1100話突破記念SS・その怠惰の魔王がいることを彼らは知らない
ただの息抜き回ですみません<(_ _)>
マイネフラン王国の城に、そいつはいた。
五熊王の一人、アクアリウスベアーである。
彼は水で出来た熊のぬいぐるみ。みたいな生物であり、七大罪・怠惰というスキルを持つ魔王でもあった。
そんな彼はぐたぁ~っとうつ伏せに寝転び、廊下の中央付近の端でタレクマと化していた。
彼の目の前には赤い絨毯が左右に伸びており、そこを無数の人が忙しなく行き来している。
彼は不意に目を開く。円らな瞳に移るのは、忙しく歩くメイドの足。あるいはブツブツと呟きながら謁見の間から戻ってくる貴族の足。また、執事たちや秘書官、あるいは将軍なども行きかっている。
少しだけ人物観察を行った彼は、再び目を閉じる。
開かれた窓から差し込む日差しと風が心地よい。
さらにお腹に当る石畳が適度にひんやりとしている。
光が当たるこの場所は、彼のお気に入りの場所だった。
「あら、タレクマさん、こんなところでお昼寝?」
不意に声が掛けられた。
視線を向けるとルルリカという少女が覗きこんでいる。
これでも王の側室である。彼女は小袋に重そうな何かを入れたモノを持ったまま、彼に声を掛けていた。
金色に光って見えるのは気のせいではないだろう。
「まっ」
短く声を返すと、ふふと笑うルルリカ。
「何してるか、ですか? これから資金調達にいくのです。ネッテ様の為に日々努力を怠らない、私、愛されてますから」
白い眼で、悶えるルルリカを見る彼。それに気付かないルルリカはうふふと笑いながら去って行った。どうやら挨拶してきただけらしい。
「お、こんな所にアクアリウスベアーがいやがる」
「最近よく寝てるわよ。日差しが暖かいからかしら?」
謁見が終わったらしい、城下町に繰り出すため冒険者ルックになった国王カインとその后ネッテが彼の目の前を歩いて行く。
「まっ」
短く声を返すと、彼らは手を振って去って行った。
再び目を閉じてしばらく。
うたたねしていると、足早に一人の男が通り過ぎる。
「お、アクアリウスベアーか。丁度良い、カインを知らないか? ちょっと用事があるのだが」
ネッテの兄のようだ。彼は顔を見知ってはいたが、名前は覚えてなかったのでとりあえず外に指先を向ける。
「む、外に出たのか。となると冒険者ギルドかな? 仕方ない。いや、ありがとう。恩に着る」
「まっ」
立ち去って行く男に適当に応えて目を瞑る。
日差しは既に肌寒くなり始めていた。
くぁーと欠伸を漏らし立ち上がる。
眠り足りない。
どれだけ惰眠を貪ろうともこの怠惰感は満足できない。
できるなら一生惰眠を貪っていたいくらいである。
身体を伸ばし、硬くなった身体を解しながら歩き出す。
そこに居ると液体の身体であっても寒いので、アクアリウスベアーは自分たちの部屋へと戻る。
「くま?」
「うが?」
「うまー?」
部屋に戻ると他のクマたちが全員集合していた。
燃えているフレイムベアーの為に特注の部屋であり、暖炉いらずの温かい部屋となっている。
フレイムベアーに近づき過ぎると蒸発して熱いのだが、適度に離れておけばむしろ寝心地のいい部屋なのでアクアリウスベアーは部屋に戻ると同時に自分のベッドに丸まった。
ネコヤグラならぬクマヤグラというベッドらしい。自分のベッドは防水性だ。
「うまー」
我が姫が何かを言っている。
薄れ始めた意識をなんとか繋ぎとめ目を開く。
どうやらアルセ教で起こったことを報告しているらしい。
最近ゴールデンベアーはアルセ教のセインと仲良くなり、よく遊びに行くようになった。
その護衛にスカイベアーも一緒に行っているらしく、二人でオヤツが美味しかったねーとかヘンリーを殴ってみたよとか報告している。
どうやら本日の行動を報告会みたいな感じで皆が報告しあっているらしい。
ゴールデンベアーが話終わると、無言のティディスダディがジェスチャーを始める。
うつらうつらしながら見ていると、どうやら部下と共に街中を警邏したらしい。
子供たちが泣いていたらしいけど、女の子の一部からは人気だったらしく、近づいて来た子供に抱きつかれ、それを皮切りに物凄い数の子供たちに纏わりつかれたのだとか。
フレイムベアーは兵士達に頼まれてキャンプファイヤーの種火になっていたらしい。
なんでも兵士達が年一回の出会いの日だそうで、彼氏のいない女性と見合いのような祭りがあったそうで、その祭りを盛り上げるための炎役を務めたそうだ。
そして最後にアクアリウスベアーの番となる。
と言っても彼が報告すべきものはない。
なのでくぁ~っと欠伸をして、ずっと寝てたとだけ告げる。
フレイムベアーが相変わらずだなと笑うが、こちとら寝る以外の行動など率先してしたくもない派なのである。
なので、報告終了と同時に目を瞑り、怠惰な世界へと意識を拡散させるのだった。
本日も、平穏な日であった。




