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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十四部 第一話 その少女が求めるものを僕らは知らない
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AE(アナザー・エピソード)・その一瞬の出来事を僕らは知らない

 その日、新聞社所属のナーナがいつものように出社しようとした時だった。

 突然靴紐が弾け飛んだ。

 うわ、何!? と驚いたものの、予備の靴を履くことで対処する。

 しかしその靴まで靴紐が弾け飛ぶ。


 これは何か良くないことが起こる。

 予備の靴から紐が無いモノを選んで履き換えながら、漠然と嫌な予感をチラつかせていた。

 記憶の玉を用意、メモ用紙もペンも準備完了。いつでも何が起こってもスクープできるように準備を整え、家から外へ。新聞社向けていつもの道を歩いて行く。


 ただし、今日は慎重に、不幸な出来事はいつ来てもおかしくない不安感なので、左右を見たり、上を見たりしながら街中を歩いて行く。

 和風の建物が多いロックスメイアでは平屋が多く、瓦屋根の場所も囲いがあるためナーナの頭上に危険物が落下して即死、などということは起こり得ない。


 ならばこの不安はなんなのか?

 新聞社に向かう程に増して行く危機感に、これ以上進むのは本気でヤバいのではないかと不安になって行く。

 一体、何が起こるのか、不安半分期待半分。期待してしまっているのはやはり自分も新聞記者の一人だからだろう。

 どんなスクープが待っているのか、ワクワクする自分がいるのである。


「あ、ナーナ」


「あ、こんにちわまーりんさん。出社ですか?」


「私はナーナみたいに寝坊はしないわよ。野球チームの現状聞いて来た帰りよ」


「あはは。寝坊じゃないですよー。自宅でスクープないか探してたんです」


「はいはい。言い訳はいいから。というかもう昼だからね。いつもだから皆何とも言わなくなったけど、遅刻するのは……」


 と、前を見ながらお小言を告げていたまーりんが口を開けたまま立ち止まる。

 まーりんを見ながら歩いていたナーナは、突然立ち止まったまーりんに小首を傾げ、彼女の視線を追って行く。

 何も無かった。


「あ、あれ? まーりんさん、あそこ、新聞社、なかったでしたっけ?」


 思わず眼をこする。いつも歩いた道の先、自分の就職先である新聞社がある筈の場所が、ぽっかり空間が空いていた。


「ま、まーりんさん?」


「今朝は、あったのよ? 今朝は!」


 慌てて走り出すまーりん。ナーナも一度記憶の玉に光景を記録してからまーりんの後を追う。

 直ぐに辿り着いた新聞社があった筈の場所。

 更地と化したその中央に、ハルれーとリーダーが空を見上げたまま立っていた。

 そしてねねっことかがらんが更地に入る手前の道でナーナたちを出向える。


「やぁ、おはようナーナ」


「あ、はい。かがらんさん、ねねっこさんおはようです。それで、ここ、新聞社ありましたよね?」


「……ああ。ついさっきまで、あったんだ。俺達も新聞社に入ろうとした瞬間だったよ。空に全裸の女が現れて、壊れたように笑いながら物凄い魔法唱えて、気付いたら新聞社が、なかったんだ」


「あれ、絶対全裸卿よ。新聞見て報復に来たんだわ!」


「報復って……いくらなんでもこれは……」


 ナーナは思わず更地に視線を向ける。

 一迅の風が吹く。

 リーダーとハルれーの髪がぱさぱさーっと揺られていた。


「よっぽど怒りに触れたのねー。アカネさん」


「い、いやいやいや、まーりんさん、そんな悠長に告げるもんじゃないですよね?」


「でもあの記事書いたのは私達よ。悪意たっぷりに書いたのは否定できないし、皆ノリでかなり辛辣に書いたでしょ?」


「うぐっ。それは……」


「本人の眼に入ることだってあるって分かりながらやったんだもの、むしろこのくらいで済んでよかったくらいじゃない?」


 まーりんの言葉もごもっともと言える。

 確かに悪ノリしすぎたんだ。

 ざまぁとか連発してたし、リーダーはいつかやる奴だと思っていたとかいろいろ感想盛り込んでたからなぁ。

 一人に対する嘲笑を全国にばら撒いたのだ。それを知ったら怒るのは当然だろう。しかも相手はアルセ教の枢機卿。本来ならば殲滅させられても不思議ではない。


 まだマシといえばまだマシ。なのだが、やはりこれは酷いとしか言いようがないだろう。

 印刷機材も作りかけの新聞も過去の新聞やら写真も全て消失してしまっている。

 呆然とするリーダーとハルれーだけが残されてしまっているのだ。


「どうしましょう?」


「とりあえずリーダーがどっかに部屋借りてそこで再開するしかないだろ。手書から始めるか」


「お金ってあるの?」


「金庫に入れてた分は全滅だな。商業ギルドに預けてる分だけだ」


「うわー。手痛い報復だね。賠償金でないかな?」


「証拠がない。何しろ全裸卿見たの俺達だけだし」


 住民で空をわざわざ見上げるモノ好きは居なかったようで、まさに一瞬、新聞社は瞬きした瞬間に消え去った、神罰のような状態としか認識されてないそうだ。

 ナーナはあまりの手際の良さに舌を巻きつつ、これからの仕事の大変さを覚悟するのだった。

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