AE(アナザー・エピソード)・その時間制限があることを彼女らは知りたくなかった
「アルセが攫われた!?」
盗賊達が撤退し、アルセ姫護衛騎士団は噴水広場前で集まって報告会を行っていた。
アカネの言葉にリエラが思わず驚く。
「すいません。私が不甲斐ないばかりに」
謝ったのはハレッシュ。マッシュルームカットの自称勇者である。
彼は自分の目の前でやすやす盗賊に子供達が攫われたのが許せないらしい。
「参りましたね。時間がありません。殺されたり凌辱される前に助けないと」
「でも、場所が……」
ギリアムとクルルカの言葉に、しかしアカネが否定する。
「殺されたりはないわ。それに大丈夫よクルルカ。居場所については至高帝とルクルが知ってる。幼女の味方である至高帝はアルセの場所が分かるし、私やルクルにはソナースキルがあるから」
「それって……あの人も、そこに?」
ゴクリ、リエラが驚愕に生唾を飲む。
「ええ。だから凌辱やら殺される心配はないの。でも時間が無いのは確か。急いで救出に向かわないと、手遅れになるわ。……盗賊が」
そう、アカネの心配はそっちである。
何しろ奴らは一番やってはいけない禁忌を行ってしまっているのだ。
アルセを彼の前で拉致するなど言語道断。ロリコーン種でさえやらなかったことをやってしまった。しかも過激過ぎるモンスターペアレンツの目の前で、である。
さらにそいつの能力は、攻撃スキルも防御スキルも意味を成さない。彼らにとっての味方には都合いい、しかし敵対者には容赦の無いバグを付与する全身生体兵器が本気を出してバグらせに来るのだ。
本当に時間との勝負である。透明人間が暴走する前にアルセを救えるか。
その時間は一日あるかもしれないし、今この瞬間既に手遅れになっているかもしれない。
制限時間などないに等しく、ミッション開始早々護衛対象が死ぬようなゲームをしている気分である。
「「「え? 盗賊が?」」」
意味が分からずアカネに聞きかえすハレッシュ、セネカ、ギリアム。
新参者の二人とこの地の勇者では彼の恐ろしさなど分かるはずもなかった。
「いい、よく聞きなさい。アルセが拉致されたのは、二度あるわ。一度目はマイネフランで貴族の一人が拉致したの。その日のうちに貴族邸が崩壊したわ」
「は?」
「次にグーレイ教で教祖と共に消えたアルセに教祖誘拐の疑いが掛かったの。どっちが拉致されたかは私にも判別付かないんだけど、その時グーレイ教本部が崩壊したわ」
「そう言えば、そんなのもあったなぁ」
アニアが思わず遠い目をした。
彼女としては空気のようにただ一緒に居ただけだったのだが、なかなか濃ゆい経験だったなぁと思わず自分の人生まで振り返りだしていた。
「とにかく、放置すれば放置するだけ盗賊達に地獄が待ってるのよ」
「えーっと、それは、急いで救出に向かう必要が無いと聞こえるのですが……」
ハレッシュの言葉にアカネはふざけんなっと怒りの顔を向ける。
「馬鹿なのっ! 盗賊だって生きてんのよ! せめて人として死なせてやるべきでしょ!」
「人としてっ!?」
「アルセ姫護衛騎士団全力フル稼働。盗賊どもの生死は問わないわ! 速やかにアルセを救出して盗賊達を人として死なせてやりなさい」
部外者のハレッシュには意味のわからない台詞を吐くアカネ。
しかしアルセ姫護衛騎士団には伝わってしまったらしい。
至高帝とルクルが走りだし、パーティーメンバー全員がその後に続く。
「なんというか……凄いですね」
「何が凄いのか知らないけど、騎士団はどうするの?」
「私達ですか。騎士団の方は街の被害の点検などをしているはずなのでしばらくは国から動けないでしょう。ただし、私はご同行させていただきたく思います」
「そう。なら急ぎなさいな。皆に追い付けなくなるわよ」
「あなたはイイので?」
「私? 私はあとから空軍カモメに乗って行くわ。ちょっと探し物があるのよ」
「……もしかして、それはこれでしょうか……」
ハレッシュは顔を赤らめ目を逸らしながらピンクのショーツをアカネに差し出す。
「がはっ!? な、なんでそれを……っ」
「先程貴女が全裸になった時、空から降って来たモノです。その……あとで持ち主に返そうと詰所に紛失届を出すつもりでした」
強引にひったくったアカネは顔を赤らめプルプルと震えている。怒鳴りつけたいが失態は自分のせいでもあるので何も言えないらしい。
「い、今からだと走ってじゃ追い付けないわね、こっちよ。付いて来なさい」
仕方なく、今の一連の話を無かったことにしてハレッシュを見ることなく郊外へ。
丁度地上に降りて来ていたエアークラフトピーサン達の元へ向かった二人は、空軍カモメに飛び乗り皆の後を追うのだった。
ちなみにアカネはエアークラフトピーサン内でパンツを穿き直した。




