その終わりの始まりを誰も知りたくなかった
「フフ、アハハ、あはははははははははははははっ!!」
女の嗤い声が響く。
壊れたように笑う女に、グーレイ神は、否、他の神々もまた、戦慄と不安を覚えていた。
「茶番御苦労様裁判長共っ。私の趣味の邪魔した揚句能力封印して悦に入る暇人の集まり共っ! お前達が私の世界をむちゃくちゃにしてくれたように、今度は私がお前達の世界を滅茶苦茶にしてやるわっ! 女神の権能を持つ神を殺せる勇者たちに手も足も出せず自分の世界が滅ぼされるのを指咥えて見てなさいっ。あは、あはは、あははははははははははははは――――ッ!!」
女の高笑いが響く。
それは、遥か高位の世界で起こったたった一人の女神による暴走だった。
自分の世界で好き勝手していた女神が、高位存在たちにより裁判を受け、女神としての権能を剥奪されたのだ。
その裁判終了時のことだった。
女神の権能を殆ど有して居なかったその女神は、既にこうなった後の手を打っていたのだ。
自分を捕まえた神々の世界に、自身が選んだ勇者たちを送り込んでいたのだ。
ただの自己満足。勇者たちは彼女が選んだこともあり、醜悪な性格ばかりであった。
「ま、待て、まさか!?」
グーレイが慌てて自分の管理する世界を空中にモニター画面を出現させて調べ出す。
それはすぐに見つかった。否、今までアルセ姫護衛騎士団にフォーカスを合わせていたため見逃していたのだ。
彼らのいる西大陸は存在しているが、東の大陸全ての国が既に滅び、たった一つの大帝国だけが存在していた。その名を新日本帝国。
「これは……バカなっ!?」
「自分の作った世界が他人に滅茶苦茶にされるのはどんな気分? ねぇ、どんな気分!? お前らが私にした事をし返してやっただけよ。絶望に沈め上位存在共ッ! 貴様等は何の手も打てずに滅びる世界を見つめていなさいっ」
女神の勝ち誇った声が響き渡る。
神々の誰もがただただ自分の世界を必死になって探っていた。
そしてそこに、確かに存在してしまっていたのだ。女神の勇者を名乗り、世界に喧嘩を売り始めた悪意たちの存在を。
女神による最悪の反撃に、さしもの神々も顔を青くせざるをえなかった。
「女神マロン、お前も同罪だ! 貴様が管理する世界全てに送ってやったわ! もちろん地球とやらにもね!」
ふざけんなっ。普段は駄女神と言われている彼女だってさすがに怒りを覚える。
必死にモニターを展開し自分が管理する世界を調べて行く。
地球の方もモニターする。彼の身体は? 無事だ。一先ずその病院をグーレイの権能を借りて保護しておく。
「助っ人共の世界も全て滅びろ。滅びてしまえっ、ひゃはははははははっ!!」
壊れた笑みで嘲笑する女神。裁判に来ていた他の神々に能力を封印され監禁されるまで、彼女の笑い声は高らかに響いていた。
やるせない思いでグーレイは自分の世界に視線を巡らせる。
パルティを呼んでフォローに、と思った次の瞬間、既に世界に降りているパルティがコルッカに居る事を確認する。
なんというタイミングで降りているのか。否、丁度良いと言えば丁度良い。
アルセ達もコルッカで休んでいる状態。丁度良い。
他の国々も何やら忙しなく産業を盛んにしており、アルセグッズが飛ぶように売れている。
「グレイシア世界全ての住民に告げる」
突然、そんな声が天から降ってきた。
アルセが、リエラが、アカネが、全ての民が空を見上げる。
「我が名はグーレイ。神である」
アルセがきゃっきゃと笑いだすのを見ながら、真剣な顔でグーレイは告げた。
これは自分の失態だ。しかし、その尻拭いをするのは自分ではない。彼ら世界の住民たちなのだ。すまない。そんな言葉ではどうにもならないと思いながらも、彼は告げる。
「異世界の女神より勇者たちがこの世界に遣わされた。彼らには神殺しの権能が与えられており、私では手が出せない。こんなことを我が子らに告げるのは心苦しい。だが、グレイシア世界の者たちよ、心して聞いてくれ」
辛い。思いを胸に、グーレイは必死に冷静に告げる。
「女神の勇者たちはこの世界を破壊するために遣わされた。既に東大陸は壊滅。この世界の半分は破壊されてしまった後だ。西大陸に生きし我が愛する子らよ、手を取り合い、彼らを打ち倒してほしい。神の身でありながら手伝うことも出来ず皆に託さざるをえない我が不甲斐なさを許してほしい」
それは、天から降る神の声にしては、実に弱々しい声だった。
彼の後悔と苦渋の思いが伝わる程に、しかし、世界に散らばるニンゲンたちにお前たちならばきっとこの試練を乗り越えられる。そう励ますような口調であった。
「女神の勇者は八人。増殖、知識創造、鋼鉄、融合、料理、錬成、飛行、操船の権能を与えられた勇者たちである。頼む我が子らよ、彼らを皆の手で撃破してほしいっ」
突然の神からの頼み。かつて無い世界の危機に世界中に戦慄が走った。




