AE(アナザー・エピソード)その国を守るための動きを僕等は知らない
「整列ッ」
アメリス別邸の中庭の一角で、リファインの厳かな声が響いた。
アレンに報告し終えて戻ってきたメイリャが戻ってくるのに合わせ、リファインは目の前にいる子供達に鋭い視線を向ける。
「今までよくぞ厳しい訓練に付いて来た。貴様等はもう立派な戦士であるッ」
「サー、イエス、サーッ!!」
「貴様等が厳しい訓練に耐えた意味は今日、この時の為にある!」
「サー、イエス、サーッ!!」
「このコルッカに迫る敵軍勢は我々を逃げるしか出来ぬ狩られる者であると思っているだろう。その油断を、驕りを、慢心を、貴様等の牙で駆逐しろ! 貴様等、否、お前達の実力を存分に見せてやれ! 我等アルセ姫護衛騎士団、日昇る子供兵の力を示してみせろ!」
「サー、イエス、サーッ!!」
「残念だが私はこれよりダーリティアに向かう。お前達の勝利を願っているが、直接は見れん。なればこそ、戻って来た時貴君らの勝鬨が出迎えてくれることを期待しておく」
「サー、イエス、サーッ!!」
声を揃えて高らかに叫ぶ子供達を見て、紫炎蜉蝣のメイリャ、コータ、テッテ、ハイネス、ついでにローアが呆然としていた。
「ローアさん、私、なんか末恐ろしいモノを見ている気がするです……」
「見なかったことにしましょう。私達はこの光景を見てはいけないのよ」
「流石ですリファイン隊長。師匠の教えをここまで……」
メイリャだけは感動していたが、時間が来たのだろう、リファインが振り向くと、全員が姿勢を正して真剣な顔になる。
「紫炎蜉蝣はこれよりダーリティアに向かう。メイリャ、コータ、テッテ、ハイネス。そしてローア。我ら一同全力を持ってダーリティアを解放する。征くぞ!」
「サー、イエス、サーッ!!」
リファインの剣幕に、思わず子供たちと同じ言葉を告げるテッテたちだった。
冒険者ギルド内から、その男達は無言で外に出た。
すれ違ったアレン達がよぉっと挨拶して来るが、真剣な顔のリーダー、ギースは彼らに返事もせずに外へと出て行ってしまった。
「おいギース、アレンの奴が挨拶してたぞ?」
ラムサスがあまりの誰も近づいてくるんじゃねェオーラを醸し出すギースに苦言を告げる。
しかし、無言でずんずんと歩くギースには声が聞こえてないようだ。
仕方無く彼の肩をがしりと掴む。
「……ん? どうしたラムサス?」
「どうした? じゃねぇよ。お前がどうしたギース。赤き太陽の絆のアレンが挨拶してたのに無視してたぞ」
「マジか!? アレンにゃ悪いことしたな」
「一体どうした? 戦争になるからって昂揚してんのか?」
「違ぇよ。いや、戦争に関することではあるんだがな……」
「一体何を思い悩んでんだ?」
彼らは冒険者パーティー『ハッスル・ダンディ』のメンバーである。
他のメンバーも早足だったギースにようやく追い付き、彼を囲むように集まってくる。
なんだよ。どうしたんだ? 気さくに声を掛けて来る暑き男達に、ギースは困ったように頭を掻く。
「あー、そうだな。俺一人悩んでても意味がねェか」
「その通りだ。俺たちに隠し事は無しだぜギース」
「俺らにゃ隠す場所なんかねぇーだろ。全員が全員のホクロの位置だって分かるくらいに心を通わせた仲間じゃねーか」
「……てめぇら……そうだな。ああ。隠す程じゃねーよな」
熱い仲間たちの思いに、感極まったギースは鼻を啜る。
「聞いてくれ。多分だが、このままじゃコルッカが終わる」
「あ? いきなりどうした? かつて無いほど皆が団結してるし、騎士団も冒険者も学生たちまで防衛に回るんだぜ?」
「アルセちゃんたちも闘うんだろ? それでも負けるってのか?」
「俺には、わかるんだ。まだ出来る手があるって。その方法を知ってるって。でもな、俺の一存であいつらまで戦争に巻き込んでいいのかって……」
「なんだそりゃ。世界全てが巻き込まれてんだぞ!?」
「それでもだ! それでも、あの洞窟に居るあの方には、関係の無いことだろ?」
「ああ……あの方か」
ギースの言葉に彼らは共通の人物を思い浮かべる。
「あの人がいりゃ、多分コルッカは守られる。でも、隠居してるあの人まで出て来て貰うのは、いいのかと……」
「話してみりゃいいじゃねぇか!」
「ギルバート?」
「あの人だって、俺らが知らないうちに殺されて、コルッカがなくなったって知るよりも、自分が手伝いたいって思うかもしれねーだろ。まずは話そうぜ」
「ギルバート……ああ、そうだな」
「時間もねぇ、行くなら今だ。行くんだろうリーダー?」
「ああ。行くさ。マーキスの旦那の元へ!」
戦争まで後数時間。ハッスル・ダンディのメンバーがサファリ洞窟へと消えて行くのを目撃したのは、誰も居なかった。




