その逆鱗に触れていることを盗賊達は知らない
「はぁ、結局俺が牢番かよ」
ホーテ君に話しかけてた盗賊のおっさんが頭を掻きながらどかっと椅子に座った。
丁度牢屋が見える位置で、椅子の前には簡素な木で作った机が一つ。
しかし、盗賊って大体牢屋持ってるよね。一体どうやって作ったんだろう?
まさかDYKやってたりするのかな?
「おい、おっさん」
「あンだよ坊主。出したりはしねぇぞ。悪いがお前らは奴隷として別の国に売られるんだからよ。それまではそこで静かにしてな」
男の言葉に掴まった子供たちがしゃくりあげる。泣きだす子も現れ、泣き声の大合唱。
これ、確実に至高帝、だけじゃなくロリコーン紳士が群れなして救出に来るんじゃないかな?
「はぁ、ったく国襲って女子供売るとか、頭目は何考えてんだか」
どうやらおっさん、今回の拉致には反対派のようだ。
「なんだよおっさん。嫌なら解放してくれよ」
「アホか。ンなことしたら俺が斬り殺されるわ」
「お、お、おっ」
あ、ちょっとアルセ。踊っちゃダメだよ。
泣きだした皆を元気づけるかのように踊りだすアルセ。笑顔なのは本人捕まった感覚ないようです。
全く、アルセはもう、もう。
まぁ本人が楽しいならいいか。もうちょっとしたら皆も来るだろうし、盗賊達の成敗はリエラたちに任せちゃうかなぁ。
「ちょ、なんで踊ってんだこいつ?」
「俺に聞くな俺に。魔物だっつったろ。魔物の考えなんぞ分かるか。……でも、なんかすっげぇ楽しそうだな」
泣いていた女の子たちもアルセの踊りを見て笑う子が多くなる。
流石アルセだね。皆のアイドルアルセ。うん、アルセ今度アイドルコンサートやってみる?
マイネフランとかだったら絶対皆楽しんでくれると思うんだけど。
「止めなさいよっ」
が、折角アルセが踊っていたのに水を差すように女の子が叫ぶ。
勝気な瞳の少女は、服装から貴族であると思われる。
「お?」
「私達拉致されたのよ! これから売り飛ばされるの! 奴隷にされるのよっ。なんでそんな楽しめるのよっ」
彼女の叫びで再び泣きそうになる少女達。
心情が分かるだけに女性達も彼女に反論など出来なかった。
少年達も悔しげに拳を握る。
けれど。そんな激昂した少女に歩み寄ったアルセは、彼女の手を引っ張ると、驚く少女を無理矢理踊りに参加させる。
二人で両手を掴みながらクルクル回る。
意味が分からずされるままだった少女は、しかし笑顔のアルセを見て涙を流し、それでも応えるように泣き笑う。
「何で楽しめるのよ、ばかぁ……」
「お~」
ほら皆も。みたいに誘うアルセ。
戸惑いながらも一人が輪に加わると、子供達がわんさか集まりアルセと手を繋いで回りだす。
年頃の女性陣たちもそれを見てクスリと笑う。
絶望的状況なのに、アルセの御蔭で華やぐ牢屋に早変わり。
牢番のおっさんがなんとも困った顔で頭を掻いていた。
「なんつーか、罪悪感ハンパねェな」
「だったら脱出させてくれよおっさん」
ホーテ君の言葉に、しかしおっさんは首を振る。
「俺だってこんなことぁしたくねぇんだ。でもよ、膨れ上がった盗賊団維持するためには金がいる。俺らだって餓えて死にたくぁねぇしな」
それで拉致した国民売り飛ばす。と、酷いことの言い訳してんじゃないぞおっさんっ。
ただ、おっさんもアルセの行動が心を刺激したようで、でもなぁと葛藤を始めていた。
盗賊まで改心させるのかいアルセ。君は優し過ぎるよ。
「おぅヒッグス。確かアルセイデス一匹捕まえてただろ」
「ンあ? それがどうした?」
「頭の命令だ。殺して蔦を手に入れる」
「え? いや、ちょまっ」
無遠慮にやって来た二人の男が、立ち上がったおっさん、ヒッグスだっけ? から鍵を奪い取り僕らの牢へとやってくる。
踊りを止めて怯える子供達。それらを咄嗟に庇うように抱き寄せる女性達。
一人、アルセだけはきょとんとした顔で牢に入って来た二人の男を見つめる。
「なんかすげぇ頭だな」
「つかこれ、本当にアルセイデスか? 俺見たことあるけど形状違うぞ?」
「なんだろうとかまわねェだろ。蔦売りゃあ10万ゴスだぜ」
「まぁ、そうだな。ンじゃ、死ねや」
お前らがなっ!
シミターだろう。曲刀を振りあげた男をポシェットから取り出した日本刀で切り裂く。
「そらぁ……ぁるぇ?」
思い切り振り下ろす男。しかしその腕は既に存在せず、振り下ろした腕は空を切り、どさりと背後に剣を持った腕が落下する。
「お、お前、なん……」
アルセを殺そうとしたよね? 無遠慮に切り裂こうとしたよね?
うん、もうバグらせちゃっていいよね?
食らえ盗賊ども。これが怒りの……バグ連射だ!
僕は自身の怒りをそのまま投げつけるようにバグ弾を二人の盗賊へとブチ込んだ。
ちょっと奮発し過ぎて幾つか地面とか牢屋の格子に当ったけど、まぁ問題なし……問題……あ、これちょっとヤバい。




