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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのマイネフラン周辺の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その王国が捨てられたことを僕等は知らない

「クソッ、このままでは蹂躙される!」


 セルヴァティア王国内では、無数の柩が立ち並び、新日本帝国軍の銃撃を跳ね返していた。

 古代人たちは己の柩を盾にしながら防ぎはできているものの、帝国兵の進軍を止めるに至らない。

 逃げようにも柩を盾にじりじりと後退するしか術がなく、追い付かれた個体が破れかぶれに柩を振りまわして兵士を薙ぎ払うも、銃弾の餌食となり露と消える。


「折角、生き返ったのに……」


「こんな奴等に再び国を滅ぼされて溜まるものかッ」


 口々に叫びを上げるが、防戦一方の彼らは徐々に王城へと後退させられていた。

 既に犠牲となった古代人は十人に上る。

 皆、他の仲間を逃すために殿として突撃した者たちだ。


 なのに打つ手がなく仇も撃てない皆は唇を噛んでやがて来る自分の番を待つしかなかった。

 否、今までは、である。


「総員、放てッ!!」


 不意に、自分たちの背後から凛とした声が聞こえた。

 城壁から無数の煌めきが帝国兵へと降り注ぐ。


「何だあれは!?」


「ふははははは。不甲斐ないぞ我が国民たちよ。さぁ、悔しい時間は終わりだッ。悲しみに暮れるだけの時間は終わりだ。我が名はセルヴァティア王国国王、水晶剣の勇者、アルベルト・ファンク・オルランドであるっ!!」


 着弾する水晶剣の群れ。帝国兵を薙ぎ散らす。

 防御を行ったモノもいたが、やすやす貫き盾ごと兵士を撃破した。

 空から襲いかかる数千本の水晶剣に、流石の新日本帝国兵も驚きを隠せなかったのだ。


「ゆ、勇者様!?」


「クーフ、水晶剣を持て、打って出るぞ!」


「ハッ!」


「全員水晶剣を持て! 我が国が生産した全ての剣を持ち、最後の一本になるまで敵を殺しつくせ! 一剣一殺! 水晶剣王国セルヴァティアの実力を見せつけてやれ!!」


 蹂躙が、始まった。

 鬨の声を上げながら防戦から突撃へ。

 柩を盾に柩から水晶剣を引き抜き全古代人が一斉蜂起する。


「何だと!?」


「え、ええいひるむなッ! 撃て!」


「う、上からさらに水晶剣! 隊長、避けきれませ……がぁ!?」


「クソっ、引け! 防衛拠点に引くぞッ」


 隊長格が慌てて撤退を指示する。

 だが、判断が遅かった。

 空からの水晶剣に気を取られ、迫る古代人から目を離してしまったのだ。

 城に居た古代人も一斉に飛び降り駆けだして、柩を盾に剣を持つ。


 一人の水晶剣が防具すらも引き裂き一人の帝国兵の息の根を止める。

 続くようにさらに一人、また一人と、古代人たちの水晶剣が帝国兵を貫いては粉砕していく。

 周囲に散らばる水晶の粉。

 煌めく戦場は、なぜか華やかに見えていた。


「バカな、こんな……」


「水晶剣を甘く見たな小僧ども」


 はっと気付いた時には隊長各の男の側にアルベルトが立っていた。

 周囲を見回せば既に他の兵士と切り離され、一体一の状況に陥っている。


「ま、待て、話せば、話せば分かる……」


「話は付いている。降伏しろ? 答えはノーだ」


 男の顔面に水晶剣が突き刺さる。

 パキィンと澄んだ音と共に水晶剣が弾け飛び、男の身体をきらきらと彩る。

 ぐらり、傾ぐ男から興味を無くし、アルベルトは周囲を見回した。

 既に逃げ散った帝国兵はこの近辺から居なくなったようだ。


「クーフ、生存者を集めろ」


「反撃に出ますか?」


「いや、国を捨てる」


「……は?」


 アルベルトの言葉が理解できず、一瞬間抜け面を晒すクーフ。


「見ろ、このセルヴァティアを。長年の雨風で朽ち果て、守るに不得手。幾ら我々で復旧したと言ってもまだ中途、なれば此度は国を守る意味はあるまい」


「それは、そうですが……ではどうなさるおつもりで?」


「マイネフランや他の国も危険になっているんだろう。なら、遊撃部隊がいてもいいよな?」


「そ、それは!?」


「とりあえず全員脱出。森の仲間たちと合流し連合軍を組織、その後散開して敵軍勢を叩くぞ!」


「さ、流石勇者王、考えることが違いますな」


 驚きながらも近くにいた古代人が褒めてくる。


「そう褒めるな。照れるではないか。あ、娘さんがいるなら紹介してくれてもいいぞ?」


「勇者様……」


 呆れた顔でクーフに窘められ、咳払いでごまかすアルベルト、その周囲に古代人たちが集まってくる。


「正門から出るのは得策ではありませんが?」


「無論だ。このまま南東に向かい壁を破壊する。なぁに、戦後はちょっと余分な補修がいるだけだ。気にせず破壊してそこから脱出、まずは泉を目指そう」


「了解しました」


 古代人たちは一度故郷を振りかえり、しかし、国民も王もここにいると皆廃墟を一度捨て去り遊撃部隊となることを決意するのだった。

 ここにフレッシュゾンビゲリラ部隊が結成されたことを、まだ帝国軍は知りもしなかった。

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