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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その盗賊達がどうなったかを彼らは知らない
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その女の本音を彼らは知らない

「は? アフロ化屋?」


 アルセ姫護衛騎士団で取っていた宿に向かった僕らが一緒について来たアフロ好きガニについて説明すると、アカネさんが馬鹿かあんたら。みたいに吐き捨てるように告げました。

 酷いっ。落ち込んでてもアレだけどいつもの毒吐く女に戻った彼女はやっぱり酷かった。

 どっちがいいかと言われれば微妙だけど……というか足して二で割ることできませんかね?


「ちょっとリエラ。それ無償で了承した訳じゃないでしょうね?」


「え? えーっと……」


 正直終始ギルド長の独壇場で終わってた気がします。


「駄目ね。商談関連は私が居た方がパーティーの得になりそうね。クルルカでもいいけど……」


「いえ、私は明日重要な用事があるので」


 それはデートという用事ではありませんかね? 私達とデートどっちが重要なのよっ。いや、デートだろうけどさっ。


「すいませんアカネさん」


「いえ、付いて行かなかった私も悪いわ。とりあえず今日はゆっくり休みましょ。明日セネカさんが迎えに来たらギルドに向かうわ。アフロ好きガニだっけ、あんたも一緒よ、おっけー?」


「ぎゅりり」


 頷いたアフロ好きガニがアカネにハサミを向けて来る。

 どうやら握手したいらしい。

 リエラがソレを告げると、挟まれない? と恐る恐る握手するアカネ。


「それじゃ、今日はこちらで休んで、明日はセネカさんが言ってた桜並木という場所見に行きましょうか?」


「あ、すいません先程もいいましたが明日となると私とセキトリ様は行くところがございます」


「ぼ、僕らも、ア……ユイアと用事があるので」


「あ、ごめんなさい、コータと別のところ回る予定だから私達もパス」


「え? まぁいいけど、俺そんなの聞いて……」


「お兄ちゃんは黙っとこう」


 コータが何かくっちゃべってたけどテッテに口を塞がれていた。


「のじゃぁ……」


「ワン!」


「えっと……のじゃ姫ちゃんは寝てる、と? ワンバーちゃんも付き添いするの?」


「僕も遠慮しときます。本屋行きたいので」


 ハイネスの横ではレーニャが鍋の中で寝っ転がってます。


「れー「ちゅー」にゃー」


「あーはいはい。レーニャも寝てるってさー。私は行くけどね」


 アニアは向かうようだ。ただ、その横にいたマクレイナがアンサーに一緒にデートスポット回りませんか? とか告げてます。

 アンサーは困った顔で、でも仕方ないですねと了承していた。

 アンサーは尻に敷かれるタイプなのかな?


 男女に別れ就寝。

 僕は今回大人しく男性部屋にでも行こうかとアルセとバイバイした後だった。

 少し話があるということで、皆が寝静まってから会いたいとアカネに言われた。


 時刻は深夜。月明かりが優しく照らす宿屋前の水路に、彼女はいた。

 岸と言うべきか堤防と言うべきか、水路の縁に腰掛け、靴を脱いだ素足のまま、水路に足をひたして空に視線を向けていた彼女は、バグソナーで僕の接近を知ったらしく、僕に視線を向けてきた。


「来たわねエロバグ。とりあえず隣座りなさいな」


 僕は言われるままアカネの隣に座る。

 珍しいな。あくどい顔か冷めた顔しか見せないアカネがなんだか物憂げな顔で僕を見つめる。

 こうして改めてみると顔は綺麗だよなアカネさん。

 ゴシックロリータ衣装を着ているだけあって人形みたいな白い肌とツインテールの銀髪が印象的だ。イギリスとかフランス辺りの人形だと言われても違和感ない気がする。


「正直……」


 不意に言葉を漏らし、しかしそのまま空を見上げて押し黙る。

 しばし待っているとようやく話を続け出した。


「アルセに窘められた時、怒りしかなかったわ。私はアルセ教のため、ひいてはアルセの為に必死になって稼ごうとしてるのにって。でも、よく考えたらアルセはお金や名声なんて必要ないのよね」


 アルセ教の枢機卿となった彼女にとってもアルセは特別な存在になっていたようだ。

 ただのパーティーメンバーではなく、彼女の為に何かをしてあげたい。そう思ったアカネはアルセ教を拡大させることに心血を注いだ。


 ギルガン王国がそんなアルセ教を知らないといい、アルセをどうでもいい存在と気にも止めていなかった。だからアカネは許せなかったらしい。もちろん、その中に打算とか儲けようと思う下心が無かった訳じゃないけど、それでもアカネなりにアルセ達の為に出来る事をしようとしたんだ。

 だからギルガン王を挑発したり、アルセの邪魔になりそうな国に苦汁をなめさせようとか思ったんだろう。


「調子、乗り過ぎたのかしらね?」


 哀しげに笑うアカネ。銀光に照らされた銀髪の少女が儚く揺れる。

 ちゃぽん。動かした足から水が跳ねる。

 自嘲しながら月を見上げる。その姿はあまりにも可哀想で、なんだかアカネがアカネじゃないみたいだった。


「自分でもね、アルセがなぜあんなことしたのか考えたの。でも、どう考えても神としてのアルセから攻撃されたという事実が、神罰だったんじゃないかって……その後はもう思考停止。正直あんたに誤解を解いて貰えなかったら私どうなってたかわからないわ」


 精神病んで自殺しましたって? アカネさんのキャラじゃないですよソレ。


「ねぇ、エロバグ……」


 ちょいちょいっともっとこっちに寄って来いと招き寄せて来るアカネ。仕方なく肩が触れ合う位に近づくと、アカネは何故か僕に身体を預けてきた。

 あの、これはどういう……新手のイジメですか?

 視線を下に向ければアカネの後頭部が見える。好きな女の子にこんなことされたらそれはもう最高だけど、アカネだからこそ何されるのか、コレが後の地獄に繋がるのではないかと恐怖で身体が硬直する。


「地球に……帰りたい……」


 ……え?

 気付けば、アカネの身体が震えていた。

 もしかして……いや、これは仮定の話になるのだけれど、アカネは本気で、気に病んでたのだろうか? 今もまだ空元気でホームシックにかかってる……とか?


 知り合いのいない異世界。アルセ教という頼れるモノが崩れ去り、寄りかかる場所が分からなくなった彼女にとって、同じ地球という世界を知っている僕は、最後の頼り所なのかもしれない。

 でも、僕は喋れない。何が出来るという訳でもないけれど、アカネもこうしてると一人の女の子なんだな、って。これからはもう少し優しくしようと震える彼女の頭を撫でながら月明かりの空を眺める僕でした。

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