その柩を開けるべきではないと彼女は知らなかった
ふぅ。
巨大クリオネの部屋から転がるように脱出した僕らは、階段を上がった場所にある広間で息をついていた。
どうやらクリオネさんはここまで上がってくる事はないらしい。
が、真後ろの扉が思い切り閉まる。
これってまさか。と息を整えつつ立ち上がる僕の前で、扉が開いて行く。
そこから現れる生物を見て、まだ罠が終わっていないことを知る僕だった。
サソリです。
巨大なサソリです。
いや、巨大なサソリっぽい装甲を身に纏った犬がいます。
「な、何ですかアレ……」
巨大サソリ犬……とか?
犬の種類はちょっと可愛い感じがする。セントバーナードって奴かな?
それがサソリ型アーマーを着込んだような魔物だった。
舌を垂らし、はっはっと言いながら耳元に存在する鋏みをカチカチと鳴らしている。
尻尾にある毒針は完全に戦闘態勢に入っており、逆立つようにして針をこちらに向けている。
セントバーナードに乗ったサソリじゃないよね? サソリと一体になったセントバーナードだよね。
途中で分離、しませんよね?
「と、透明人間さん、どうしたら……」
僕は即座にリエラの腰に携えられた魔銃を叩く。
それに気付いたリエラはすぐさま魔銃を引き抜き弾丸を選ぶ。
「行きますッ!」
引き金を引くと共に飛び出す小さな弾丸。
物凄い速度でサソリ犬に激突。刹那サソリ犬が燃え上がった。
ラ・ギライアの魔法弾か。
「きゃああっ!? 燃えながら走ってきた!?」
「コ・ルラリカ、リエラ、コ・ルラリカッ!!」
慌てて叫ぶけどリエラには聞こえていない。
仕方なくアルセソードを引き抜きリエラの前に出ると犬とサソリの結合部向けて剣を振った。
豆腐です。豆腐のような切れ具合。
やっぱり何かを切った感覚が殆ど無い。
そして、やっぱり寄生じゃなくて一匹の生物だったらしい。
切り離されたサソリ部分は地面に落ちると同時にのたうちまわり、犬の部分はリエラに突進してそのまま息絶えた。
乗りかかられたリエラは大したダメージは負っていないみたいだ。
突撃されてビックリして自分からこけた。それだけのようで、体勢的にちょっとエロい感じがするだけで危険は……カシャッ……危険はないようです。
おっふ。背中が血だらけの犬はグロテスクだ。もうちょっと見栄えを所望します。
そう、これ、このリエラが犬に襲われそうになってますよみたいな画像、お宝ですッ。
「透明人間さ~ん、これどけてくれませんかっ」
ほわっ!? す、すすす、すいませんリエラさん。出来心なんです。本当に気が付いたらCG取れてたのでアングルの確認をしていただけでですね。はい、どけるんですね、お任せくださいっ。
犬の遺体をポシェットに入れた僕はリエラを立ち上がらせる。ついでにサソリの方も回収しとこう。
「すいません、気が動転してたみたいで……コ・ルラリカ弾を使えば良かったと今更ながら思い至ったんですけど……」
「気にしないでいいよ。と言っても言葉は伝わらないだろうし……あ、あれでいいか」
僕はリエラの首を固定するとアルセに向ける。
そこでは今の死闘すらどうでもいいというように謎の踊りを踊っているアルセ。
その笑顔を見てるとどうでもよくなってきます。
「気にするなってことですよね。ありがとうございます。でも……本当によかった。落下したのが私とアルセだけだったらと思うと生きた心地しないです」
うん、まぁ多分最初のクリオネに食われてデッドエンドですね。
それでもアルセは普通に脱出しそうだけど。だって魔物だし。
いや、でも、リエラがヤバイとなったら彼が動きだすから大丈夫か。
彼か彼女かと聞かれれば疑問だけど、実は僕らにはもう一人一緒の生物がいる。
そう、今もリエラの頭に乗ったままの葛餅様だ。
全く動く気配無いけど、寝てるのか?
「あ、ここにも柩あるんですね」
壁に立てかけられたファラオ像のような柩。たぶん、全部の部屋にあるんだろうな。クーフはやっぱり一番手前の柩だったんだろう。
でも剣持ちソウタだというのなら一番手前よりは奥に設置されてそうなんだけど。どうなんだろう?
僕らの会話で気付いたのだろうか? アルセもそれに気付いて踊りを止めると、無防備に柩に歩み寄る。
って、待てアルセ! 何する気!?
なんとここでも出現するマーブルアイヴィ。なぜか意志を持つようにうねって柩を取り囲むと、アルセがピアノでも引くように両手をワキワキさせる。
それに従うようにマーブルアイヴィの蔦が蠢き……って、またアルセの能力がパワーアップしてませんか?
「と、透明人間さん、アルセのあの力……私初めて見るんですけど?」
いや、僕も初めて見たよ。多分僕らとパーティー組んでるせいで本来討伐される彼女がレベルアップしまくって覚えた能力なのだと思う。
クラッシュスマッシャ―とかいろいろ倒してたし、さっきのクリオネやサソリ犬でレベルアップして使えるようになった能力かも……っていうか、だからそれ開いたらクーフみたいなのでてくるから! 仲間になるとは限らないんだよアルセェッ!!
僕の叫びは、彼女には届かなかった――――
スコーピードッグ
種族:魔犬 クラス:蠍犬
・犬の背中に蠍がくっついたような魔物。犬が蠍に寄生されたと言うのではなく、元々こういう生物。
腕と呼ばれる鋏と前足後ろ足の四つの足、さらに節足が六本ある。ちなみに節足は犬の背中部分から生えているので足の機能は全くなく何のために生えているのかは不明。
尻尾はふさふさだが先端は蠍のモノで、猛毒を持っている。
ドロップアイテム・蠍犬の尻尾、犬肉、鋏、馬鹿には見えない毒薬。




