AE(アナザー・エピソード)その決死隊出撃を僕等は知らない
「全員整列ッ!!」
ダーリティア帝国広場にて、ダーリティア兵士団が整列していた。
間もなく敵が行動を開始するというのに、陣地作成組以外は国内広場に全員集合していた。
というのも、援軍としてやってきた紫炎蜉蝣のリーダー、リファインがなぜか彼らの総司令官に任命されたからである。
破壊された王城は緑の蔦で新しく組み上げられており、ダーリティア帝王がレティアという近衛騎士を侍らせバルコニーから見ているのがここからでも見える。
狙い撃ちされかねない状況だが、新日本帝国軍が行動を開始するまでまだ少しの時間があるので自国の兵士たちを見ているそうだ。
「貴様等を訓練してやりたいがあいにく時間が無い。即席だが今までの練度で事に当って貰うことになる。おそらく死人がでるだろう。悔しいが貴様等を軍人として鍛えることはできなかった」
リファインの張り上げられた声に兵士たちは戸惑いを浮かべている。
それはそうだろう。
突然やってきた女がトチ狂ったような言葉を吐き散らしているのだ。
「だが、安心してほしい。アルセ姫護衛騎士団とは違うが、我々赤き太陽の絆に所属していた紫炎蜉蝣がこのダーリティア帝国を守護しよう」
「あ、隊長。私たち既にアルセ姫護衛騎士団です」
「そうなのか。まぁいい。では、各自持ち場へ迎え!」
ダーリティアの街中に既に人はいない。
王城に全員が避難し、門を堅く閉ざしているのだ。
安全は確保されているので、あとは敵を駆逐するだけである。
前回アルセ姫護衛騎士団が四方向から攻め寄せたことを踏まえ、ダーリティア王たっての願いで南門以外の門は閉ざされ、防衛網も強化されている。
だからだろう、新日本帝国軍も殆どの戦力を南に集結させていた。
リファイン、メイリャ、テッテ、コータ、ハイネス、ローアの六名も騎士団たちと共に南門へと向かって行く。
もともと敵軍からすれば反逆者は全殺し確定なのだ。逃さない包囲はすれども王城を後ろから攻撃等という楽しみが半減する戦略をする気は無く、正面から堂々駆逐するつもりらしい。
ダーリティア軍にとってはありがたいことだが、リファインには少々物足りないと思わせている布陣であった。
コットン共和国では国王の前に軟禁状態の男女がやってきたところだった。
ハーケン・ディアル・コットンは彼ら、ヘンリエッタとホーキンスを見て溜息を吐く。
「当然、私も出ますわ!」
「ヘンリエッタ。今回は死ぬ可能性が高い闘いだ。そなたらが軟禁だったとはいえあそこから出て来て城に来るように告げたのは、避難のためだぞ?」
「お義父様の言い分はもっとも。しかれどもヘンリエッタ共々私はこの国の為に立ち上がりたく思います」
「しかしだな……」
食い下がるヘンリエッタとホーキンス。そんな彼らに助け船を出したのは、横で聞いていた次期国王、ハーケンの息子メルトガルドであった。
「良いではないですか父上」
「メルトガルド?」
「私も問題ないと思います。アルセ姫護衛騎士団からの援護は私がいるのでないそうですし、今は一人でも闘える人が欲しいでしょう?」
「そ、それはそうなんだが……え? アルセ姫護衛騎士団の助っ人来ないの?」
「え? はい」
聞いてないよ? と王が目を見開く。何を当然と言った様子のモスリーン。
そう。コットン共和国にはモスリーンが居たのでアカネは援軍を送らなかったのである。
しかし、コットン共和国としては不安しかない。
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう? 兵士は全員アルセ神防具で固めてますし、投石機や連弩も揃ってます。さらには城がアルセのヒヒイロアイヴィ製。最悪城に籠れば数カ月は持ちます。そんな時間かけずとも数日で決着は付くでしょうから我が国は防戦すべきだと提案しますよ」
コットン共和国の民衆は全て城内。
壁はヒヒイロアイヴィ製。通気性は抜群だが有毒成分は一切通さないアルセ特性の防壁で作られた城。ちゃんと窓を全て締めればまさに鋼鉄の隔壁となる。死ぬつもりはないが篭城戦を行うならば最適だ。これ程篭城に適した城は他にないだろう。
「で、では、我が国は篭城すれば問題ないのか?」
「はい。アカネさんからもそう聞かされてます。兵士達も全て城に収容し、決して城門を開くことなく我々の勝利を待て。と。勝利したなら神からの声があるだろうって」
つまりは神からの声があるまで篭城する。それだけでコットン共和国は闘うことなく生還できるそうなのだ。
「サージェン! 全軍に通達。城のドア、窓、侵入経路を全て塞げ!! そういうことだヘンリエッタ、ホーキンス。お前達も待機。絶対に外に出るな!」
「えーっ」
「仕方ないですね。ヘンリエッタ。下手に動いて貴女が滅亡の切っ掛けを作らないようにして下さいよ」
「ちぇっ。仕方ありませんわね」
こうしてコットン共和国は篭城戦を行うことに決まった。




