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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十五部 第一話 その侵略による悲しみを僕らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その逃げだす者を僕等は知らない

「うおおおおおおっ」


 正午を回った。

 ドドスコイ王国前門に、既にやって来ていた忠志は、相手の姿を見て即座にオーゼキに指示を飛ばし、入口をアルセ神全身盾を持った兵士達に固めさせた。

 しかし、血気盛んな冒険者が数人、その盾を押しのけ敵陣へと駆けて行く。


「時間だ。返答はナシ。蹂躙を開始する」


 敵兵士長が静かに告げる。

 兵士たちが銃を構え、迫り来る冒険者達に一斉射。

 悲鳴と共に冒険者達が蜂の巣となり、どぅと倒れた。


「お、おい、なんだよアレ?」


「あんな武器持ってるとか聞いてねぇぞ!?」


 様子見をしていた冒険者達が全身盾に連続して当る鉄塊の音を聞いて不安げに呟く。

 そんな声を聞きながら義勇兵として参戦するつもりだったサーロは震えていた。


「い、いやいや、無理っしょ」


「サーロ?」


 実際、彼の取り巻き連中はさっさと城に避難してしまった。

 彼と相棒のルーシャだけは、自分たちはアルセ姫護衛騎士団の一員だから。と防衛軍に参加したのである。

 あるのだが……さっそくサーロは怖気づいていた。

 その歯茎は物凄い音を鳴らしており、両足の膝が爆笑するようにかくかくと小刻みに揺れている。


 不釣り合いな場所に連れて来られた。そんな後悔が彼に押し寄せていた。

 ゆっくりと、近づく新日本帝国兵の規則正しい靴音が響く。

 そのザッ、ザッと近づいてくる無数の靴音に、サーロは完全に無理。だと悟る。

 勝てるわけがない。ここに居れば確実に死ぬ。殺される。


 だって、どれ程の魔法使いが全身盾の後ろから無差別爆撃で敵を蹂躙しても、恐慌状態になることも行軍が止まることも無く、ゆっくり、確実に近づいてきているのだ。

 今はまだ、かなりの距離があるし、全身盾があるからダメージも被害も出てないが、いや、無謀突撃したバカな冒険者たちは勝手に死亡したが、それでも、時間の問題。

 あの盾の元へ敵が接敵した時が最後、盾を引っぺがされればここにいるメンバーは全て死亡するだろう。


 あいつらは遊んでいるのだ。

 ゆっくり近づきながらこの国の兵士達が勝手に瓦解するか、それとも最後まで持たせるも自分たちの銃により呆気なく全滅するか。賭けでもしながら、そして笑いながら蹂躙するつもりなのだ。


「で、伝令ッ! 城の後ろより新日本帝国兵と思しき男が一人!」


「え? 一人?」


「お、おそらく報告にあった女神の勇者かと思われます。迎撃に向かった兵が悉く拳の一撃で粉砕されてますっ」


「そんな!?」


 息も絶え絶え駆け寄ってきた伝令からの言葉を聞き、オーゼキと忠志が焦りを見せる。

 前門だけでも手一杯。否、手に余る状況なのだ。これに加えて女神の勇者とやらが単騎突撃。このままでは国が終わる。この前門を守っても城が破壊されてしまえば終わりだ。


「い、今は勇者様方が迎撃に向かってくださって牽制を、父を呼んで来てほしいと、息子さんが」


「隆弘が!? ぐぅ……しかしここを抜けるのは……」


 戸惑う忠志、オーゼキとしても家族の元へ行かせてやりたいが、今、ここから忠志を引き離すのもまた、愚の骨頂。あの軍隊に対処策を講じれるのもまた、忠志だけなのだから。


「冗談じゃねェ……」


「サーロ?」


 サーロはルーシャの言葉を無視するように走りだす。


「ちょ、どこ行くのサーロ?」 


 慌てて追うルーシャ。速度的には兎人族になったルーシャの方が速い。一足飛びするだけでサーロに追い付き、後はサーロに合わせて直ぐ横を走る。

 そんな二人が去って行ったのに気付くことは無く、忠志は決意を込めた瞳で全身盾の向こう側を睨むのだった。




「こんな……酷い」


 沙織は呆然としていた。

 城の背後に王族脱出路が存在しており、そこを移動して出てきた場所には、無数の兵士の死骸があった。

 その中心に、一人の男。

 筋肉質の男は粗野な笑みを浮かべて唯野家三人を見て笑う。


「おいおい、兵士の次は女と子供かぁ? まぁいい。とりあえず俺の仕事はあそこの城を破壊することだ。邪魔しねぇ限りは手はださねぇから好きに逃げなぁ。まぁ、逃げ場なんざねーけどなぁヒャハハハハ」


「な、なんだよあんた。あんたも、新日本帝国の奴か?」


「おぅ、坊主。良くわかったなァ。鋼鉄の勇者だァ、まぁ知ったところでテメーらにゃぁどうでもいいことだろぉがな」


 隆弘は姉に一度だけ視線を向ける。

 ごくり、生唾を飲み込みながらも沙織は頷く。


「ファイアーボール!」


「あぁン?」


 飛んできた炎の塊を軽々裏拳で弾く。

 しかし、軽い一撃をはじいたにしては怒りと憎悪を隆弘へと向ける鋼鉄の勇者。


「折角見逃すっつったのによぉ。死んだぞテメェら?」


 ビキリ、鋼鉄の勇者の筋肉が盛り上がる。

 ヒャハっと走りだす鋼鉄の勇者。その速度はまさに弾丸。

 慌てて魔法障壁を張る沙織。

 遅れ、鋼鉄の勇者の拳が隆弘を吹っ飛ばした。


「あぁン? なんか殴った感覚が変だったな」


 地面に激突、二転三転、ぼろぼろにされながらも隆弘はなんとか立ち上がる。

 危なかった。沙織の障壁が間に合わなければ自分は今ので死んでいたかもしれない。

 恐い。起き上がるのも、立ち向かうのも。

 でも……


 その瞳に焼きつくのは父の後ろ姿。そして、自分がここに来る時涙で別れを告げたミズイーリの祈る姿。


 なるんだ、父さんのように。

 守るんだ。ミズイーリを、そしてこの国の人たちを。

 だから、痛いけど、恐いけど……立ち上がれっ。

 母の悲鳴も姉の心配も放置して、隆弘は歯を食いしばり魔法を唱えるのだった。

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