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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その漢の最後を僕等は知らない

「オルァッ、オルァーッ!!」


 辰真は走っていた。

 ゴボル平原を番長たちに任せ、彼は一人コーカサスの森を泉に向かって爆走していた。

 急がねばならない。泉はもう目の前だ。

 頼む、皆、無事でいてくれっ。


 幸いここまで敵兵士と遭遇することは無かった。

 だからこそ、不安が募る。

 この近辺に居ないということはさらに奥地に集まっているということでもあるのだから。


 頼む、絶望的状況だけは俺に見せないでくれ。

 神に祈るように辰真は駆け抜ける。

 森を突っ切り、木々をかき分け、自身が枝や葉で身体を切り裂くのも気にせず泉へと辿り着く。


「オルァ!」


 皆無事か! 叫ぶ辰真に気付いたようで、申し訳なさそうなツッパリ達がわらわらと現れる。

 それだけじゃ無い、レディースの群れも辿りついていたようで、彼女達も一緒にやってきた。

 遊びに来ていたらしいヒャッハーも数人いる。


「ルァッ」


 良かった。お前ら、無事だったか。

 喜びを露わにする辰真。

 しかし、ツッパリ達の顔は晴れない。


「オルァ?」


 どうした?

 嫌な予感を覚え、辰真は尋ねる。

 聞きたくない。そう思ったが聞かない訳にはいかなかった。


「オルァ……うっ、ぐすっ……オルァァ」


 するとツッパリの一人が声をだし、胸一杯に詰まった感情を噴き出すように涙を流す。


「オルァ」


 こら、男が泣くんじゃねぇ。泣いていいのは……

 そんな事を言おうとして、ツッパリの一人が指差す方向に視線を向けて声を失う。

 そこには、居る筈の無い生物が横たわっていた。


 ピンク色のポンパドール。ピンク色のガクラン。なにより筋肉質に厚ぼったい唇と長い睫毛は見忘れるはずもない。

 裏番長。辰真を心底好きだったツッパリが特殊進化してしまった史上最悪の番長である。


「オルァ……?」


 何でこいつがここに?

 倒れた裏番長は全身に銃弾を受け、見るも無残になっていた。

 まだ、少しだけ意識があるようでピクリピクリと痙攣しているが、もう先が長くないのはすぐにわかった。


「お、おるぁ……」


 涙ながらに、ツッパリの一人が告げる。

 番長が……ここに残ってくれた番長が、俺らを助けるために……

 それだけで、辰真は察した。察してしまった。


「オルァッ!?」


 即座に裏番長に駆けより、彼を抱き起こす。


「お、オルゥァ」


 あら、辰真さん。戻って来て下さったのですね。愛しいお方。

 うふっと笑みを浮かべる裏番長。

 だが、その微笑みに力は無かった。


 お前……番長なのか!? この泉に待機させた……番長なのか!?

 否定は無かった。ただ、力無く辰真へと上げられた手が辰真の頬を撫でる。


「おるぅぁ……」


 やっぱり、素敵だわ辰真サン、約束は守ったの、だから今度……デートしてくれない?

 そんな言葉を告げる裏番長に辰真は涙を流し、ああ約束だ。と告げる。

 辰真と裏番長の約束が果たされることは無い。だが、裏番長は満足げに微笑む。


「おるぅ……ぁ……」


 ありがとう……その言葉だけを残し、裏番長の瞳から光が消えた。

 辰真の頬に当てられた掌が力無く滑り落ちて行く。

 地面に腕が当る。その腕に、熱き涙がぽたりと落ちた。


 番長は決断したのだ。

 今の自分では帝国兵相手に敵いはしない。

 辰真に託された仲間たちを守ることが出来はしない。

 だから、彼は……裏番長に特殊進化する事を選択した。


 やり方は簡単だった。

 もともと裏番長がどうやって生まれたかを知っていたのだ。憧れる男に憧れだけでなく恋心を持てばいい。辰真にならば抱かれても構わない。強く思い描くことで彼は即座に進化した。

 後はただ、皆を守るために兵士達を蹂躙すればいいだけだ。


 抵抗はすさまじかった。

 全身が穿たれた。

 それでも裏番長は諦めなかった。

 背後に守るべきモノ達がいるのだから。最愛の総長に託されたのだから。


 だから、彼は命を賭けたのだ。

 自分の死と引き換えに、新日本帝国兵を全て撃破した。

 もう泉は安全だ。それを確認し、倒れた。

 このまま息絶える、その刹那、憧れの辰真が来てくれたのであった。


「おお……おオオオオオオオオオオオオオオオオッ」


 辰真は涙する。

 彼の腕の中で眠る真なる漢の骸を抱え。

 辰真を囲み、ツッパリもレディースも同じく嘆く。


 彼らは無事に生き残ったのだ。

 文字通り、命を賭けて守り通した番長の御蔭で。

 辰真も、ツッパリも、レディースも、皆の気持ちが一つになった。


「なんとか泉に辿りつけた。セレディさん子供たちは?」


「ブヒ」


「そりゃよか……なんだ?」


 泉へと、セレディに連れられたオークたちが……


「ブヒ」


「ああ、良かった、セレディ達も無事だったのね!」


 バズと共にエンリカが……


「キュー」


「皆さんご無事でしたかっ」


「全員聞いてくれ、これより俺を筆頭に遊撃隊を組織し……どうした?」


 アルベルト率いる古代人部隊、戦乙女の花園、スマッシュクラッシャーたちが合流する。

 皆、友の亡骸を胸に涙する辰真の元へと集まって行く。


「オルァッ」


 涙声で辰真は叫ぶ。

 新日本帝国、この御礼参り、高くつくぞ。と。


 そして……セルヴァティア遊撃軍が動き出す。

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