SS・その実がどんなものなのかを彼女は知らない
コルッカ学園学食に、ロディアとノノはやってきていた。
新人冒険者見習いとして初めて来た学食には、既に既存の学生たちで賑わっており、空いている場所を探すだけでも一苦労であった。
ひとまず注文を終えて食事を持って空いているテーブルを探していると、丁度前の人たちが席を立ったのでその場を確保する。
「運がいいね」
「ふふ。ロディの普段の行いが良いのね」
「いやノノちゃん、それだとノノちゃんの普段の行い悪いみたいだよ」
「あら?」
気付いてなかった。みたいに軽く驚くノノ、すぐにふにゃりと柔らかな笑みでクスリと笑う。
「本当ね」
「もう、ノノちゃんは本当に自分より他人優先だね」
「そうかしら? 結構我儘なんだけれど」
しばし、二人の会話に花を咲かせつつ食事を頂く。そして、先生から新入生全員に振る舞われた果実を取り出した。
「それでノノちゃん、これ、どうする?」
「葛餅先生からは必ず一人一つ、自分で食べるようにって言われたわよ? 食べればいいんじゃない?」
「でもほら、クラスの秀才君が言ってたじゃない。こんな実は見たことがないって。怪しいから食べない方が……ってノノちゃんっ」
言葉の途中でノノが普通に果実をかぷり。しゃくしゃくと音を立てて食べるノノ、思わず言葉を止めるロディアだった。
「おいしいわよロディ」
「んもぅノノったら。でも毒は無いみたいね」
「ロディ、まさか私を毒見役に!? なんて恐ろしい子っ」
「いや、ノノちゃんが勝手に食べただけだからね」
「ふふ。大丈夫よ。仮にも先生が生徒を毒殺するような実をプレゼントする訳ないじゃない」
「それもそっか。そんなことしたら大問題だもんね」
「お。見ろよフィック、アレってアルブロシアじゃね」
「この前アルセが配ってた奴か。アレ美味かったな」
ふいに、ロディアとノノの背後から声が聞こえた。
二人で顔を見合わせ恐る恐る後ろを見れば、男が二人。いや、そこに二人の女生徒も一緒に居る。
「こらランドリック、新入生に早速絡んでんじゃないわよっ」
あれは……確かライカさん?
同じクラスの少女に気付き、ロディアは小首を傾げる。
「ああ、気にしないで、この節操無しは私が手綱引いとくから。浮気したら鉄拳制裁よランドリック」
「フィックも、色眼は使わないでよ」
「クライア、流石に彼女の居る場所でそれをするのはランドリックくらいだよ」
「あれ、俺さりげなくディスられてる?」
「ほら、ファラムとキキルが待ってんだから行くわよ」
「へーい」
どうやら彼女は既に知り合いが冒険者学校の学生として在籍していたようだ。
思わず彼らの向かう先に視線を向けて見ると、ロディアは想定外の存在を見付けて固まった。
エビがいる。いや、エビというか魚介類というべきか。
正確には蝦蛄の魔物なのだが、ロディアには理解できなかったようだ。
「どうしたのロディ?」
「の、ノノちゃん、魔物、魔物がいるよ?」
「あ、本当ね」
しかし、ロディアの驚きに対してノノの反応は淡泊だった。
本当ね。と言いながらしゃくりしゃくりと果実を食べるノノ。小さな口で少しずつ食べているのでまだ半分以上残っているが、次にロディアが我に返って気付いた時には、既に完食されていた。
「ファラムさん相変わらずラブラブですね」
「ライカか。それはキキルに言え。我が嫌がろうが距離を取ろうがこいつがベタベタとくっついてくるのだ。卵生の我と人間では種族が違い過ぎると言っているのに大丈夫ですの一点張りで」
「でも嫌じゃないんですよね?」
「……それよりも、入学おめでとうというべきかな」
強引に話変えた!? というかあの魔物と隣の女の人カップルなの!? なにそれきゃーっ。
内心拍手したくなるロディア。ついつい他人の会話に耳を傾けてしまうのであった。
そして、そんなロディアが百面相している姿を見てほっこりと笑みを浮かべるノノ。
ノノにとってはこの他人の話を我がことのように喜んだり悲しんだりするロディアの姿がとても可愛らしく、一日中でも見ていて飽きないのだ。
だから二人は友人になったと言ってもよい。
ノノにとって彼女は、愛玩動物のようなものであった。
ふふ、やっぱり私、全然普段の行い悪いですね。そんな事を思いながら顔を赤らめ耳を引く付かせるロディアを見る。
銀髪のオカッパにカチューシャを付けた少女は他人の話で一喜一憂を繰り返していた。
その姿を見て、ノノは幸せな思いになる。
本当に、可愛いなぁロディは。
両肘をテーブルに付き、頬を両手で固定してロディアの姿をじっくりと観察する。
そのほっこりとした光景を、周囲の学生たちが見て、これもまたほっこりと幸せな気分に浸るのであった。




