その少女の目的を僕は知らない
「此度はわざわざ我が国の窮地に駆け付け神の奇跡を振るわれたこと、感謝の意を示したい」
国王、というか公王? が玉座から立ち上がり、僕らが整列している場所へとやってくる。
段上の玉座から階段二つ分下にある広間に敷かれた赤い絨毯。入口から玉座まで続くそこに立っていた僕らの元までやって来たゼオス王はアルセの前にやってくると、片膝を付いて視線を合わす。
「アルセ神よ。このゼオス。そなたらの働きに感謝を示したい。しかし、公王として上のモノへの感謝の示し方を知らぬゆえ、御無礼を許して頂きたい」
「お?」
アルセは理解できてません公王陛下。
しかしゼオス王は気にした様子なく、アルセの頭を軽く撫でると、孫に出会ったお爺ちゃんみたいに好好爺と化した。
「本当に、こんな幼い姿で神とはな。全く世界は不思議に満ちている。アルセ姫護衛騎士団リーダー」
「あ、は、はい」
「その方らの働きに我が国は感謝の意を示し金1億ゴスと瞬影の皮衣を授ける」
バカなっ!?
周囲に居た貴族が声を揃えて叫んだ。
なんか凄いモノ授けちゃったみたいだゼオス王。
「公王陛下、お言葉ですが瞬影の皮衣は先代陛下がヘルンドル帝国から公王の座を頂くために手に入れた我が国の国宝! それを幾ら盗賊討伐を行ったとはいえただの冒険者パーティーになどっ」
確かにそれはごもっとも。宰相さんらしき人の焦った顔も仕方ないだろう。
しかしゼオス王は首を横に振る。
「確かに、彼らはお前からすればただの冒険者パーティーであろうな。だが我はマイネフランであの奇跡を目の当たりにした。聖女リエラ、そして神アルセよ。我が国はそなたらの為ならいくらでも協力は惜しまん。何やら各国でいろいろとしておるようだし、我が国がやるべきことは何かあるかな?」
「おっ!」
待ってました! とでもいうようにアルセがこくりと頷く。
アルセ、本当に分かってる? ゼオスさんの言葉理解出来る?
そんなアルセはとことこと歩き出すと、玉座へと向かう。
なんだ? とゼオス王が小首を傾げ、彼女は何をする気だ? とリエラに視線を送る。
しかしリエラも分かる訳が無く、アカネに視線を送った。
そしてアカネは視線を逸らした。
玉座にやって来たアルセは、くるっと回って玉座にぽすっと座り込む。
皇帝アルセ誕生っ。
何してんのアルセ!?
「おーっ!!」
ざわつく謁見の間。流石に公王の目の前でこれはダメだと思ったらしく宰相が慌ててアルセを玉座から引き離そうとする。
しかし、それより早く玉座のすぐ側から床を割り砕き出現するヒヒイロアイヴィ。
アルセの楽しげな声と共に急激に伸びた蔦が玉座を囲むようにアーチ状に伸び、さらに周囲に広がって行く。
な、なんか玉座の間が禍々しい感じになったんだけど……
蔦を張り巡らせたアルセはぴょいんと玉座から飛び降りると、戻って来てゼオス王の背後に回り、彼を押して歩かせ始めた。
「な、何かね? あ、アルセ神?」
ゼオス王を玉座に戻したアルセは座って座ってとでもいうように玉座を指し示す。
ゼオス王が仕方なく玉座に座ると、アルセは蔦を見回し、うむっと頷くと、ポシェットから紙とペンを取り出し落書きを始める。
アルセの意味不明な動きに付いていけない皆はただただ次は何をする気かと戦々恐々。流石に神と呼ばれている存在だけに宰相や貴族も彼女を止めるに止められないようだ。
「お!」
できた! と書いていた紙をゼオス王に見せる。
うん、まずは鎧だね。これは他の国でもやってたように鎧作ってってことだよね?
もう一つは……なんだこれ? 投石機……かな?
「これを……作れと?」
「お!」
アルセの蔦でこれを作れか。投石機とか凄い面倒そうだけど……
「ふむ。投石機ならば我が国にもある。作り方は知っておるから別に構わんが……もう一枚はなんだね?」
アルセがぺらりと紙をめくって最後の絵を見せる。
それは今まで書かれたことの無かった絵だった。
地図だ。それも僕らが行った事のある国々が描かれた地図。
簡易にはなっているけど、ここ、メリケンサック公国からいくつもの国に矢印が飛んでいる。
そしてこの国の少し上に、投石機の絵。
「この国で作った投石機を、各国に配れ。そういうことか?」
「おーっ」
ちょっとアルセ。それって必要? というかアルセはなんでそんなの作らせようとしてるの? しかも各国に配るって……
「ふむ。やり方は確立されておるし素材もある。凄いなこの蔦は。自己再生するのか。ならば素材が枯渇することも無いか。時間はかかるがやって出来んことはないな」
よろしくお願いします。とアルセが可愛らしくお辞儀する。
アルセ、これ、悪戯じゃないよね? アルセは何と闘う気なの?
ちょっと僕アルセに付いていけない気がします。




