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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十五部 第一話 その侵略による悲しみを僕らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その国に必然的に来た者を僕等は知らない

「女王陛下、ご決断を!」


 勝つことなど出来はしない。無条件降伏を行うべきだ。

 臣下の者は皆がそう決断した。

 悔しい日々にはなるだろう。しかし、民を守るにはそれが一番だ。


 コイントス上層部は出した決断を胸に女王マリナに直訴していた。

 昼まで結果を待つ。それまでに降伏の返答が無ければ無慈悲なる蹂躙を開始する。

 そんな事を告げられたコイントスは今、蜂の巣をつついた状態だった。


 兵士たちの練度は高くなく、これと言った防衛設備も無い国だ。

 一応アルセ神グッズは兵士全てに支給されているし、アルセ考案の投石機などは設置済みだが、練習すらしていない状態なのだ。これで戦争など無謀というモノである。

 しかも指揮をくだせるような指揮官もいなければ、万夫不当の英雄も居ない。

 これで千を超す大軍勢を相手になど破滅しかない。


 だが、彼らの降伏案を黙って聞いていたマリナはふぅっと息を吐くと、宰相が鞭を手渡す。

 受け取ったマリナは立ち上がると共に直訴してきた大臣を鞭で打った。


「あっ」


 ハートマークを付けたような声をだしたおっさんを蹴り飛ばし、マリナは全員に視線を向ける。


「とぉーっ!」


「ば、馬鹿な!? 開戦準備ですと!? 現状はお聞かせしたでしょう、このままでは我が国が滅びますっ」


「そうですっ、例え鞭打ち百回の御褒……罪となろうとも、降伏をすべきです女王陛下!」


「とぉーおっ!!」


 駄目、徹底抗戦するの! 告げるマリナに大臣たちが頷き合い、彼女を止めようと一斉に駆けだす。


「申し訳ありませんっ、しかし我々も命が欲しい。国にいる民を、妻子を守りたいのですッ! 事が終わるまでお二人を監禁させて……」


「止めろ愚か者どもッ」


 それは謁見の間入口から響いた。

 マリナに殺到しようとしていた大臣たちが驚き顔を向ける。

 そこには、三人の男女が立っていた。


「なっ、あ、アンサー、王?」


「俺は元王だ。今はマリナ女王陛下がお前達の主だろう」


 そう告げながら謁見の間へ侵入したアンサー、バルス、ユイアの三名がマリナの前へとやってくると、臣下の礼を行う。

 赤い絨毯の上に傅き、手を胸に当ててアンサーが顔をあげた。


「アルセ姫護衛騎士団よりコイントス防衛の援軍に来ました。アンサーだ。こちらはバルス、そしてユイア。共にコイントスを守りましょう我が義妹よ」


「と、とぉぉっ」


 まさかアルセ達から援軍があるとは思って無かったらしいマリナは、感極まってアンサーへとドロップキックをかますのだった。




 ロックスメイアでは本日の朝刊を見た民衆がこぞってツバメ邸へと押しかけていた。

 皆がどういうことだと怒りを露わにしているのは、この非常時にアルセ姫護衛騎士団がロックスメイアには来ないという新聞記事が原因だった。


 なんでも新聞社が襲撃された件にアルセ教枢機卿が関わっている可能性があったため国はアルセ姫護衛騎士団を秘密裏に入国禁止にしていたのだ。

 これを暴いた新聞社による告発で、民衆は自国にアルセ姫護衛騎士団のフォローが来ないことを知った。アルセ教教会に居る筈の神父たちがいつの間にか居なくなっていたことも事態の重さを知らしめるのに一役買ったようだ。


 そんな民衆に押し掛けられたツバメもまた、焦りを滲ませていた。

 まさかこんな事態に直面するとは思わなかったし、今更どの面下げてアルセたちに助けてくれと救援要請しろというのか。

 しかし、救援を求めなければ民衆に殺されかねない危うさもある。

 自身はアルセから貰ったアルブロシアの御蔭でかなり強力な状態になっているが、国民全てを守るには力不足だ。


 新聞社の為に行った処罰だというのにその新聞社により危機に立たされたツバメは悔しげに唇を噛む。

 どうすればいい? どうしたらいい? 既に包囲は完了してしまっており、ロックスメイアは孤立無援状態。

 アルセ神グッズこそあるものの、兵士たちの士気は限りなく低い。援軍も期待できず、アルセ神に見限られた国だという嘆きが兵士達を支配してしまっている。


「私の……せいでしょうか……」


 思わず呟いたツバメに、兼重は被りを振るう。


「いえ。こうなることを知ることなど我々にはできませなんだ。ツバメ様に非はありませぬ」


「そうかしら? もしもあの時、リエラさんたちを接近禁止にさえしなければ……もしかしたら……」


「神はアルセ神だけではありません」


「でも、その神が私達に託すといったのよ。グーレイ神には期待できない。自分たちだけで、アルセ神の加護なく国を守らないといけないのよっ」


 悲痛な叫びに兼重は苦虫を噛み潰す。彼にとってみれば新聞社こそが諸悪の根源。アレのせいでアルセ姫護衛騎士団との繋がりが消え去り、それを国が悪いことのように発表したせいでこんな事態になってしまっている。


「こうなれば、包み隠さず真実を告げるしかありません」


「真実を告げてどうするというのです!? 私達では無く新聞社のせいでこうなりました。だから諦めて皆で死にましょう。とでもいうのっ!!」


 泣きそうな顔で叫ぶツバメに、兼重は何もいえず俯くしかなかった。




 じゃり。

 砂利作りの街道にそいつは足を踏み入れた。

 火中の栗を拾うような危険地帯ロックスメイア。

 そこに、まるで運命に導かれるようにして彼は来た。

 少し前、鳥に乗ってやってきたアルセギンに指し示されて巡礼場所を変更した彼が、ここに来たのである。


「アルセ神様。グーレイ神様。私は、ここに来ればよいのですね」


 白銀に煌めく身体の神官長が巡礼の旅の末辿りついていたことを、ツバメたちはまだ、知らない。

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