妖怪小話3
『小豆洗い』
さびれた和菓子屋があった
少しの常連客でもっているようなその店を
ひとりで切り盛りしているのが千代ちゃん
草に埋もれて ずいぶんとくたびれて顔が薄くなってる地蔵に
彼女はいつも和菓子を供えている
翌日にはすっかり綺麗になっている皿を 満足げに微笑みながら
布で拭って また新しく和菓子を置いていくんだ
まあ、食べてるのは僕なんだけどね だって地蔵は動かないし
「さて、そろそろ千代ちゃんが来る頃か。」
「いたいた。今日は何だろ?」
「お地蔵さん、聞いてくださいな。
もうお店は終わりにしようと思って。」
「今はね、ケーキ屋さんっていうのが、いっぱいありますから。」
「甘くてふわふわして、美味しいんですよね。私も好きですよ。」
「和菓子屋さんなんて老舗があればもう十分ですからねえ・・・」
「コンビニっていうのもあってねえ。
甘味は手軽に食べられるのが 一番。」
「出戻って、意地で続けてきたような店ですから、
私もボケてきちゃって・・・・」
「・・・ごめんなさいね。これが最後のお供え物なんですよ、
お地蔵さん。」
「いつも残さず食べてくれて、本当にありがとうございました。」
僕は神でも仏でもなけりゃ 有難がられる存在でもない
地蔵ですらないし もちろん千代ちゃんに姿を見せたこともない
どうにもなりっこないんだ ただそれだけのことなんだ
なのに、なのに 僕は一体、何がしたいんだ?
「お客様の中に悪い子、悪い子はいらっしゃいませんか!?」
「ナマハゲー!ちょっと手伝ってー!!」
「ん?小豆洗い。なんだよせっかく斬新な脅しの練習してたのに」
「今からあんこ作るんだ!」
「へ!?マジで?だってそれ、
百年くらい大事にしてた黄金小豆だろ?」
「お前のあんこが食えるなんて・・・俺は感激だ・・・」
「誰がお前のために作るって言ったよ。」
「食いたいならコンビニでまんじゅうでも買え。」
「えぇ~・・・。ったく、待てよー」
「お義母さん!もうお店は閉めたんですから、
毎日ここにくるのやめてください。」
「そろそろお昼ですよ、すぐ戻って来てくださいね。」
「・・・お地蔵様、どうしてるかねぇ」
「おなかすかせてたりしないかね・・・」
「・・・行ってみましょうか・・・・」
「・・・おや、なにかしら」
「あらまぁ・・・これは」
「あんこ・・・ですねぇ。あら、おいしい!」
「こんなにおいしいあんこ、初めて食べましたよ」
「お義母さんいたぁあ!何でこんなとこに!!」
「・・って、何食べてるんですか!?」
「ボケたんですか!?変なもの口に入れちゃダメですよ!」
グシャ!
「んもおぉぉ、早く帰りますよ。手間かけさせないでくださいっ」
「ああ、やめておくれ、なんてひどいことを・・・・」
「これは、これはね、これはきっと・・・・・」
「これはきっと?何です!?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「新しい部屋もあるんですから、
もうふらふら出歩かないでくださいっ」
「ごめんなさいねぇ・・・・・・」
「あっ・・・・」
「・・・千代ちゃ・・・・!」
「もう心配かけないでくださいよっ!」
「・・・・・ええ・・・」
「・・・はは、は・・・・・。」
千代ちゃん、僕は妖怪だから 空腹なんて感じないけど
シャキシャキ♪
シャキシャキ♪
「・・・・あずき洗おか♪人とって喰おか♪」
――――千代ちゃんが作る和菓子が、食べたいです。
~終~
~おまけ~
「千代ちゃんがこないと寂しいね。」
『まったく、寂しいよ。地蔵生活75年・・・
唯一の癒しだったのに』
「なんてね。物言わぬ地蔵に語りかける僕・・・・」
『お千代さんが俺に供えてくれたモンを片っ端から食いやがって』
『てめぇが妖怪じゃなかったら祟り殺してるとこだよボケが!』