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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その二人の子供がどんな姿になるのかを僕らは知らない
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SS・その秘密を彼女は知られたくなかった

「そういえば、最近貴様の彼女を見んな」


 不意に、玉座に腰掛けていたアルベルトは隣に佇むクーフに告げた。


「モーネットですか? そう言えば昨日から姿が見えませんな」


「……」


「……」


 それきり静寂が支配する。今は謁見時間なのでこの謁見の間からアルベルトは動けないのだ。

 といっても約束は無いので今は臨時で謁見を望む者が居た時用の待ち時間。あと20分もすれば自由時間になるので街に繰り出す予定だ。


「行って来いクーフ」


「っ!? し、しかし貴方様の護衛が……」


「今日くらい善かろう。誰もおらんし来んではないか」


「それはそうですが……」


 なおも渋るクーフ。忠誠度が高いのはいいのだが、いかんせん自分のことを後に回しがちで困る。

 なんとかお膳立てすることでモーネットとくっつけたところまでは良かったが、相手も彼氏彼女の間柄になれただけでもいいと満足してしまい、クーフも仕事中は色恋は駄目だと妙に堅物なので進展が望めていない。


 主人であるアルベルトが率先して二人の中を進展するよう働きかけるのが最近の日課となっていた。アルベルトとしてはクーフにはモーネットとの愛をはぐくんで貰ってその隙にナンパに行きたいと思っているのだが、なかなかうまくいかないモノである。


「ふむ。しばらく見ていないということは何かしらあったか?」


「おとといは普通だったと記憶してますが……」


「貴様のような朴念仁では女性の機微など分かるまい。仕方無い、俺も手伝ってやるから行くぞ」


「はっ!? し、しかしまだ謁見の時間が」


「滑り込みで来るような無礼者に会ってやる必要などあるまい。なぜ俺がわざわざ相手の来訪を待たねばならん。そうだ。来訪者が来た時だけ座るようにしよう。クーフそのように皆に伝えておいてくれ」


「し、しかし、いえ、分かりました。では伝えて……」


「阿呆。モーネット捜索の方が優先だ間抜けめ。ほら、さっさと行くぞ!」


 渋るクーフを引き連れ、アルベルトはモーネットを探す。

 使用人たちとすれ違う時に居場所を訪ねること数回。どうやらモーネットは昨日から引き籠っているそうだ。

 使用人の話では桶をいくつか部屋に持ち込んでいるらしいのだが、さて、何をしているのか。


 クーフの隣の部屋にやってきたアルベルトは、ノックをしてみる。

 無遠慮に入ってもいいのだが、乙女の部屋だ、隠したい何かはあるのだろう、下手に入れば周囲から袋叩きにあいかねない。その場合王の威厳などないに等しいのである。


「クーフを連れて来た。入るぞ」


「っ!? だ、だゃめっ」


 なんか変な声だな? と訝しみながらも無遠慮にドアを開く。ノックはしたので問題は無いと堂々開けば、光一つない暗闇で人影が動く。


「暗い? モーネットよ、昨日居なかったが何をしていたのだ? クーフが心配しているぞ」


「国王陛下、あの私は」


 クーフの言葉を無視してアルベルトは部屋へと押し入る。


「ご、ごないで、嫌っ」


 なにやら声が変だ。

 アルベルトは違和感を覚えつつも近づき、光の魔法を灯す。

 生活魔法位ならば彼だって使えるのだ。基本魔法は得意ではないので水晶剣に頼りがちになるのではあるが。


 光源が現れ部屋を灯しだす。

 質素な部屋には水がなみなみと入った桶が三つ。そしてベッドに乗ったモーネットの後ろ姿。

 光が生まれると同時にさっと二人に背を向けたのだ。

 なにやら隠し事をされているようでムッとするアルベルト。

 こうなると秘密を暴いてやりたくなる。


「王を前に顔を背けるとは不遜ではないか?」


「だ、駄目でず、顔は……」


「ええい黙れ。何を隠しておるかっ」


 乱暴に肩を掴んで振り向かせる。


「あっ」


 桶を一つ両手で持った状態のモーネットが二人に顔を見せる。

 それは、普段のモーネットからは想像も付かないあられもない顔であった。

 涙に濡れる美系の女性。その粘膜は無残に凌辱され、穴からは壊れたように蜜が滴る。

 赤く腫らした目で怯えるようにクーフを見つめるモーネットの顔があった。


「なっ……」


 ぼたぼたぼた。

 鼻から溢れた鼻水という名の蜜が桶へと落下し滴を散らす。

 花粉に凌辱された目は赤く充血し、止まらぬ鼻汁を見られた乙女は終わったと絶望的な顔へと変化していった。


「見ないで……汚れたわだじを見ないでください……」


「アルセイデスの恋……花粉症か」


「……うぅ、ぎのうからどまらなくなっで、グーフざんに見せだぐながったのにぃ……」


「あー。その、すまん。古代人である我々は耐性が高いのか掛からんからな、その、粗相した」


 アルベルトがやっちまった。といった顔でモーネットの肩から手を離す。

 どうやらあそこの桶に溜まった水はすべて鼻水のようだ。

 ティッシュペーパーがあればいいのだが、この世界では普及していないようで、結局垂れ流すままにするしかないのである。

 その姿は美人であれども見るに堪えない姿になってしまうため、100年の恋も醒めるというもの。アルセイデスの恋の季節は、他者の恋の終わりが多いと言われる由縁である。


「ああ、ぎらいにならないでぐだざい……」


「大丈夫だモーネット。嫌いになる訳がないだろう。花粉症であろうとも、君は綺麗だ」


 モーネットのもとへ歩み寄ったクーフは横に座ると優しく頭を撫でてやる。

 モーネットはその行為だけで安心したようで、顔を赤らめ泣きだ……


「うぅ、ぐすっ……ふぁ、ふぁ……ぶぇっくしょんっ!!」


「ぎゃああああ!?」


 真正面に居たアルベルトはくしゃみと鼻水の直撃を喰らった。

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