SS・その牢屋番が人気職になることを彼は知りたくなかった
「異動願い?」
「ですねぇ。今月入って三人目。先月は10名。最近牢屋番の異動が激し過ぎです」
「……アレのせいか?」
「はい、アレのせいです」
マイネフラン王の部屋、執務室に座っていたカインは沈痛な表情を浮かべた。
彼に付き添い隣で書類を読み上げたルルリカが淡々と告げる。
二人の頭痛の種は牢屋にぶち込んだ罪人三人である。
「ハードモット。モンド。マイケルか」
「三人を一緒の牢に入れたのは失敗ではないですか?」
「いや、アレを別々に入れてもそれはそれで脱走の危険がある。奴らがその気になればあんな牢などやすやす突破されるだろう。王族を本気で怒らすつもりはないだろうことと、楽しめる相手がすぐ側にいることで脱走せず模範囚やってくれちゃいるが……」
「模範……ですかね、あれ? 男同士で毎日毎日……キモいです」
「見たのかアレ……度胸あるなぁ」
「というか、牢屋番は本来見回りだけの簡単な仕事なんで人気職だったんですけどねぇ。寝てても滅多に苦言は言われないから給料低くても喜んでやる人多かったのに……今じゃ給料吊りあげても成り手が居ない。しかも兵士の流刑地とか噂されてますよ」
「通常の男には、苦痛だろうしなぁ、アレ」
「ですが、同類の兵士だと内通者になる恐れがありますよね?」
「……いっそ女性兵に任せるか」
「男子房ですよ!? いえ、でも……」
考えるしぐさをしてみるルルリカ。
頭の中ではめまぐるしく損得勘定が計算されて行く。
「男同士のくんずほぐれつが見たい女性を一般公募しませんか?」
「何ソレ、そんな趣味あんの?」
「世の中にはいろんな人が居るのですよ旦那様、愛する王妃の為に愛の無い男の子を産む女がいるように」
「相変わらずひでぇ言い方だなお前は。でもまぁ、いいぜ、その案に乗ってやる」
「ふふ。いいですよ、乗られてあげましょう」
ニタリ。二人して黒い笑みを浮かべる
「なんだこれ?」
「めずらしいな、女性兵募集だとよ。つかなんでヘンリーの目の前に立ってんだこの立て札」
あぐらをかいて憮然と座っているヘンリーのすぐ目の前に王国からの立て札が立てられた。
内容は男性房の牢屋番を女性限定で募集するという旨。
「しっかし、給料はいいけど、これは、なぁ」
そこには募集に関してデメリットまでしっかりと書かれていた。
罪人の男達が男同士で絡み合うため、精神の摩耗が高く、兵士たちになり手が居ないため、幅広く国中に呼びかけたのである。
人々はこの立て札を見るために列を成し、まるでヘンリーが珍獣扱いの見せモノのように見えていた。
そんな状況を通りがかったセインが顔をしかめて汚物を見るように見て来る。
気付いたヘンリーがいつもの如く声を掛けた。
「おいクソガキ、見せもんじゃねぇぞ」
「何言ってるです? 貴方が見せモノでなくて何が見せモノですか、意味分かんないです」
辛辣な言葉を投げかけアルセ教教会へと入って行く。
ふざけんな。と告げるヘンリーだったが、彼の言葉でセインが立ち止まることはなかった。
「クソ、なんでカインの野郎は俺の前にこんなもん立てやがったんだ? ふざけんじゃねーぞくそったれ」
ヘンリーの言葉に反応する者は無く、ケッと舌打ちして衆目を集めながら座り続けるヘンリーであった。
そして後日。
面接を終えて四人の牢番が選出される。
朝から夕方までと夕方から朝までの二交代制で二人づつ。
どいつもこいつもド変態であることは確かであり、一人はドライアドという名の魔物であった。
本屋の一人娘に、浮浪者の少女、少し影のある女。皆一癖も二癖もある存在であった。
カインとルルリカが面接を担当し、協議の結果この四人に決めたのである。
ドライアドさんは毎日暇らしいので住み込みすることになっている。
浮浪者の少女もドライアドと同じ部屋で寝泊まりを希望していた。仕事終わっても家が無いからだそうだ。
「しかし、思いの他来ましたね希望者」
合計100名程の女性が名乗りを上げた。
そしてなんとか絞った四人である。
中には明らかに他国のスパイと思しき女もいたし、女装した男も居た。厳正に厳正を重ねた結果彼女達に決めたのだが、この四人で本当に良かったのかカインは不安でしかない。
特に影のある女などは時折思い出したようにフフフと笑いだすし、暗がりで見たら幽霊にしか思えない佇まいだ。髪が長く、片目が隠れているのがさらに恐怖を増す逸材だった。男同士、好物ですがなにか? と面接の時に堂々言い放ったのは印象深く、その言葉でカインがコイツ採用しようとルルリカに持ちかけた程であった。罪人の監視にはもってこいの逸材、しかもドライアドと夜間勤務である。
「ですがまぁ、なんか巧く回りそうな気がします」
「お前の直観はよく当るからなぁ、まぁこいつ等に任せてみようか」
それから数日、異動願いが出されることは無くなり、牢屋番の件は落ち付いた。
副作用としてはドライアドの肌の艶が増したくらいである。
 




