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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その二人の子供がどんな姿になるのかを僕らは知らない
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その黄金時代の終焉を僕らは知りたくなかった

「な……が……」


 口をパクパクとしながらも何も言えないタルイス・テーグたち。

 イルタがなにやら声を発そうとして何も言えないでいる。

 何しろ目の前に居るのは自分たちが信望しているはずの黄金の四聖獣ヴィゾフニール。


 そんなヴィゾフニールがエアークラフトピーサンに良いように扱われている姿。

 黄金の髪を持つ選ばれた者たちにとって、その姿は見るに堪えないものだった。

 自分たちが信望する四聖獣が黄金ではない存在に頭が上がらない、そんな姿、見たくなかった。

 彼らを形作るアイデンティティが崩壊する音が聞こえた気がします。


「……ぁ」


 ふわっと意識を失うタルイス・テーグ多数。

 下で見ていたリエラ達が気付いて慌てて救出に走りだす。

 右往左往しながら落下して来た妖精たちを保護していく。


「想定外に効き過ぎたみたいね」


「言ってないで救出手伝ってくださいアカネさんっ」


 うん、まぁ意識失った妖精たちはリエラ達に任せればいいや。

 僕はアルセとペンネたんとでイルタたちがどう結論付けるか見届けないと。これでダメなら他に方法考えないといけないし。


「なんという、ヴィゾフニール様が、あんな鳥に……」


「温めてるのはお子さんかしら? 応援しますよーっ」


「ありえない。ありえませんわあんな。あんなっ!?」


 シアナが驚きアンヌーンが応援を始める。アンヌーンは選民思考とか全く考えにも無いらしい。

 そして劇的なのがティターニアだった。

 この世の終わりみたいな顔を両手で覆い、ヴィゾフニールを凝視したまま微動だにしなくなっている。羽だけは動いているので気絶している訳ではないらしい。


「お」


「たん……」


 タルイス・テーグたちどうなるかなー。見ちゃいけないものを見せられたからな。自殺者でるんじゃないのか?

 アルセの言葉にそんなニュアンスの鳴き声をあげるペンネたん。このペンペンたんは口調がなんというか、達観というか諦観というか。ほんと、心配になるな。その、表情もアレだし。


「いやー、でもヴィゾフニール様も子持ちになるのですか。これは私も子供が欲しくなりますね。しかし我が教義で結婚は神とのみと言われてますし、これは困りました」


「人間と恋に落ちるなら応援するわよシアナ」


「……ふぅ」


 あ、ティターニアが意識飛ばした。

 大人の人間大の大きさを持つティターニアが落下。下に居たアカネさんが気付いた時には既に遅く、ティターニアと頭から激突していた。


 うわー。アカネ最近本当にツイテないな。

 リエラが慌てて回復魔弾打ち込んでたから多分大丈夫だろうと思うけど。

 よし、アルセ、ペンネたん、そろそろ降りようか。

 ……え? これ自分で降りろって? あはは、嫌だなアルセ、こんな蔦からモヤシッ子な僕が降りれる訳がないじゃないか。木の枝に座る子猫と一緒だよ? 登れるけど降りれないっていうか……あ、ちょ、待ってアルセ。ペンネたん抱えて降りないで。僕が取り残されてるよ!?


 いやーっ、アルセかむばぁーっくっ。

 思わず手を突きだすが、アルセは戻って来なかった。

 酷い。酷いよアルセぇーっ。


 タルイス・テーグたちが一人、また一人と力無く地面にふよふよ着地して四つん這いになっていく。

 自分が信じることが粉々に壊されたらしく立ち直れないようだ。

 そして蔦の上で降りれなくなった透明人間さんが一人。三角座りして泣いてます。

 アルセぇ、なんで下ろしてくれないの? しくしくしくっ。


 泣き濡れる僕と慟哭に暮れるタルイス・テーグたち。

 僕らの思いは真に一つ。もう、誰も信じられないっ。

 僕は今、タルイス・テーグたちと同じ意思の元新たな金髪族だけの楽園を……


「お」


 ……アルセ?

 ひょっこりと出てきたアルセが僕の裾を引っ張る。

 何してんの降りるよ? そんな顔をしていた。


 アルセ、アルセぇぇぇぇっ。

 青いタヌキに泣きつくメガネ坊主のように、僕はアルセに飛び付いたのだった。

 当然、勢い余って蔦から落下した。


 ぎゃあああああああああああああああああああああっ。

 あーあ。とアルセが呆れた顔で、仕方ないなぁと新しい蔦を生成する。

 はぐぅっ。もうちょっと優しくっ。


 お腹に蔦が思い切り直撃したよ。

 いや、急激に成長した蔦と自由落下で加速した僕の身体がぶつかっただけなんだけど。

 アルセありがとう。でももう少し優しくしてくださ……まさかアルセ。僕が最近ペンネたんばっかり構ってるせいで嫉妬を……?


 戦慄する僕に降りて来たアルセが小首を傾げる。

 どうしたの? 早く降りよう。そんな顔をしていた。

 う、うん。大丈夫。アルセはそんな子じゃないはずだ。嫉妬なんてしない良い子だ。嫉妬なんてどっかの拳帝様だけで充分だ。


 僕はアルセと一緒に地上へと降り立つ。そこには金髪たちの魂の抜けた顔が無数にあった。

 ツワモノどもが夢の跡。もはや再起不能のようです。

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