森だ。できるなら平和になった世界でこの辺りを探索するのもいいかもしれない。

 そんな事を思っていた時だった。再び通信が繋がる。


『せ、斥候より緊急連絡ッ』


「緊急? どうした?」


『あ、相方が……相方が黒くなりましたっ!!』


「……はぁ?」


 隊長は思わず小首を傾げる。


「なんだそれは? 黒くなった? 日に焼けたか?」


 どういう意味だ? 隊長は思わず周囲に視線を向けるが、部下役の増殖の勇者たちも理解不能らしく小首を傾げるだけだ。


『お、おい、そう言うお前も黒くなってるぞ!』


『え? うわ、何だこりゃ!? なんだよ、どうして……』


『ちょっと待て、何か変だこのダンジョン。ひぃっ!?』


「おい、おいっどうした!?」


『『う、うぎゃああああああああああああああっ!!?』』


 耳をつんざく悲鳴が起きた。

 驚く隊長が必死に呼びかけるが、斥候たちからの応答が消える。

 何が起こったのかは分からない。だが、兵士たちはごくりと喉を鳴らして穴を覗いた。

 黒く染まった穴の底が、不意に不気味に見え始める。


「何が……いる?」


「た、たいちょぉぉ」


 穴の底から光が差し込む。

 なんだ? 思ってヘッドライトで照らすと。そこには斥候の一人が戻って来ていた。


「おお、戻って来れたか! 何があった!?」


「身体が、だるいんだ。黒く染まって、俺、どうなって……」


 真っ黒に染まった兵士が助けを求めてロープを掴む。

 待ってろ、今助ける。と一人の兵士がロープを引っ張り始め、男を引き上げる。

 だが、半ばまで引っ張り上げたところで止まった。


「ひぃっ!? な、なんだよその身体!?」


 全身を黒く染めた兵士を見て息を飲む。

 その黒い兵士から、何かが飛んだ。

 小さな何かはロープを掴む男の腕に飛び付き、吸血。


「いって!?」


 慌ててはたき落とし、ついでにロープも手放す兵士。

 その身体もまた、徐々に黒く染まりだす。


「う、うわぁ!? か、感染した!?」


「待て、これは……」


 隊長はその姿と、先程飛び付いていた何かを見て気付いた。

 気付いてしまった。

 即座に感染した男を蹴り落とす。

 悲鳴と共に深い穴へと投げ落とされた男がダンジョンの床に激突した。


「た、隊長何を!?」


「穴を塞げッ! 今直ぐだ! 急げ!!」


「何をバカな!? 斥候たちがまだ残ってるんだぞ!? いくら替えがきくっつっても見殺しは……」


「全滅するぞ! 急げ、アレは黒死病、ペストだ!!」


「ぺ……い、急いで穴を塞げッ!! 封印するぞ!!」


 兵士たちは慌てて空けた穴に土を被せていく。


「お、おい止めろ!? 俺たちはまだ生きてるっ」


「黙れッ! 既に感染したお前らは助からん。ペスト菌が漏れだす前に急いで塞げ。なんてダンジョンだ!? まさかマイネフランのトラップじゃないだろうな!?」


 こうして地下からのマイネフラン急襲作戦は失敗に終わったのだった。

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