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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十五部 第一話 その侵略による悲しみを僕らは知りたくなかった
1222/1818

AE(アナザー・エピソード)その少女の為に動く彼らを僕等は知らない

「皆さん押さないでっ。荷物は最小限に、城かアルセ教本部に避難してくださいっ」


 ギルド員が街に散らばり声高らかに叫んでいる。

 本人達も逃げ出したいと思いながらも、マイネフラン王国ギルドに所属する受付嬢たちは民間人達を誘導していた。

 本日ばかりはコリータもミクロンを連れ立ち皆に呼び掛けている。


 ギルド長は噴水広場前に有志の冒険者を集めて今回の作戦の指揮を取っている。

 祖国の危機に、命知らずの冒険者バカヤロウ共が立ち上がり、ギルド長の指揮の元、四つの街への入り口に割り振られている最中だ。


 既に敵国の兵士だろう突撃銃を構えた全身武装済みの新日本帝国軍がマイネフランを囲んでおり、退路は断たれている。

 徐々に迫る近代兵士たちに、冒険者たちは武者振るいを行っていた。


 今回は城の兵士達との共同戦線。装備は皆薄い緑色の鎧やベストを着込み、薄緑の盾を持ち、薄緑の武器で身を固めている。

 全員がアルセ神グッズ装備済み。

 兵士たちも冒険者達も、皆祖国を守る決意に燃える。


 殆どの民間人が城へと避難したのを見届け、ギルド長から避難していいと指示を受けたギルド員たちも城へと向かいだす。

 報告を受け、ギルド受付嬢となった新人のパティアもまた、城へ行こうとしたところだった。


「パティアたん」


 彼女の背後に数百人の男達がやってきた。

 気付いたパティアは彼らに振り向く。

 鉢巻きにピンクのハッピ。ハッピの背中側にはパティア命の刺繍付き。

 オッカケの群れがそこにいた。


「あ、オッカケさんたち。皆さんも早く避難しましょ?」


 彼らはパティアに命を捧げるファンたちだ。おそらく闘える存在ではないだろうと、パティアは城への避難を提唱する。

 メガホンやパティアたん団扇、サイリウムを持った男達は、青い顔のパティアを見て押し黙る。

 パティアはやはり不安だったのだ。

 それはそうだろう。

 このような国の危機は今までなかった。全国民が城に避難するなんて、そんな絶望的な戦争は初めてなのだ。


「だ、大丈夫ですよ。王様が言ってました。マイネフランにはアルセ様の加護があるから負けるはずがないって」


 既にカインによる国民への放送は終わっていた。

 避難民は城か、あるいはアルセ教会本部に逃げろということらしい。

 闘えるモノはアルセ神グッズで身を固めて参戦せよ。装備は国が貸し与える。という太っ腹具合である。


「パティアたん……」


 名前を呼ばれたように思うが、これはオッカケたちの鳴き声だ。

 彼らはパティアを応援し、見守ることだけを心情とする一人の少女に忠誠を捧げた魔物たちなので、彼女の危機や想いには敏感だった。

 代表するように、一人のオッカケが前にでる。

 そんなオッカケが何かを言うより早く、パティアは口早に告げる。


「さぁ、城に避難しましょ。私達には祈るしか出来ないから」


 だから、ね? お願いだから……

 泣きそうな顔で告げる少女の頭を、オッカケは優しく撫でる。

 素敵な女性に育ってくれ。

 そう告げるように。

 「あ……」と呆然と口から漏れるパティアから手を離し、オッカケは後ろのオッカケたちに振り返る。

 皆を見回し、オッカケは頷いた。

 それに呼応するように、皆も頷いた。


 踵を返し、パティアに背を向け歩き出す。

 皆が城から遠ざかるように動き出したことで、パティアは一抹の不安を覚えた。


「あ、あの、皆? そっちは城じゃないよ?」


 嫌だ。行かないで。なんとなく予想できた結末に、パティアは心の中で彼らを止める。

 思いは、だが口からは出なかった。だせなかったのだ。

 恐怖で、辛さで、口から言葉が出て来ない。

 待って、行っちゃダメ。お願い、私と一緒に逃げて、安全な場所にいて!

 しかし、最愛のパティアの思いを無視し、彼らは街門へと向かって行く。


「ちょっと皆? ねぇ? お家に帰るの? 避難するんだよね? ねぇっ!?」


 パティアの瞳に涙が浮かぶ。

 行って欲しくない。彼らが向かう場所は分かってしまうから、そこに向かえばもう、彼らとは二度と会えなくなってしまうのが分かるから。


 街門から出て行く時、リーダー格のオッカケが一度だけパティアを振り向いた。

 デブった身体はお世辞にもカッコイイとは言えないし、服装も服装だ。でも、彼は今まで見たこともない笑みを零す。

 ヘイオ・ロリコーン。一番最初にパティアのオッカケとなった偽人ロリコーン。

 大丈夫。パティアたんは国の無事を祈っていて。

 そう告げるように、「パティアたーん」と最後に鳴いて、彼らは国を後にした。

 思いは一つ。ただ一人、自分たちが愛し、成長を見守り、応援する少女の為に……


 マイネフランから少し離れた場所に、その軍団は大隊を休ませ待っていた。

 マイネフランへ降伏勧告を行い、正午まで待つと宣言し、その時間になるまでの休憩時間を取っていたのだ。

 新日本帝国軍。彼らの前に、オッカケ達は立ちはだかった。

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