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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その盗賊達がどうなったかを彼らは知らない
1116/1818

AE(アナザー・エピソード)・その彼らの出現が待ち望まれていたことを僕らは知らない

「ゼオス王、ゼオス大公閣下!!」


「なんだ騒々しい」


 メリケンサック公国大公のゼオス・メリケンサックの元へ、その兵士は掛け込んできた。

 謁見の間には謁見中の男が一人。

 冒険者にしか見えない男は玉座に座るゼオスに傅いていたのだが、無遠慮に駆けこんできた兵士に気付き、顔を上げて後ろの兵士を見る。


「今は勇者ハレッシュの謁見中だぞ?」


「もうすぐ終わる。それまで待ってくれないか? 直ぐに盗賊退治に向かうから」


「ち、違います! 確かに国内に盗賊が入り込み火の手は上がっておりますがそれとは別で……」


「はぁっ!? そんなことは聞いてないぞ!? 国の中に盗賊が入り込んだ!?」


「え? あ、はい。かねてより警戒していたデニム盗賊団の大軍団が1000人規模で攻めて来まして、対応しようとした矢先に別の場所で火の手が! 今騎士団を向かわせております」


「報告をせんか馬鹿者ッ!」


「そ、それが、ハレッシュ殿の謁見だからあとにせよと先程……ですがそれ以上に感化できない状況でこうして乱入させていただいた所存でございます。この罰は後でいかようにもっ」


「くっ。まぁいい、罰は後で告げる。それで、貴様の報告はなんだ? 盗賊ではないのなら何があった?」


「そ、それが、巨大な鳥の魔物が我が国へ高速接近しております。間もなく上空を通過、真っ直ぐにこの国を目指しておりますので……」


「巨大な魔物? ええい、要領を得ん」


 ゼオス王は毒づきながら考える。

 しかし、巨大な鳥と考えた瞬間、ピンと来た。

 今は勇者と膨れ上がった巨大盗賊団をどうすべきか相談していた最中。まさか件の盗賊団から国に攻撃を仕掛けて来たのは驚きだったが、そこに巨大鳥出現。


 そしてこの前ギルドからとある冒険者パーティーが巨大鳥・・・に乗って各地を回り、攫われた子供を送り届けているのでその内この国にも来るだろう。そんなことを聞いていた。

 しかもその冒険者パーティーは、ゼオス王の良く知る存在であった。


「まさかそんな偶然は……いや、だがもしもそうであるならば、この国の危機を察して来てくれたか? ありえん話ではないな。となると我らがやるべきは……」


 顎に手をやり熟考したゼオス王は、不意に顔を上げて兵士に視線を向けた。


「そこの兵士よ、騎士団に急ぎ伝えよ、巨大鳥への攻撃は禁止、そこから降りて来た人物があれば現状の盗賊団との戦況を伝えて協力を取り告げ。謝礼は後で国が払う」


「は! ……え? 降りて来た人物?」


「いいからさっさと告げて来い! もしも彼らと敵対でもしてみろ、貴様の一族郎党全て極刑だ」


「はっ! 一言一句違わずっ」


 兵士が慌てて走り去る。

 それを見届けたゼオス王は勇者ハレッシュに視線を向けた。


「ハレッシュ。お前はアルセ姫護衛騎士団を知っておるか?」


「は? アルセ姫護衛騎士団……ですか? いえ、どこの騎士団です?」


「マイネフランからコルッカにかけて活躍している冒険者パーティーだ。騎士団ではない」


 だが、とゼオス王は懐かしむように虚空を見上げ告げる。


「彼らは巨大な鳥に乗って今、各地に子供達を送っているらしい。この前ロリコーン紳士種による拉致事件があったのは覚えておろう?」


「はっ。この僕の目の前で起こったことゆえ……」


 その時のロリコーン伯爵の姿を思い浮かべ、ハレッシュは思わず拳を握った。


「僕の目の前で将来を誓い合ったカノンちゃんを……あの魔物、絶対に許さん」


「フフ、そのカノンとやらを救いだしたのがアルセ姫護衛騎士団。今はマイネフランの聖女、リエラ様がパーティーリーダーをしており、アルセ神という神がパーティー内に居る」


「自称神が、ですか?」


 胡散臭そうな目をするハレッシュに、否とゼオス王は首を振る。


「グーレイ神教本国でグーレイ神から神託を受けたらしい。神がアルセ神を神候補であると認める、とな」


「では、本物の神に最も近き存在がパーティーに存在していると?」


「巨大鳥の襲来、盗賊どもの決起、まるで奴等が事を起こすのを待っていたかのように、神が神罰を下しに来たようではないか?」


「まさか……いえ、ですが、確かにもろもろの現象を加味するとこれは運命のようにも思えてくるような……」


「勇者ハレッシュに命じる。アルセ姫護衛騎士団と合流し、デニム盗賊団を壊滅させよ」


「はっ! この命に代えまして」


 挨拶を終えてハレッシュが去って行く。

 側仕えしかいなくなった謁見の間でゼオスは玉座に深く腰掛ける。


「さて、本当に神の思し召しならばよいが、アルセ姫護衛騎士団か……カイン王の結婚式以来だな……あの時の奇跡を、また起こしてくれるかアルセ神よ」


 くっくと笑い、ゼオス王は虚空を見上げる。

 空を舞う草姫の姿を夢想し、思わず楽しくなるゼオス王だった。

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