その選民思考の治療法を僕らは知らない
「で、ここ?」
シアナに別れを告げた僕らがやって来たのは村の反対側に存在する泉でした。
ここに、二人目のタルイス・テーグたちが信望する存在がいるらしい。
シアナさんはタルイス・テーグが選民思考に染まっていることに関係は無かったみたいだし、黄金好きなだけの妖精さんなので放置の方向で。
「アン、悪いんだけどちょっと出て来てくれない?」
アニスの呼び声に、しばし静謐を保つ泉、その泉から突如ざっぱーんッと女性が浮上した。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! グラゲーズ・アンヌーンだよーっ」
なぜかポンポン両手に持って左手を頭上に掲げて金髪のお姉さんが出現した。
服装はチアガールです。
髪も束ねてポニーテールにしており、水に濡れた筈なのに風に吹かれた髪がふわっと舞ってます。妖精すげぇ。
「な、なぜチアガール?」
「あはは。この前恋した男がチアガール押しだったのよね。それから百年ぐらいマイブーム?」
うん、絶対そいつ転生者か転移者だな。この世界にチアガールの概念多分ないし。
「ノームたちに頼んでこの服も作って貰ったの。応援って楽しいわねアニス!」
「えーっと……」
あまりにもテンションが違い過ぎてアニスさん呆れてます。
アカネ、君がやるしかないらしいよ。
「はぁ。えーっとアンヌーンでいいかしら?」
「気軽にアンでいいわよ。グラゲーズ・アンヌーンって長いでしょ。神様もなんでこんな種族名付けたのかしらねー」
それは地球にそういう妖精の逸話があったからだと思うよ。
泉に浮いたアンヌーンは僕等に向けてポンポン振りながらガンバレー、とか言って踊ってます。
踊ってるもんだからジョナサンとアルセが対抗するように踊り始めちゃったよ。
「あら、あなたたちノリがいいわね。なんかテンション上がっちゃうわ!」
あの、タルイス・テーグのこと聞くんじゃなかったっけ?
踊りまくるアンヌーンにアカネですらも声を掛けられないようだ。
ぽんぽん突き出し逆と入れ替え、ポンポンふりふり腰も振り振り、両手をぐるぐる変なおじ……ん?
ちょっと、アンヌーンさん? 待って、その動きは、その動きはなんかいろいろヤバいからっ!!
「あいたっ!? え? なになに、今なんか当った!? ひゃん!? 胸揉まれた!?」
しかし周囲には誰も居なかった。
ふっ。Fか。
「るーっ」
へぶっ!?
やらかした僕にルクルさんからカレーの洗礼。
パイ投げの要領で後頭部にカレーを受けた僕はカレーごと泉に落下した。
ばっしゃーんと音を立てて水の中。突然カレーを投げ入れて来たルクルに何してんの!? とアンヌーンが驚いていた。
ざばっと僕が顔を出せば、アンヌーンさんがやや哀しそうにルクルを見ていた。
「あ、あの、もしかして、気に入らなかった?」
「るっ!? るるるぅーっ」
え? 違うよ。貴女の踊りが気に入らなかった訳じゃないんだよ?
そんなことを言いながら首を横に振りまくるルクルさん。
しかし、アンヌーンに対して無礼を働いたルクルさんを、奴らが許すわけがなかった。
「金髪に対する無礼、万死に値するーっ!!」
タルイス・テーグたちが何処で見ていたのか数匹やって来てルクルに群がる。
「る、る――――!?」
ばっしゃーん!
ルクルが泉に突き落とされました。
はいはい、おぼれないよう僕が引き上げればいいのね。
「あらら、大丈夫? タルイス・テーグたちが御免なさいね?」
「るぅぅ……」
僕に対してカレー投げただけなのに。と納得行ってないルクルが水面から顔を出して唸る。
タルイス・テーグたちがアッカンベーして来るのがイラッと来るよね。うん、分かるよ。分かるから今はカレーしまおうね? ややこしくなるから。
「アンさん、このタルイス・テーグたちに関してなんだけど」
「え? あ、はい。なんでしょう?」
「貴女が彼らに命令を行った事はあるかしら?」
「え? んー。ないかなぁ。基本私に何かあったり、何かほしいなーって呟くと勝手にやってくれたり持ってきてくれたりするから便利な子たちだなって思うくらい?」
「あー、そう。うん。じゃあ用事は済んだわね」
アンヌーンもタルイス・テーグたちとは関係なく、タルイス・テーグたちが勝手に慕っているようだ。やっぱり金髪だからだろう。
にしても、シアナもアンヌーンも三大勢力の筈なのにタルイス・テーグを子分扱いすらしてない便利な人たちとしか思って無いって……この分じゃもう一人の妖精も大してタルイス・テーグの性格形成には関係してないんじゃないかな?
「あれ? 皆さんもう帰っちゃうの?」
「ええ。用は済んだから」
ほら、ルクルさんも泉から上がろう?
ひとまず僕が先に上がってルクルをエスコートしながら泉から引き上げる。
あら? ルクルさんお怒りなくなった? なんでそんなに顔赤くしてるんです?




