AE(アナザー・エピソード)その未だ来ない助っ人を僕等は知らない
「もう、開戦だぞ!? アルセ姫護衛騎士団からの助っ人はまだか!?」
ナーロイア王国ではチーク王が唾を吐き散らして叫んでいた。
ナーロイアの街並みを保護するためにも絶対に敵を国内に入れる訳にはいかない。その為にアルセ教教会までも街の郊外に構えて貰い、景観を損なわないようにしたくらいである。
民衆全員がアルセ教教会の地下に避難しており、国王は教会前で新日本帝国軍に対峙する自国の兵士達の激励を行っているところだった。
開戦時間はもう間もなく。
しかしアルセ姫護衛騎士団から連絡のあった助っ人の姿はまだ見えない。
離れた場所にナーロイアがあることも理由の一つだろうが、この時間になってもまだ助っ人が来る気配を見せないのが不安しかない。
本当に来てくれるのか? もしかして見捨てられたのか? そもそも助っ人に数人来たところでこの国を守ることなどできるのか?
国王の不安を肯定するかのように時間が先にやってくる。
時間だ。と新日本帝国軍のナーロイア殲滅部隊部隊長が立ち上がる。
「全体、戦闘態勢!」
号令と共に一糸乱れぬ動きで戦闘準備を整える新日本帝国軍。
目と鼻の先で行われた行動に、チーク王がキモを冷やす。
「国王陛下、お早く避難を。教会内部で吉報をお待ちください」
「き、吉報なのか? 本当に、アレに勝てるのか? 頼むぞ? 本当に頼むぞ!?」
「我々とて死ぬ気はありませんから、さぁ、お早く!」
騎士団長に促され、大臣たちに扇動される形で国王が教会内へと去って行く。
「……さて、リーオ、ヘルマン、お前達は教会内で待機だ。もしもの場合は、頼む」
「「はっ、はい……」」
騎士団長に言われた二人の兵士が青い顔で頷く。
自分たちの仕事が来た時は、文字通り、ナーロイア防衛軍が殲滅した後だ。
教会地下への階段を完全に塞ぐ役目を帯びた二人は、教会内地下通路入口で待機する。
二人が教会内へと入ったのを確認し、騎士団長は全軍に告げる。
「これより先、我等ナーロイア防衛軍は死線に向かう、全員、俺に命を預けてほしい。行くぞ!!」
防衛軍兵士達が雄叫びをあげる。
無機質に迫る帝国軍が銃を構えた。
もう、戦闘が始まる。そう、思った次の瞬間だった。
「の――――じゃぁ――――っ!!」
大空よりそれは来た。
新日本帝国軍のど真ん中に巨大な召喚陣。
次々に出現する丁髷姿の男達。
「おじゃるでござるのじゃ――――っ!!」
ペリルカーンに乗ったワンバーカイザーに乗るのじゃ姫が地表に殿中でござるの群れを召喚したのだった。
ぺズンのアルセ教教会に、多くの人が集まっていた。
地下空間に向かう一団だが、数が多いためにまだ教会に入り切れていないのだ。
特に最初に貴族連中が大挙して民間人を押しのけていたため、列を作っての移動すら出来なかったのである。
ぺズン王は現状を見つめながら隣に佇む娘の友人を見る。
オヒシュキの前で泡食っている彼女は水先案内人の一人ではあるが、なぜか重役に囲まれて生きた心地がしない状態のようだ。
何しろ右に国王と王子二人。後ろにオヒシュキ、左に大臣連中、前に近衛騎士団長。
騎士団長は現状を報告するためにいるだけだが、重役に囲まれた彼女はもう泣きそうな顔である。
何で私ここにいるの? そんな彼女は友人であるセネカに「セネカ早く来て」と連呼し始めている。小声なので周囲には聞こえてないようだが、国王にだけはしっかり聞こえていた。
「アフロ狩りガニ……ではなくえー、アフロ好きガニ? が到着しました。冒険者を引き連れ敵と闘ってくれるそうです」
「うむ。それで、アルセ姫護衛騎士団からの助っ人はそれだけか?」
「いえ、セネカ王女たちがいらっしゃるそうですが、何ぶんマイネフランからの空輸なのでしばしの時間がかかるようです」
「ふむ。間に合わんかもしれんか」
「奴らが言った正午まで後少し。ぎりぎり間に合いませんね。国王陛下、本当に最後でよろしいのですか?」
「構わん。娘が戦場に立つと言うのに我が穴倉に閉じこもるなど恥もいいところだが、この国の未来をと考えればそうするしかないしな。せめて娘が全力で事に当れるよう、全ての民の収容だけでも確認する」
「で、では私はその……」
「オヒシュキよ。この者の守護、任せたぞ」
「ヒヒン!」
オヒシュキが一声上げると水先案内人の女性を口で掴んで背中に投げ上げる。
「わひゃ!? えええっ!? 私、あの、避難……」
「諦めろ」
「そ、そんなーっ。セネカの馬鹿ーっ。私を巻き込まないでぇぇぇぇっ」
少女の叫びが木魂する。
しかし誰も彼女を助けようなどとは思わないらしく、水辺から離れて水上を移動し始めるオヒシュキに連れられて、彼女一人がどこかへと連れ去られて行くのだった。




