その分かりやすい猛毒地帯を彼らは知りたくなかった
「おお、ようやく着いた!」
山の中腹にぽっかりと開かれた洞窟一つ。
入口には周辺の魔物避けだろう。扉が付いている。
そしてその洞窟から少し上に昇った付近に立ちこめる紫色の霧。
見るからに毒々しい霧は、まるでここから先は立ち入り禁止とでも言っているようである。
あまりにも見やすい毒地帯に僕らはしばし呆然と見入った。
にしても、すごいなこれ、まるで壁でもあるかのようにぴったりと霧がそこで止まっている。
そしてアルセがとことこ境目まで向かうと猛毒地帯に指先を入れ、それを口にパクリ。
まっず。といった顔をしてうへぇと舌をだしていた。
もぅ、何でもかんでも食べるから。
どうやらアルセでも食べれない素材はあるようだ。いや、マズイだけで食べれたのかな?
それにしても、これは異常だなぁ。
しかもそれが上流になるのに、霧の先から流れてくるマグマには毒効果が付いてない、と。これはどう見ても設定だな。
ゲームで良くある画面の切り変わりとかに当るんだろう。
ここから先はレベルの高い敵が出ますみたいな?
ここはゲーム好きの神様が設定したんだろうね。川の流れもどこか迷路じみてたし。仕掛けでマグマの流れが変わるとか絶対ゲーム知識だろ。
しかも丁寧に作り込まれてるからここは駄女神が作った訳じゃないと思われます。
「よし、休憩休憩」
「とりあえずこの近辺に敵は居ないみたいですね。少し休んだら洞窟に向かいましょうか」
二時間ほど前に眠ったリエラは疲れが癒えたとでもいうように精力的。
他のメンバーはむしろ死屍累々だ。山登りだけで疲れたらしい。
アカネとか無言になって岩に腰掛け真っ白に燃え尽きたような姿である。
元気なのはユイアとリエラくらいかな? あとのじゃ姫とアルセか。
のじゃ姫は全く運動せずワンバーちゃんが運んだから当然として、やはりユイアはアホ毛が本体だからか疲れてすらいないようだ。
アルセとリエラは別格だからどうでもよろし。
「まっほう」
そういえば今回この旅に普通について来てるなこのマホウドリ。
今は何をするでもなく歩いてます。
三歩進んで一時停止。首を不確定に動かし、まるで鶏のように忙しない。
かと思えば地面を啄ばみ、また二歩程進んで翼を広げ、まっほぅ。と鳴いてくるりと方向転換。
再び停止して首だけを動かしアルセ側に三歩進んで翼をバサリ。まっほう。
うん、鳥が何考えてるかはまったくわかりません。
「さて、そろそろ行きますか?」
「ええ、そうね」
顔真っ青にしたアカネが立ち上がる。……うん、これ高山病じゃね?
ふらふらなアカネさんに状態異常回復魔弾を打ち込む。
あ、こら、物理吸収すんなし。まぁ魔法も普通に掛かったみたいだからいいけどさ。
弾丸が撃ち込まれたダメージで回復とか驚きだよ。
「エロバグありがと。ふぅ、なんだったのかしら、凄く気分悪くなったわ」
「それ、多分高山病の症状ですよアカネさん」
「高山病って、何パルティ?」
アカネの症状を当てたパルティにリエラが小首を傾げる。
「え? ああ、えっと。なんていったらいいのかな。高い山に昇るとたまに身体が耐えきれずになる病気なんだけど、ああ、何人かその症状があるわね。リエラ、ここで一旦皆の体調を整えておきましょ」
パルティの提案で僕らは体力と体調を回復させた。
御蔭で具合が悪くなっていたマクレイナやジョナサン、ギリアムなどが回復した。
いつの間に高山病に掛かってたんだ。というかジョナサン、そういや途中まで踊りまくってウザかったのに大人しくなったと思ったら、そりゃ高所であんだけ激しく踊りまくってたら気分悪くなるわな。
洞窟を塞ぐ扉を開く。
暗がりをアルセが発光して周囲を見回し、皆はアルセの光を頼りに洞窟へと進んでいく。
最後のアンサーが律儀に扉を閉めて、パルティがカンテラ代わりに光魔法を唱えて周囲を明るく照らした。
「おお、アルセの光より数段明るい」
「パルティ、随分能力身に付けたのね」
「ええ。リエラには負けないもの」
バチリ、一瞬視線が合わさった二人から火花が散った気がした。
にしても、つい最近までさん付けしたりしてなかったっけ二人とも。いつの間に互いに呼び捨てし出したのかな?
「それでパルティ、ここの四聖獣はどんな魔物なの?」
「そうね、しいていうなら半透明な虎」
「半透明? 虎?」
なんだそれ? あれかな、スケルトン姿の虎とか?
スケルトンフィッシュとか水族館で見たことあるけどアレの虎バージョンとかだろう多分。
「タングスタートルが防御極振りとしたら、アクセルタイガーは速度極振りかしらね。とりあえず見えづらい上に素早いと思っておけばいいわ」
速度重視の虎が相手か。しかも名前がアクセルタイガー。フルスロットル感が対峙前から分かってしまうな。頑張れリエラ。涅槃寂静ならなんとかなるんじゃないかな今回は。




