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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
  第一話 その世界の名を彼は知らない
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その攻撃を誰がしたのか、彼らは知らない

 慌てて周囲を見回す。

 何か武器は無いかと探し、目に入ったのはアルセだった。

 キルベアが片腕を振り上げた瞬間、僕はアルセから剣を取り上げ、走り寄り、即座にキルベアに突き入れた。


 咄嗟に突き入れた剣は蔦による補強のせいで振り抜きこそ大丈夫だったものの、突きの動作で真ん中から先がすっぽ抜け、キルベアの口の中へと突き刺さる。

 それは、幸運とでも言うべきか。


 ただの剣としてでは僕はリエラもろとも殺されていてもおかしくなかった。

 折れた剣先を喰らったキルベアは雄叫びあげて仰け反る。

 その間に僕はリエラの首根っこを引っ掴み、アルセを掴み、ともどもに距離を取る。


「コル・ラリカッ!」


 遅れて呪文を唱え切ったネッテが魔法を発動。

 キラキラと光る青白い何かがキルベアへと飛んで行く。

 キルベアは喉に刺さった剣先を何とかしようともがいていて、呪文を避けるなど思いもつかなかった。

 だから……ぶち当たる。

 刹那、キルベアが氷の彫像へと変化した。


「リエラ、大丈夫? ケガない?」


「あ、は、はい……」


 危険が去ったと判断したネッテがリエラに駆け寄る。

 僕は剣をアルセに返すと、一人、森の中に消えたカインを見に行った。

 が、数歩歩いたところで、よろよろとカインが茂みから現れる。


「あー、くそっ、まだクラクラする」


 あれ喰らって無事だったのかあいつ……

 カインも相当の化け物だと思いながら突っ立っていると、背中に手が触れた。

 何かと思って振り向くと、アルセが笑顔で立っている。


 よく見つけたなと思いながら頭を撫でてやる。

 首を捻られた。

 僕を見つけたアルセは手探りで左の裾を調べ、そこを掴んで落ち着いた表情を見せる。

 定位置とでも言いたいのか?


 そして、それを見ていたリエラが近寄ってくる。

 アルセに用かと思って見ていると、何故かアルセの手がある少し上に手を伸ばす。

 そう、僕の左腕がある場所だ。


 僕は……思わずアルセに腕を振り切って避けていた。

 何故かはわからない。

 でも、空を切ったリエラは、納得しない顔をして去って行く。


「何してんのリエラ?」


「え? い、いえ。なんでもないですっ」


 もしかして、僕に気付いた?

 掴ませておけばよかっただろうか?

 いや、今はマズいだろ。だって、僕はリエラの胸を揉んだばかりなのだ。

 手にはまだ感触が残ってる気がする。

 凄く……柔らかかった。


 って、そうじゃなくて。リエラがそのことに気付く可能性がある以上、正体を確認させるのはしばらく待った方がいい。

 どうせ気付かれたところで会話も何も伝わらないし。

 ついでに抹消されかねない。


「リエラは回復とかできないか?」


「すいません、魔法は使えないんです」


「そっか、素養なかったんだ」


 素養? 素養がある人間は魔法が使えるとか?


「あー、時々いるんだっけ? 魔力ない奴」


「家系でそうなんですよ。母さんは魔法使えるんですけど、父の影響を受けちゃったみたいで。子供は必ずといっていいほど魔力無しなんですよ。兄妹全員です」


「そりゃ可哀想に。学園とか行けなかったんじゃないか?」


「ええ。だからずっと剣振ってました」


 その割にはあまり強そうに見えないな。

 残りの二人の方がよっぽど強そうだ。


「とりあえず、態勢を立て直そう。このままだとアローシザーズを見つけてもこっちが危険だ」


「キルベアが復活する前に逃げましょ、休憩できるとこ探さないと」


 ネッテとカインはさすがに引き際を知っていた。

 それでもリエラのためと町に戻るよりも森の中で態勢を立て直すことにしたらしい。

 どっちにしろ、このままここに居れば凍ったキルベアが復活するだろう。

 そうなれば今度こそ全滅も視野に入る。


「ネッテ、薬草一つ頼む」


「何? ケガしたの?」


「まぁ、肉体強化がまだ効果あったみたいで擦り傷だけどな、薬草塗り込んだ方が治りが早い」


 懐から薬草を取りだしたネッテがカインに手渡す。

 カインは手にした草を揉みほぐすと、右肘に塗り込む。

 成程、確かに大した怪我ではないものの、擦り傷ができている。

 というか、薬草ってそう使うのか……初めて知った。


「お前らは大丈夫だったのか?」


「ええ。多分だけどアルセが助けてくれたみたい」


 僕の行動は全てアルセの能力として解釈されたらしい。

 これはこれで動きやすいからいいけど。ちょっと切ない。

 やっぱりリエラに気付かれてた方が良かったかな?

 いや、でも、それだとアルセがただのアルセイデスだと気付かれる。下手したら僕もろとも殺されるかも?

 なにせ僕の姿は見えないのだ。下手したら魔物の一種と間違われて彼らに殺されかねない。



 開けた場所に着いた僕たちは、とりあえずとその場に座り込む。


「怪我はカインだけよね」


「ああ、さすがにあの体当たりだ、もしかすりゃ内臓にダメージいってるかもしれないけどな。今のとこ問題はない。町に戻ったら教会に行かせてもらうぜ」


「高い料金取られるけど、この際仕方ないわね……というか、私思ったんだけど」


 ネッテは視線をカインからアルセへと向ける。


「彼女の蔦、分けてもらえたら私達億万長者にならない?」


「……おい」


 さすがのカインも思わずツッコミをいれていた。


「いくらなんでもそりゃダメだろ。つーか言う事聞いてくれるのか?」


「でも、ほら、リエラの剣見てよ」

 蔦の絡まった剣は途中で蔦が引き千切れていた。

 なぜかっていえば僕がひったくった時に引っぱってしまったからなのだが、アルセは全然気にした様子も無く僕の横に立っている。


「確かに、あの柔らかい方の蔦だけでも売りゃ20000ゴスか……」


「アルセイデスの個体自体滅多に出現しないし、用途が多いからなのよ。だったら彼女を倒して蔦一つ手に入れるより、アルセが自由にアレを出し入れしてくれたら、まさに無限金貨製造機」


 思わずネッテとカインが生唾を飲み込んだ。

 ま、まぁアルセが殺されたり監禁されるわけじゃないから大丈夫、きっと、大丈夫……だよな?


「と、とりあえずだ、アルセが蔦を使ったらそれを後で回収しよう」


「そ、そうね。それはいい考えだわ。あ、でもアルセイデスの蔦で造ったナイフ持ってこないと。硬い方は回収できないわよ」


 二人して黒い考えを巡らせていると、不意に遠くから遠吠えが聞こえた。

 狼にしては気色が悪く、鳥にしては恐怖をそそる。そんな遠吠え。


「アローシザーズよっ」


「向こうからだな」


「あ、あの、遠吠えってことは周囲に……」


「大丈夫、居ると分かってるなら遅延魔法でなんとかするから」


「そうそう。どうせ相手を倒したら魔物どもは勝手にどっか行くしな。ただの遠吠えってだけかもしれない」


 各々走り出す冒険者たち。後に残されたのは僕とアルセだった。

 慌ただしく走り去る冒険者たちに、アルセは首をかしげて見送っていた。

 さて、どうすっかな。

 あいつらと行動するとアルセを金儲けに使いそうなんだけど……


「どうするアルセ?」


 聞いてみるが、やっぱり伝わらない。

 でも、まぁ見知った奴が危険に陥るのはちょっと嫌だし、様子だけ見に行くか。

 少なくとも、他の冒険者に狙われる危険だけは、回避できる訳だし。


 アルセの手を放すと、僕はアルセの前にしゃがんで背中を向ける。

 僕を探しだしたアルセは僕の背中にぶつかり、僕は彼女をそのまま背中に乗せた。

 おぶってやると、また首を捻る。


 片手でアルセの手を僕の肩に回させ、両手を繋がせると、僕は彼らを追って走りだした。

 今まで見える景色と違ったせいか、アルセはおお~っと感嘆を上げていた。

 顔は見えないけどきらきらした目で楽しんでいるのがよくわかった。

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