その新たな商業が軌道に乗るかを彼らは知らない
「成る程、それがアフロ化屋ということなのね」
「ええ。いかがです? どちらにも損はないと思いますが?」
ギルド長室で、アカネさんとギルド長の舌戦が繰り広げられていた。
アフロ好きガニはアカネの横に無理矢理座らされて困った顔をしているが、その横に座るアルセが笑顔なので大人しく座っているらしい。
多分心情としてはさっさとこの部屋から出たいと思っていることだろう。
「そうね。確かに損はないわ。あなたとアフロ好きガニ双方には、ね」
「……と、いうと?」
「アフロ好きガニのアフロ化屋だけど、教会に併設させて貰うわ。アルセ教会ぺズン支部に。アルセの奇跡を一枚噛まさせて貰うわよ」
「ああ、成る程。確かに彼を改心させたのはアルセ神様。そこを押し出す訳ですね。いいでしょう。こちらとしてもその辺りは問題ありません」
「そう、なら詳細を詰めていきましょう。書類にして貰うわ」
「書類に、ですか?」
「ええ、私達が預かるモノとギルド所有のモノ、それと王国に補完するモノを三つ。それぞれ差異が無いかはそうね、セネカ、悪いんだけど確認して貰えない? 第三者が見て貰った方がいいでしょうし」
「え? 私ですか」
アカネさん、実はこれ計算尽くです。
何しろセネカさん王族だから、これ以上の証人はいないでしょう。
「確認するだけだから問題ないと思うけど、ダメかしら?」
「いいえ。その程度でしたら問題ありませんよ」
ちなみに、本日もセネカさんを貸し切りさせて貰った僕等、昨日友達と焼き肉して来たのかセネカさんから肉の匂いが凄いです。ぺズンではニンニクは使ってないのかな? 特有の匂いはしてない。
あ、でもアルセには不評なようで、鼻をつまんでくちゃいくちゃいしてました。
焼き肉するのはいいけど次の日までには服についた匂いも何とかしないとアルセに嫌われちゃうね、まぁ僕はそこ気にする必要なさそうだけど。
そういえば匂いとかどうなってんのかな?
ギルドを後にした僕らはセネカさんに案内されるまま水路を移動する。
城に一度寄ったけど、それはアカネが書いた書類を保管して貰う為のモノであり、詳細はセネカが説明してくれたので宰相さんが丁寧に保管してくれることになった。
あと宰相さんもアフロ化屋が出来た暁にはぜひとも私にも、と熱いエールを頂きました。バーコードだったからなぁ。アフロ好きガニ、結構繁盛しそうだよアフロ化屋。まぁ最初の方だけだろうけど、いや、でも冒険者の口コミで各国から来かねないか。
アフロ好きガニはゴスはあまり必要ないらしいので手に入ったお金は冒険者ギルドに収めるモノ以外は教会のお布施になるそうだ。
お布施なので商業ギルドが絡んでくることも無い。ついでに競合相手もいない、いい職につけたものだ。
人気の無くなった通路をゆっくりと進む。
たまのゆったりした時間なためか凄く落ち着く。
アルセ、リエラ、ルクル、アカネ、アニア、テッテ、落ちこぼれニンニン、ジョナサン、メイリャ、至高帝、ギリアム、アフロ好きガニ、子供四人がセネカのゴンドラに乗ったままゆったりと景色を眺める。
アルセも目を輝かせてゆったりと水路の移動を楽しんでいるようで、テッテと並んでおーとかほえーとか呟いていた。
至高帝が子供達にどういう建物があるか教えたりしているが、結構デタラメのようでメイリャが違いますよとやんわり窘めている。
「ふむ。なかなかいい眺めなのだが、こう、踊りたくてむずむずするな」
「ちょっとジョナサン、動かないでよ、転覆したらトルネードピクシーキックお見舞いするわよ!」
「忍!」
「あんたもよ。水の中で水遁したら溺れるわよ。誰も助けないからね。あ、でも助けたらアルセ教会に10000ゴスほどお布施入れなさいよ」
強制お布施入金の刑。酷過ぎるよアカネさん……
「はい、あそこが桜並木でーす」
「わぁ……」
「あれは……万年桜ですか。一年中咲いているという」
「ええ。国王陛下……まぁお父さんがロックスメイア訪れた際に桜が気に入ったらしくて、わざわざ高い金だして買って来てここに植えたの」
桜の花びらが風に吹かれてひらひらと舞う。近くの風車に巻かれ何処までも飛びゆく姿は、まるで自由の翼を得たように、遥か遠くまで飛んでいた。
水面に浮かぶ城よりも高い位置に存在する水路なので、城が一望できる観光スポットらしい。
夕焼けどきが一番綺麗らしいのだが、今は昼前なのでそこまでの雄大さはないらしい。桜の花びらと共に風に吹かれるセネカ。案内人は風に飛ばされないように帽子を手で押さえ、スカートを風に靡かせる。
どこか一枚絵になりそうな光景に、僕は自然脳内激写を行っていた。
そんな視界の片隅で、リエラの隣にギリアムが居るのが映る。
なんだかもやもやとしたものが湧きおこった気がしたが、セネカの姿を見ていたせいか、そんな思いも直ぐに風に吹かれて消えていった。




