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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十五部 第一話 その侵略による悲しみを僕らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その神への信望を僕等は知らない

 黄金に輝く教会で、彼は一人祈りを捧げていた。

 周辺国家は打ち捨て、ダリア連邦は首都へと全住民が移動済みであった。

 さらには新日本帝国の兵士により国が囲まれている。

 逃げ場は無い。


 首脳会議では未だに開戦派と服従派が紛糾しているが、もはや生き残るためには開戦しかないという話へと移行しつつある。

 服従したところで女性が虐げられ、男は強制労働という事実が服従など無意味だと多数派になっているのだ。


 そんな首脳会議から抜けだしたステファンは、自宅へと戻って来て敷地内に存在するアルセ神教会で己が神に祈りを捧げているところだった。

 それもただの祈りではない。

 傅いて両手を合わせ、瞑目しながらの祈りではないのだ。

 彼と、アルセ神信徒ダリア軍のメンバーは皆がその場で五体投地しながら祈りを捧げているのであった。


「ああ、我が神アルセ神よ。愚かにも貴方様とグーレイ神に仇なした愚かなる者たちを誅することをお許しください。私ステファン、そして信徒の全てはこれより修羅と化し、我らが神敵を必罰いたします」


「ステファン卿! 間もなく正午、我等ダリア連邦は他国と共同し新日本帝国撃破を決定致しました! つきましては貴殿の……」


「ようやく重い腰をあげたか。皆の者聞いたな!」


 立ち上がったステファンはアルセ神像から目を離すこと無く教会を後にすると、扉を閉じて報告に来た兵士に身体を向ける。


「既に準備はできている。我等アルセ神信徒一同、全生命を掛けて邪神の使徒を駆逐する。全軍、戦闘開始だっ!!」


 強烈な鬨の声が周囲に木魂した。

 あまりにも強大な豪声の轟きに、ダリア連邦を包囲していた新日本帝国兵たちがなんだっと驚き戦闘態勢に入りしばらくその場で警戒したほどであった。




 時を同じく、グーレイ教本部の大聖堂では、グーレイ神へとポンタが祈りを捧げていた。


「猊下、アルセ姫護衛騎士団が我が教会に到着しました」


 彼の元へやってきたのは元神殿長レイァール。今は心を入れ替え神殿に存在する信徒たちの身体のケアを行っているらしい。

 本日は戦争が近いということもあり、彼女も休暇となっているようだ。


「そうですか。しかし、慣れませんねレイァール。貴方は今まで男性でありましたから」


「ふふ。女になってみて思うのですが、これはこれで楽しい人生ですよ。アルセ神には感謝しております。女性を持て遊ぶことは害悪、なれど男性の心と体のケアをこの身で行うことは善」


「え? 善……」


「今はとても充実しております」


 うわぁっと嫌悪を向けるポンタを無視して去って行くレイァール。大神殿入口にアルセ姫護衛騎士団のメンバーを待たせているそうなので、ポンタは最後に一礼、グーレイ神像へとお辞儀を行い彼らの元へと向かう。


「グーレイ神様からはもしもの場合は使えと言われたけど、そんなことになったら、この世界は終わってしまうんじゃないのかな? いや、でも……アルセ姫護衛騎士団の皆さん。きっと貴方達に頼りきりになってしまう気がします。それでも……」


 一人呟きながら通路を歩き、ポンタは教会の入り口広場へとやってくる。

 そこにはアカネとルグス、そして十匹のにゃんだー探険隊が待っていた。


「お待たせしました」


「あら、別に切羽詰まってはいないのだから気にしなくていいわ」


「しかし、アルセ教枢機卿自らが応援に来て下さっているのですから、悠長に歩いて来る訳にもいきません」


「ふん。このゲス娘など三時間くらい待たせておけばいいのだ」


「オイコラ骸骨」


「そもそもロックスメイアに近づけなくなったのも貴様のせいだろうが。御蔭で誰も援護に向かえずロックスメイアの長が焦っていたぞ」


「アレは自業自得でしょ。知らないわよ」


 ロックスメイアは完全なとばっちりなんだろうなぁ。そんな事を思いながらポンタはグーレイ教がアルセ教と敵対していなかったことに心底安堵する。

 こういう非常事態ではアルセ姫護衛騎士団の力は少しでも欲しいものだったのだから。


「我が国は神官が多いため実質的な戦力はあまりありません。一応神殿騎士団がございますが実践を行った経験が無いですし」


「その為に来たのよ私達がね」


「にゃんだーたちが言うにはこの教会の地下に巨大な施設があるらしい、そこにまずは国民を……」


「問題ありません。グーレイ神が作った避難施設らしいですから既に把握済みです。国民はほぼそちらに収容してあります。私もそちらに向かうつもりです」


「そう。じゃあ義勇軍と私達だけってことね」


「すいません」


「謝る必要は無いわ。むしろ邪魔なのが居ないだけ思う存分やれるってモノよ」


 ふふっと笑うアカネさん。絶対やらかす気だと思ったルグスだが、誰もそれを止める存在が居なかったので黙っておく。どうやらその辺りも加味してこの面子でここに来たらしい。


「さぁってルグス、新日本帝国の奴等に目にモノ見せてあげようか」


「うむ。同じ元日本人として、奴等の暴走を食い止めねばな」


 アカネとルグスが肩を揃えて歩き出す。

 その後ろ姿を見守り、ポンタは一度頭を下げる。

 この国を、グーレイ神が愛する世界を守ってください。

 命運を任せるしかできない力無き一人のニンゲンとして、彼らへと思いを託すのだった。

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