その妖精女王の性格を僕は知りたくなかった
あーあ。
結局アルセは近づいて来たブラック・アニスにアルブロシアをあげてしまった。
物珍しい果実に、最初は戸惑っていた悪妖精は一口齧ったあと物凄い勢いでアルブロシアを平らげ、その後はアルセにべったりくっついてます。
もっと頂戴。えー、一人一個なのー。けちー、ほしーのー。だーめ。みたいなやりとりをしているブラック・アニスとアルセ。
危険はそこまでなさそうなので放置してるけど、本当に大丈夫? ヤバそうなら即座に排除も辞しません。
「はい、目の前に居るのがこの妖精郷の女王、メイブ様なのだわ」
「クイーン・メイブだ。凄い、初めて見た」
ふと気付けば、いつの間にか謁見予定の妖精女王の元に来ていた。
うーん。妖精王といえばオベロンとティターニアだと思ったんだけど。
あ、そうだ。たしかクー・フー・リンだかの話で出て来たぞメイブさん。
「あら。何か用?」
妖精女王様は切り株を改造した玉座に座り、けだるげにしていた。
なんだろう、この女王、なんか人生に疲れたギャル系女子にしか見えないんだけど。
「初めましてメイブ様。私はアニア。エルフニア近くの妖精郷に住んでいた妖精です」
「あっそー」
気の無い返事。スマホを持ってたら絶対視線を落としてネットアクセスしてるだろう。
「本日来ましたのはユグドラシルへ行くことを許可してほしいからです」
「許可ー? まーいーけどぉ」
耳の穴に指突っ込んでグリグリ、指先に耳垢でもあったのか、ふっと息を吹きかけながら言う。
態度悪過ぎだろこのお姉さん。
「要件それだけー?」
「あ、はい。とりあえず?」
「んじゃー、さよならー」
や、やる気なさすぎだ――――っ!?
しっしっと右手でジェスチャーしながら、一度もアニアを見ようともしなかったメイブさんに僕たちは何とも言えない顔をする。
王女こんなのでいいのだろうか?
「じゃあ行きましょうかアニア」
「え? あ、そうだね」
「ではご案内するのだわ」
「こっちよお嬢ちゃん」
「お」
ちょっと待てそこの黒いの。アルセを率先して連れてくな。お前は要注意人物だぞ。
「……はぁ、緊張したぁ」
……はい?
不意に小さな声が聞こえて来て僕は耳を疑った。
さぁ僕も一緒に向かおう。そう思った僕だったのだが、一人残ったクイーン・メイブの小声を拾ってしまったのだ。
「いきなり大人数で押し掛けてくるんだもん、恐かったしぃ。あ、でもアニアちゃんすっごく可愛くなってたなぁ。彼女は覚えてないかなぁ。私が生まれるの見届けてあげたんだけどなぁ」
両手の指先を合わせて人差し指同士を繋げたり放したりするメイブさん。
なんか、さっきまでと性格が違う気がするんだけど……
なんていうか、無駄に可愛い性格?
「あー、でもあの空中に浮いたペンギンさん可愛かったなぁ。あと緑色の女の子。はぁ、抱きついてもふもふもきゅもきゅしたかったなぁ」
なんだもきゅもきゅって。
とりあえず、やる気なしJKではなく可愛モノ好きの引っ込み思案が本当の感情……と。
なんだその意味不明の盛りスキル。
……っと、こんなとこで考察してる場合じゃない。急いでアルセ達追わないと。
いくぜペンネたん!
「って、そこのペンギン待った! 今の聞いた!? 聞いたよね!? ちょっと、無視しないでっ!」
気付かれたか!?
慌てて立ち上がったメイブ。しかし僕らはそれよりも速く走ってアルセ達の元へと舞い戻る。
アルセたちは走ってもいなかったのですぐに追い付いたんだけどね。
メイブさんは? 追って来る気配はなし、と。大丈夫だよね?
ペンネたん。ちゃんと守ってあげるから心配はしないでね? そんな人生諦めたような顔しないで。
「あそこなのだわ」
妖精郷郊外の森、その中央部に巨大な樹木が一つ、周囲の木々を押しのけるようにしているのか、無数の根が地面から飛び出ており、その木の周囲からは別の木が一掃されていた。
「これはまたデカい」
「来たか、資格を持つ者たちよ」
風圧が僕らをなぶる。
物凄い圧力にニンニン君が吹き飛ばされてます。
「よく来た。我が名はヴィゾフニールである」
「でっか!?」
ヴィゾフニールが空から飛来して来る。
その眩しさに顔を顰めたリエラ。近くで見る程巨大さに大口が開いてしまう。
その大きさ、エアークラフトピーサン並みに巨大な黄金の鳥でした。
めっちゃくちゃ光ってて眩しいです。サングラスはどこですか?
「まずは話というべきだろうがそれより先にだ、ちょっと待て」
と、告げた次の瞬間、眩しさがかなり和らいだ。
おお、光量調節可能なのか。
アルセが今のどうやったの!? みたいに興味深々になってます。
そういやアルセも光れたんだっけ。後で教えて貰うと良いよ。




