その悪夢からの脱出を彼女達は知らない
アカン。これアカンやつや!
アルセを抱え全力疾走。後ろにはバグ化したモザイク人の群れが迫り来る。
なんだこの恐怖。なんか前に見た悪夢を彷彿とさせるぞ!?
あの時はナスビ型アルセだったけど今回はモザイクだ。これはない。アルセになるならともかく、いや、アルセになるのもなんか嫌な気はするけどっ。やっぱりアルセは傍で見ているべきで自分が成るもんじゃない。
「きゃっきゃ」
アルセ、じたばたしないっ。
これは遊びじゃないんだよっ。
あいつらと鬼ごっこしてるわけじゃないから。
つかあいつら走ったりして来ないな。
背後からしか出現しないのは牢屋から徐々に浸食し始めてるからだろう。
事情を知らない盗賊達が逃げ出す捕虜に驚くが、僕らは彼らが剣を引き抜こうが罵声を浴びせようが気にせず、ガムシャラに出口を目指す。
後に残された盗賊達はモザイク人たちの餌食になってモザイクが増えていく。
アレになったら僕らもどうなるかわかったもんじゃない。バグだから僕だって危険だ。バグがバグ化したらもはやどうにもならない状況になりかねない。
「もうすぐ出口だ! 急げよ!」
牢番が叫ぶ。
皆、無我夢中らしく誰も返事すらせずひたすら前に走って行く。
あ、小娘こけた。
アルセに突っかかった貴族の女の子がこけたので僕が拾いあげて小脇に抱える。
「ひゃ、な、何?」
右にアルセ、左に小娘。
普通ならこの状態で全力疾走とか無理なんだけど、今はそんなこと言ってられない。足の腱が切れるかと思う程に必死になって僕だって走る。
「ああああああっ。身体が、身体がァッのっぴょろーんっ」
「なんだァてめぇらっぎゃあぁぁぁぁっ」
「ひぃ、俺が悪かった! 盗賊からは足を洗う、だからああぁぁぁぁ」
後ろから盗賊達の断末魔が聞こえる。
ごめん、なんか物凄くごめん、本来なら謝る必要のないはずだけどごめんっ、マジごめん。
バグ弾調子乗ってばら撒いたのは僕です。犯人僕ですっ。
「光が……」
「ああ、あそこが入口だ。全員もうすぐだ。急げ!」
女子供達が次々光の外へと脱出する。
悪夢は終わるとでもいうように脱出した彼女達はそこで力尽き転がりながら地面に倒れていく。
って、まだ終わりじゃないから!
「ああ、大丈夫だよバグ君。君で最後。これ以上は誰も出て来ないさ」
洞窟入口から脱出した僕に、横から声が掛かる。
え? と驚いてそちらを見れば、メガネを掛けたグレイ型生物が一匹。
か、神様来ちゃった!?
「とりあえず、このダンジョンは隔離しといたから、はい、これで封印完了」
と、岩を入り口に作成するグーレイ神。
さすが神様というべきか、一瞬で出現した岩に、皆が呆然と魅入っていた。
「まったく、やってくれたねバグ君。そしてアルセ。僕はこれからここの後始末をしなくちゃならなくなったじゃないか。こんな強烈なバグ削除するのも怖いぞ。解析してからじゃないと消せもしない」
マジすか。なんかすっげーヤバいバグり方しちゃいました?
「世界のメインシステムにまでバグが及んでるんだ。流石にこれは見過ごせないよバグ君」
あー、その、ごめんちゃい。えへ。
「沙汰は追って連絡しよう。とりあえず、だ」
溜息を吐いたグーレイ神は呆然とする皆に視線を向け、浮き上がる。
「神……様?」
ホーテ君が呆けた顔で呟く。
「やぁ初めまして我が子供達。世界中に告げたまえ。デニム盗賊団はアルセ神の神罰を受け崩壊した。あまりの神罰によりこの洞窟は私の名をもって封印処置とする。決して開くことのないように。ここを開けば絶望の群れが君達を襲い世界をも破壊し尽くすだろう」
まさにパンドラの岩戸とでもいうべき存在が世界に出現しちゃいました。
いやー、これは後年どっかの馬鹿が邪神降臨とかいいながら開いて世界滅亡の危機を起こすフラグですな。グーレイさん、マジで早めになんとかしてください。土下座しときます。
アルセと貴族の女の子を降ろした僕はその場で綺麗な土下座を披露する。
グーレイさんはそれを一瞥だけして再び溜息を吐いた。
「全く滅茶苦茶にするだけして後片付けは私任せかい。まぁいい。諸君らに天罰が下らぬことを祈るよ。では、これで」
すぅっとグーレイさんの姿が消える。
夢現の人々はしばし消えたグーレイさんの居る場所をぼぉっと見続けているのだった。
「凄い。俺……神様に会っちゃった」
「アレが……マジで神かよ」
牢番のおっさんも思わず頬を抓る。
結局盗賊で生き残ったのはこの人と洞窟の見張り役で外に出ていた二人の下っ端だけのようだ。
その下っ端二人は何が起こったのか全く理解できず、いきなり現れた銀色宇宙人が洞窟の入り口塞いで消え去ったという事実に混乱しているようだ。
とにかく、捕虜は全て生還、導いた牢番も生還、デニム盗賊団は壊滅……か。
あ、リエラ達だ。おーい、こっちこっち!
どうやらリエラ達が僕等奪還に動いてくれたようで、アルセを見付けたアルセ姫護衛騎士団のメンバーが手を振って駆け寄って来てくれていた。




