その女王が誕生した理由を僕らは知りたくなかった
「と、いうわけで、イルタ、悪いんだけど金髪族全員四聖獣ヴィゾフニールの元へ集合させてくれる?」
「え? 嫌だけど? 金髪でもないあんたの言葉なんて何で信じなきゃなんないのよ!?」
金色優先しようとするイルタの気持ちはわからなくもないけど、話くらい聞けよ。
「やったげなさいなー」
投げやり気味のメイブに言われ、うぐっと唸るイルタ。
流石に妖精女王の言葉は無視できないらしい。
「いいですわ。そこまで言うなら金髪族総出でヴィゾフニール様の元に向かいますわ」
覚えてなさいまし!
そう告げたイルタはぴぃっと口笛鳴らす。
すると空からやってくるカーシーが一体。
空中に浮遊したイルタを背中に乗せ、カーシーが去っていく。
皆思わず見守っちゃったけどよかったの?
「とりあえず、これで大人しくなってくれればいいですけど」
「まぁ無理なら強制執行しかないかしらね」
それはつまりアカネさんエンペラーキリングタイムということですか?
全裸卿妖精郷にて猛威を振るう、とか。
四聖獣全員から加護を貰えなかった怒りを込めたアカネの連撃、多分死者がでるね。
金髪族全員集合はイルタに任せ、僕らはユグドラシルに行くことにした。
折角なので妖精女王さんにペンネたんを渡してみる。
「え? え?」
戸惑った様子の妖精女王メイブ。その膝もとにちょこんと居座るペンペンたん。
死んだ屍のような目でじぃっとメイブを見上げ、一声。
「ぺん」
さぁ小娘よ。吾輩を抱きしめたいのだろう? もはや覚悟はし終えている。存分に抱きしめるがいい。
そんな諦めの境地にも似た一声を告げるペンペンたんに、恐る恐る抱きしめるメイブさん。
「ふあぁ……」
軽く抱きしめた瞬間、ぷにぽよんな体つきに一瞬で堕ちた。
ぎゅむっと抱きしめたメイブさん。目はハートマークに口から涎が出てますよ。
「あああ、何よこれぇ。抗えないっ」
ふっ。所詮吾輩の役処などこのくらいよ。悟ったように空を見上げるペンネたん。
良いように抱きしめられ、彼女はただただ自身の不幸を嘆くように空を見上げ続けるのだった。
多分、顔がそんな顔してるだけで本心は違うよね?
「はっ!?」
時間にして一分だろうか? 我に返ったメイブさんが慌てて周囲を見回せば、優しい顔になったリエラ達。
皆移動せずにメイブのだらしない顔を見ていたようだ。
やる気なしに見えていたようで、一瞬驚きつつも。なぁんだ本当はそういう性格なのか。と納得し、暖かな眼差しを送っているのであった。
「たん……」
諦めろ小娘。生き恥晒す程度でめげるでないぞ?
死んだ魚のような瞳で同情されるのはどうなの? さらに落ち込みかねないんじゃ……?
「み、見世物じゃないわよ!?」
「いえいえーお構いなく」
「あなたやる気ない女王かと思ったけど振りだったのね」
「な、何言ってんの、あたしやる気ねーしっ! 女王とかめんどーじゃん。だからっ」
「メイブ様。もはや妖精全員知ってるのだわ。女王様は引っ込み思案でとっても精力的だって」
なんとメイブさん、歴代妖精王の中でもかなり働き者らしい。
やる気なしに見せているが、今まで来た要望のほとんどを叶えており、それを部下のエイケン・ドラムの功績にしようとしているようだ。
「実はメイブ様、金髪族を妖精女王にしないために皆で押し上げた女王様なのだわ」
「へー。ん? それってつまり、金髪族がその時代から厄介者だったっていう……」
「これ以上権力持たせたら妖精郷が真っ二つなのだわ。メイブ様がそうならないように慎重に調整しているから悪戯妖精ですらも住める理想郷を保てているだけで、薄氷の上を渡っているのは昔からの妖精郷の課題なのだわ」
妖精女王メイブ誕生にはやはり金髪族が関わっていた。というか奴等本当にどうしようもないらしいね。
「本当のメイブ様はほら、このようにとっても可愛らしいのだわ」
「やめて、あたしを見ないでっ。そんな暖かい目で見んなしっ。いやー、恥ずか死するっ!!」
そう言いながらもペンネたんしっかり抱きしめ離さないメイブさん。よほど気に入ったらしい。でもペンネたんはあげないからね。今だけ貸してるだけだから。ペンネたんは僕んだ!
「るぅ?」
今、一瞬不快な気配を感じた。みたいに背中からルクルさんがじぃっと見て来たので慌てて邪念を打ち払う。
「ふふ。そういうことよアルセ。メイブはエイケン・ドラムを次期女王に押したいみたいなの」
「私はメイブ様ほどの実力が無いのでまだまだ無理なのだわ」
帽子にしていたチーズを取り、千切って食べながら申し訳なさそうに告げるエイケン・ドラム。行動と言動がまったく一致してません。これは照れ隠しかな?
っと、そろそろペンネたん返してくれませんかねメイブさん?




