その洞窟の先にいた人物を皆は知りたくなかった
「ふーん。鍾乳洞ってところかしら?」
「水溜りとかはありますけど道が水没している場所はないですね」
「凄いです兄さん、岩が真上に伸びてるです」
「あー、うん。凄いな」
「不思議な場所ねコータ。これが鍾乳洞。素敵だわ」
「そ、そうだね」
「むぅ……」
テッテの喜びにそっけなく反応したコータは、ローアに言われた瞬間顔を赤らめコクリと頷く。
反応が違い過ぎることにむぅっと膨れるテッテ。
「あれ? なんか凄いところがありますねアカネさん」
「あれは……なんだっけ、テレビでは見たことあるんだけど」
棚段状になっている無数の水溜り。ヒカリゴケでも生えているのかほのかに光り輝いているのが綺麗だ。
鍾乳石の合間合間から見える不思議な光景にしばし見入りながら、パーティーは進んでいく。
敵と思しき存在はアイスバットくらいか? いや、何か来た。
「えーっとアレは……ブツゴロウさんとワラスボランサー?」
「よ、容姿が恐いです」
アカネが魔物図鑑に登録。セネカがうわぁっと引いた顔をする。
ブツゴロウは多分有明海辺りに生息するムツゴロウがモチーフだろう。断じて動物王国のおじいさんではないはずだ。
ワラスボランサーはどう見ても佐賀の……いや、あえて語るまい。
どんな魔物が出てこようとも僕らのパーティーが負ける状況はまずあり得ないし、四聖獣並みのボスさえでなければ……
「グキャァ」
「ぎゃあああああ!? 何か出たぁ!?」
アニアが慌ててルグスの背後に回る。
角からやってきたのは、エイリアンっぽい姿で奇怪に動く巨大ワラスボ。名前はワラスボバーサーカー。いろんな意味でヤバいの来ました。
「リエラ!」
「幻影斬華!」
そして瞬殺っと。
リエラが強過ぎて怖い。にしても、そんなリエラでも敵わない四聖獣ってどうなんだ。普通の人間達なら間違いなく即死させられるぞ。
「ワラスボ多いわね。氷系魔物より水棲魔物がここのメインなのかしら?」
「そういえば氷系魔物見てないですね」
「アイスバットくらいよ居たのは。あとはワラスボナイトにランサー、アーチャー、アクサー、バーサーカー。ライダーやらアサシンやらマジシャンが居ないだけマシかしら? 七種類以上いるから戦争は起こりそうもないし」
「アカネさん?」
「……なんでもないわ」
「にしても、流石に通路とは言いづらいですね、所々に巨大な岩で塞がれてる場所があるし」
「あちらの鍾乳石を破壊すればよいですかな」
「環境保護ッ。ぶん殴るわよ至高帝」
「なにゆえ!?」
アカネさんの理不尽な怒りに驚く至高帝。
鍾乳石破壊するとかそりゃ日本感覚のアカネなら怒るよね。
「いい。この鍾乳石ってのはね、上から落ちて来る水に含まれたミネラル分が固まって出来たものなのよ。詳細は省くけど、この大きさになるまで何千何万の時を越えてるの。分かる。あんた程度がこの尊い鍾乳石破壊していいと思ってんの!」
「そ。それは失礼……よく知らなかったもので」
アカネの剣幕に驚いた様子でなんとか謝罪する至高帝。
アカネさんはスイッチが入ったようでいかに鍾乳石が貴重なものなのかをレクチャーし始める。
声が大きいのでワラスボたちが寄ってくるのだが、アカネさんの剣幕に恐れを成して慌てて逃げて行くので戦闘自体にまでは至らなくなった。
「随分下に降りてますね」
「そろそろ湖の下辺りに差し掛かるんじゃないかな? ねぇメリエさん」
「そうですね。たぶん湖の真下に既に来てると思うんですよね。リエラさんもパルティさんも気を引き締めてください。多分もうすぐです」
「了解」
リエラ達が頷いてしばらく。十分もしないうちに最奥への扉へと辿り着く。
一本道なので迷うことは無かったけれど、後半はずっとアカネの講義が続いていたので皆の疲労が濃い。
「リエラさん、とりあえず小休止ですかね?」
「そうですね。幾ら魔物の出現率が低いと言ってもラスボス手前でキャンプは止めておくべきでしょう。体力の回復を終えたら四聖獣に会いに行きましょう」
「ゴワス大丈夫かな……」
「アニアが心配しても仕方ないと思うよ」
「分かってるわよ」
僕らは体力気力を回復させて扉を開く。
どうでもいいけどなんでボスの間って扉が付いてんだろうね。それまでは天然洞窟っぽかったのに一気に人工感がでてくるよ。
ボスの間は地底湖だった。
扉から少し前までは岸辺が広がっているが、その先には泉が広がり、岸辺と泉の境目辺りに、おいどんは自分の道を行くでゴワスが突っ立っていた。
って、なぜここに!?
「皆、上!?」
マクレイナがいち早く気付いた。
上を見れば天井部にたゆたうトココカ湖の水面が見えた。
「これってどういう……」
「プレシオ様の魔力により、この空間は人とプレシオ様が出会える場所となってます」
不意に、声が聞こえた。
ざばり、泉から半透明の女が現れる。
アルセ姫護衛騎士団の一人、リフィが四聖獣の間に出現した。




