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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十四部 第一話 その少女が求めるものを僕らは知らない
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その壊滅寸前を僕は知りたくなかった

 綺麗な放物線を描き、空飛ぶマターラ。

 回転するタングスタートルへと向かい、そして……弾かれた。


「オウ、シット!?」


「いや、分かってたよね!? 回転する亀の穴に狙って入れれる訳ないでしょーっ!?」


 弾かれたマターラは空に飛び上がったマホウドリが引っ掴み救出。

 誤爆する可能性をなんとか回避できた。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 未だタングスタートルを止めようと根元で粘る至高帝。全裸の身体にミミズのように這う血管の群れ、彼が全身全霊をもって押し止めようとしているのが容易に理解出来る姿だ。

 その御蔭かタングスタートルの回転速度が徐々に押さえられていく。


「うおおおおおおおおおお……っ!?」


 だが、唐突だった。

 ぶちり、と聞こえるようなその光景は、皆が思わず見つめてしまっていた。

 至高帝の血管が切れた。

 タングスタートルを抱えたまま真っ白に燃え尽きた至高帝。その死力によるものか、ついにタングスタートルの回転が止まる。


 チャンスとばかりにマホウドリが羽ばたき、穴の一つにマターラを投げ込んだ。

 僕は至高帝を即座に救出して回復魔弾を打ち込んでおく。

 無茶し過ぎだろ、安らかな死に顔してんじゃないよ。まだ生きてるじゃないか。


「のじゃー?」


 大丈夫なのじゃ? と心配そうに寄って来たのじゃ姫に看病を任せ、僕は他の怪我したメンバーを救出に向かう。


「いっけー、マターラ!!」


 セキトリの叫びに反応し、マターラが中性子爆発を行った。

 衝撃波が穴から飛びだし天井へと向かって行く。

 ビキリ、流石に威力が高過ぎたのか甲羅に亀裂が走った。


「ギエエエエエエエ!?」


 慌てて足を引っ張りだしマターラをはじき出すタングスタートル。

 ぐらんぐらんと揺れ動き、自力で身体を元に戻した。

 咆哮が耳朶を打つ。


「か、ふっ。み、皆さん無事ですか?」


 壁から這い出て来たリエラが皆を気遣う。

 よかった、気絶から立ち直れたかリエラ。

 そんなリエラは剣を構え、目を閉じる。


「私が……やらなきゃ。私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ……」


 自分を追い詰め高みへと自身を引き上げる。

 リエラの奥義、涅槃寂静が発動した。

 見開く瞳、リエラの纏う雰囲気が一瞬で切り替わる。


「涅槃寂静……全力で、行きますッ!」


 顔を出したタングスタートルもリエラの雰囲気に気付いてさらに猛る咆哮で応戦する。


「ステータステラブースト、光速突破……幻影斬華!」


 いくつもの幻を作りだし走りだすリエラ。光を越えるその速度に、タングスタートルも眼を見開く。


「おおおおおっ、角龍乱舞ッ!」


 幻影斬華からの角龍乱舞。ミックス・スキルが発動し、二つのスキルを一つに纏め上げる。


「角龍斬華ッ!」


 無数の幻が実体をもって連撃を叩き込む。全身にリエラの斬撃を受けたタングスタートルは、しかしダメージになっていないように、煩わしげに尻尾を振るう。

 地面が穿たれ土の礫がリエラの幻影に襲いかかった。


「麒麟天獄殺!」


 頭上にあったタングスタートルの顔面に飛び上がるリエラの渾身の連撃。

 しかしタングスタートルには、1ダメージづつしか入っていないかのようだ。


「弾指那由他斬ッ!」


 リエラの最終奥義。

 無数の連撃がさらにタングスタートルに打ち込まれる。

 だが……


「痒イゾ小娘ガッ」


 タングスタートルは首を真上に上げると、空中に居たリエラ向けて思い切り打ち降ろす。

 まさかの攻撃に空中に居たままのリエラは逃げる場所すらなく撃墜されてしまう。

 地面が爆散しリエラが打ち込まれた。

 うつ伏せに倒れたままのリエラはそのままぴくりとも動かない。


 というか、これ無理ゲーだろ。あいつ硬過ぎ、いや、硬いなんてもんじゃない。あれはもう、破壊不能……ん? 待てよ。破壊不能オブジェクト……そしてあれは駄女神が作ったと思しき存在。

 まさか! デバッグ仕様か!?

 おい、ちょっと神様。そう、お前だよお前グーレイ。ちょっと顔貸せや!!


 ……だめだアイツこの世界見てないぞ今。

 マズいぞこれ、駄女神のせいで皆が大ピンチだ。

 どうやって倒す? もう、バグしかないんじゃないか? これ神様の不手際だし使っちゃってもいいんじゃね?


 リエラを踏みつぶそうとするタングスタートルに、僕は決意と共にバグを溜め込む。

 これが最後になるのだろうか? 否、例えそうだとしても、アルセを、リエラを助けられるなら、僕は……


「そこまでにして透明人間さん」


 ……え?

 ふと、気付けば、僕の隣、レーニャとは逆方向にそいつは居た。

 ……なんで、君がここに?


「大丈夫。私に任せて。こういう時の為に、今まで辛いの我慢したんだもの」


 颯爽と歩くその女は、赤紫の髪を靡かせ歩き出す。

 まるで時を止まった世界を歩くかのように、迫るタングスタートルよりも早くリエラに辿り着き、リエラに背を向けタングスタートルに対峙する。


「あ、貴女は……」


 気絶していたのだろうか? はっと顔をあげたリエラが見たのは、いつか居た少女の背中。

 赤紫の見覚えのある髪を揺らし、背中越しに顔だけをリエラに向けて微笑む。


「ただいま、リエラ」


「パル……ティ、さん?」


 パルティエディア・フリューグリスが……帰還した。

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