その第一村人発見感を妖精は知らない
「こっちよ。ねぇ、やっぱ行くの止めない?」
アニアに案内役を頼み、僕らは妖精郷へと向けて歩く。
今回向うユグドラシルという大樹は、妖精郷エルフヘイムに……え? 違うの? こっちの世界エルフヘイムじゃなくてピスキニア? どうでもいいよ。
妖精郷ピスキニアが大樹の根元にあるため、妖精郷特有の空間に関係する幻惑魔法のせいでユグドラシル自体がこの辺りからは見えないらしい。
結構でっかい木らしくて、頂上にはなんだっけ、四聖獣の最後の一人、えーっと……
「それで、最後のヴィゾフニールは風属性なのですよね?」
「そだねー。ものっすごい巨大な鳥でね。きんっきらきんに光り輝いてるから眩しくて眩しくて。あの鳥のせいであいつらの種族が幅きかせてるのもあって妖精たちの殆どがこの地から脱出したがるんだよね。私達の妖精郷もそういう理由であそこまで逃げて来たわけよ」
「へー。嫌われ者の種族が妖精にも居るのね」
「多種多様の妖精がいるから少ないっちゃ少ないんだけどね。金髪選民意識っていうのかな。ヴィゾフニールがあんな姿だから金髪こそ正義みたいな風潮を流行らせてね。自分たちがハイピクシーなのだとか豪語し出した傲慢共がいるのよ。シアナ様やグラゲーズ・アンヌーン様は優しいんだけどその取り巻きの妖精共がこう、ぬがぁって感じ?」
アニアさん、ちゃんと説明してくれ。ぬがぁでは全く分かりません。いや、気持ちはなんとなくわかるよ。なんかもうイラッと来る口調で迫ってくるんでしょ。
まぁ、アレだよ。アルセの笑顔とペンネたんのふわもこ力で虜にしてやろうぜ。
と、思った時期が僕にもありました。
「あら? あらあらあら~。人間がこんな場所に来ていると思って来てみれば、随分大きくなってますが貴女妖精ですわね」
不意に、声が聞こえた。
皆して周囲を見回していると、上空から羽の生えた犬に乗った金髪の女の子が降ってくる。
しかも、手のひらサイズ。手乗り小型犬に乗った金髪の妖精さんが金色の槍をもって手綱を引きながらアニアの前へと降りて来た。
「げっ」
「あらお下品。随分力を溜めたようですが、タルイス・テーグでない妖精はお里が知れていけませんわ。オーッホッホッホ」
左右におさげを付けて長い髪を腰元まで垂れ流している髪型のタルイス・テーグ。高笑いを浮かべる小型少女はなんというか、こう、むんずと掴んであげたくなるな。ネフティアの気持ちがちょっと理解できました。こういう時こそ彼女を連れて来るんだった。
貴族のお嬢様を思わせるタルイス・テーグはふふんっと胸を張って手を当てると、アニアを見下すように見上げる。
小人と巨人の邂逅みたいなこの状況に、アニアは溜息しか出ないようだった。
「あー、そのね、一応伝えるけど、クイーン・メイブ様にお目通り願いの連絡を……」
「金髪族ではない貴女の願いなど聞く必要はありませんわ」
「ですよねー。あんたたちならそう言うと思った。じゃあ何しに来た第一村人め」
「だ、第一? 汚らわしいピクシー連れた人間どもが来たから何かと思っただけよ!」
「あの、アニアさん、この子は?」
話は済んだ。と思ったリエラが小声で尋ねる。
「タルイス・テーグ。金髪族を称する妖精の一種よ」
「ふっ。金髪以外興味はありませんが、何人かいらっしゃるようなのでそちらの方にのみ御挨拶させていただきますわ。私はタルイス・テーグのイルタ。選ばれし誉れ高き妖精族、金髪族のイルタですわ!」
拝謁して敬いなさい。とでもいうようにふふんと胸を張るイルタ。
「金髪フェチだから金髪の人としか話そうとしないのよ。というわけでテッテ、悪いんだけどこいつにクイーン・メイブ様へのお目通りのお願いを告げてくれない?」
「え? 私がです? えーっとイルタさん、クイーン・メイブ様という人に会いたいのですが」
「いいですわよ! 金髪であればよろこんでっ。今直ぐに許可をもぎ取ってまいりますわ。はいどーっ」
ぴしんっと手綱を叩き、羽犬を羽ばたかせるイルタ。
「ちなみにあの羽犬はカーシーという妖精ね。ピスキニアに入ったら大小無数の妖精がいるからあんましきょろきょろしないように」
「了解」
「あ、それと足踏み出す時は蟻の行列に気を付けて。ムリアンたちが蟻に乗ってる時があるから」
「ムリアン?」
「ええ。妖精の中でも極小の妖精なの。変身能力があるんだけど使えば使う程身体が小さくなるらしくって、今は種族全体が極小になっちゃって。これ以上変身すれば消滅しかねない小ささなのよね。妖精たちでも時々普通に踏み殺しちゃってるから気を付けてても意味無いかもだけど、出来るだけ歩く時も気を付けてあげて」
ほんといろんな妖精がいそうだな。その第一村人がイルタか……退屈しなさそうだな妖精郷。




