笑う門に福は来ぬ
久しぶりの投稿です。軽く読める作品だと思うので、続編もどうぞ呼んで下さい。
プロローグ
この世には、超能力と呼ばれるものがある。それは読んで字の如く、「超」能力、つまり凡人に備わっている能力を超える力である。現代ではその力は創作物や噂によって脚色され、言わば魔法のようなものとして捉えられている。そう、最早この世には、超能力は存在しないものとして扱われているのである。
しかし、それは間違いである。
超能力は確かに存在する。現代に溢れる夥しいほどの人間。彼らにはそれぞれ個性があり、アイデンティティがあり、そして一人に一つは、誇れる能力、他人に負けない「超」能力を手にしているはずなのだ。例えば、短距離走の世界記録保持者は時速40キロで地上を走る。これは明らかに普通の人間の能力を超えている。つまり、彼は超能力者である。また、ある人間は木の棒で球を打ち返す能力に長け、生涯で4000以上の安打を打つ。またある者は、116年も生きるという。
百人いれば百人が、少しでも他人を凌駕する、超能力を持っている。そしてその中には少々変わった能力が長けている者も出てくる。
これは、そんな変わった「超」能力を持った人間達の物語である。
一.豊四季 理
俺は豊四季理。基本的に人と接するのは大嫌いだ。接するというのは、関わるという意味であり、俺が自分から人に触れるようなことは死んでもない。生まれてこのかた、人に触れたことなどほとんどない。
会話も嫌いだ。会話することでは何も生まれない。特に相手が自分より知能で劣っている場合は、本当に意味がない。何を話しても得るものはなく、こちらが話し手のレベルに合わせなければならない。そして俺は今まで一人を除いて、自分より優れていると思った人間はいない。その一人と話したときは、そいつと比べて多大なる劣等感を感じたので、心底むかついた。だから、俺は誰と会話をしても、メリットはないのだ。
俺は人と会話するのは嫌いだが、何かを競うことには感心がある。俺は一人を除いて、今まで競いごとで誰にも負けたことはない。子供の頃に、天才ともてはやされていた記憶がよみがえる。
俺は勝ちに向って努力することが嫌いではない。走ることでも、遊びでも、ゲームでも、勝つ為に練習をしている時間に、言い知れぬ充実感を得る。そしてまた、何もせずに挑んで勝った時も、その優越感は計り知れない。
しかし、俺は中学、高校と、常に成績トップを独走していたが、大学で人生初の敗北を喫した。
――塚田京子。彼女は首席で、この大学に合格し、俺はあと一歩で勝利を逃した。俺にとってそれはあまりにもショックで、未知の体験だった。敗北というものには果てしなく苦痛を味わわされたが、それと同時に塚田京子にも興味がわいたのは事実だ。ただやはり負けたことに違いはないので、俺はそれ以来、塚田京子も大嫌いだ。
他にも特記すべきことがある。
それは、俺は超能力者だということだ。何も、今まで勝負事に一回しか負けていないことが超能力なわけではない。もしかしたらこれも凡人から見たら「超」能力なのだろうが、人間というのは努力すれば何だってできる。ましてや、俺が勝負で勝ってきたのはそこらへんの有象無象だ。
俺にとってこの努力は普通である。そしてもっと特殊な能力が、俺にはある。
その昔、まだ俺が小さかった頃、すでに両親はこの世にいなかった。子供ながらに祖母の下へ引き取られ、ずっとそこで育てられてきた。田舎暮らしだったが、生活に不自由はなく、大切に育てられていたとは思う。そこで祖母はずっと俺に言い聞かせていたことがある。
「理、お前の笑顔には魔法がかかっているんだよ。もし目の前の人が怒っていたり、悲しんでいたら笑いかけてあげな。そして、辛いだろうけれど、人が楽しんだり、笑顔でいるときは、その時は、理、笑ってはいけないよ。静かにそこを立ち去りなさい。決して相手と同じように、笑ってはいけない。お前は少し特殊なんだよ。」
そういわれていたが、その時既に、俺は人に対して笑顔を向けるようなことをしていなかった。笑顔を人に向けるのは、なんだか怖かった。だから俺はいつも、人と一緒には喜べなく、楽しむこともできない。俺はずっと一人だった。
今となっては祖母の言っていたことが分かる。俺は、人に笑いかけるとその人の気持ちを変えてしまう。人が喜んでいれば怒り、哀しんでいれば、楽しくなり、悪いことを考えていれば考え直し、愛情は憎しみになる。十人いれば、十人にそれぞれ違う色があり、突出している部分があるように、俺にも一つ、少し特殊な部分があっただけの話である。
二.塚田 京子
現代社会問題解決部、通称現問部――それは大学公認のサークルではなく、生徒の大半はその存在自体知らない。入部するには、部員による推薦がなければ入れず(そもそも知名度が低すぎる為志願してくる者もいないが)現在は6名がこのサークルに入部している。
私はある人の推薦で、断りきれず入部してしまった。現代社会問題とは、あまりにも抽象的過ぎる気もするが、まあ元々人助けは嫌いじゃないし、特に入ろうとしていたサークルもなかったので、とりあえずはここに入ることにした。
部室はないので、メンバーはいつも、講義が終わると、大学内のカフェで、一番奥の席に集まる。集まると言っても、大体私を除いた5人の内一人しか来ない。みんな暇じゃないのか、来ないならなぜこのサークルに入ったのか不明ではある。ただ、4人の内1人は違う大学の生徒だということは聞いた。
私ともう一人の子、いつも一緒にカフェで語り合っている子の名前は初石茜。とても華奢で、背も低く、まるで人形みたいに可愛い子なのだ。
ただ、目が相当悪いらしく、眼鏡をかけているけれど、あまり正しく物を認識できていないようだ。
そしてある日、彼女は一人の男を、カフェに連れてきた。その男は超無愛想で、何だか怒っているようにも思えた。そこで、茜が驚くべきことを言い出した。「この男を推薦する」と、そう言ったのだ。なぜ茜があの時推薦するに至ったのかは不明であり、それがあの男との初めての出会いだが、これだけは言える。私はあの男が嫌いである。
三.活動
理がカフェに行くと、すでに一人、席に座っている者がいた。
理は黙って席に着き、カバンを下ろす。
「あら、こんにちわ。豊四季君。」
京子は愛想良く挨拶したが、理はちらりと一瞥くれただけで、特に反応を示さなかった。
「毎度のことでもう慣れましたけど、いい加減に挨拶ぐらいはしたらどうなのよ」
ため息交じりに京子は呟いた。
理はというとメニューを両手で広げながらとまっていた。
「そうそう、またあなたにお願いがあるの。あなたも現問部の一員だから、拒否権はないわよ?」
正直、若干京子もいらついていた。彼女はハッキリとしないことが嫌いであり、中途半端でいることを許すことができない。理の態度はいちいち京子の癇に障るのだ。
「最近うちの学校で、急性アルコール中毒で倒れる人が増えてるの、知ってるでしょ? 勿論、中毒騒ぎを起こしたサークルは活動停止になったりしているけれど、そうなったらまた別のサークルで中毒者が出る。これは明らかにおかしいわ。騒ぎになっているにも関わらず、サークル内で飲酒に注意しないはずがないもの。これはきっと事故じゃなくて事件だわ」
「事件? たまたまだろ」
京子がしゃべっている間に注文を終えた理は、カバンから本を取り出して読んでいる。
「いえ、実はもう調べはついているの。そのアルコール中毒者が出た日には、必ず同じ人物が現場にいた。その人物の名前は、逆井憲太。この大学の一年生。つまり同級生だわ。そして彼はいくつものサークルに所属していて、普段の活動にはあまり出ずに、飲み会のときにだけ姿を現すらしいの。そこで何らかの手口で、中毒者を出してるってわけ。分かった?」
「……」
理は考えていた。なぜこの女はこんなにも俺にかまってくるのか。さっぱり分からなかった。理は既に、この部活でいくつか事件を解決している。
勿論、本人から進んでやったわけではなく、成り行きでだが。いつもいつも俺に関わってくる。初めは彼女に興味もあったが、段々それも薄れていき、もうどうでもよくなってきていた。
京子は、黙っている理を見て、少し考えた。本当はこの男の助けは借りたくない。見てるといらいらしてくるのだ。ハッキリしない態度、無愛想な感じ、他人を見下すような目つき。どれをとっても、彼とは上手くやっていけない気がしていた。
しかし、問題の早期解決には彼が最適だった。既に何個か事件を解決してる上に、彼は頭がそこそこ切れる。更にはいつでも暇そうにしている為、使い勝手がとても良い。まあでも、今回で最後にしようかなどと考えていた。この問題が解決したらもういいかなと。
「あ、ど、どうもみなさんこんにちわ」
そんな時、少しおどけながら現れたのは、茜である。茜は理をちらりと見て、京子の隣に座った。
「あの、何を話されていたんですか?」
「例の連続アル中事件の話よ」
京子が待ってましたとばかりに即答する。
「あ、ああ、そうなんですか」
茜は下を見て、小さい体を更に縮めて話す。
「その件なんですけど、わ、私の友人から聞いたのですが、今週の日曜日に、ラクロス交友会というサークルで飲み会があるらしいんですが、実は逆井さんもそのサークルに所属しているんです」「よくやったわ! 確かに運動部で、名前的にもなんだか飲み中心のサークルっぽいわね」
「何とかその飲み会に立ち会わなきゃ。逆井は怪しいわ。何とか友人のつてでその飲み会に出席できるようにしてみるわ」
そうしてその日は、間もなく解散になった。
四.勝負
日曜日、ラクロス交友会の飲み会に出た理達の前に、逆井の姿はなかった。結局その日、理は逆井がいないことが分かるとすぐに家に帰り、残された京子は、3時間ずっと酒飲み集団に付き合わされた。
そして月曜日には再び会議がなされた。
「す、すみません。私、変なこと言っちゃって、すみません」
茜があわあわしながら必死に謝罪している。
「いいのよ。謝る必要はないわ。それにしても、あいつはどこにいるのよ。豊四季は」
「いえ、し、知りません……」
正直俺はもうこんなことやめたくなってきた。ただ、途中で止めるのは癪に障るから、早く解決してしまおうと思った。
「おい、お前が逆井か?」
大きな教室の前で、ガタイの良い男を呼び止める。
「誰だお前?」
「俺と一緒に飲まないか? 話には聞いてるけど、酒好きなんだろ? ちょっとお前と話したいことがある」
「いや、急に言われてもなあ、うーむ。まあ、そんなに飲みたいなら、木曜日にオカルト研究会で飲み会があるから、それに出席しろよ。飲み比べするか? がはは! まあ俺に酒で勝てるやつなんかいねえけどな!」
豪快な男だ。しかし、勝負の世界で絶対ということはないことを教えてやる。
こいつがもし、本当に黒幕なら、今ここでやつに笑いかければ、悪さを止めることができるだろう。ただ、飲み合いに興味が出てしまったし、そんな簡単に笑顔になれるもんじゃない。俺は木曜日が待ち遠しくなった。
急にいろいろと決まっていたことに、京子は腹を立てていた。
「木曜日って、私授業はいってるわよ! しかも翌日も学校あるじゃない! 馬鹿じゃないの? そのサークル!」
うるさい女だと理は思っていた。
「来なくていいよ。俺がやっとくから」
この前と同じだと、京子は思った。前の事件解決のときも、知らぬ間に解決していた。一体どうやっているのか。まさか彼も京子と同じなのか、と。
木曜日の夜、都内の居酒屋に、オカルト研の面々が揃っていた。理はがどのようなトリックで、アルコール中毒者を出していたのか、少し気になるところではあった。
「では、部長の大宮ですー。えー、オカ研のみなさん、今日は集まってくれてありがとう。では、早速飲みますか。かんぱーい!」
こうして、飲み会が幕を開けた。
理は逆井の近くに座っていたが、彼は別段何かするわけでもなく、普通に酒を飲んでいた。世間話をしたり、大学の講義のこと、またオカルトの話にも手を出していた。そして1、2時間と時間は経ち、良い感じにみんなが酔ってきたところで、
彼は急にこんなことを言い出した。
「おい、お前らはよお、超能力って知ってっか?
へへ、まあ信じてはいねえだろうが、聞いたことぐらいあるだろ?」
オカ研の部員達は方々にあれこれ言い始めた。超能力を信じているものと信じていないものが、語り合い始めたのだ。
「まあまあ黙って聞けや。それでよお、ここで一つカミングアウトなんだが、俺は実は超能力者なんだわ」
部員達はみな、逆井の方を見て一瞬止まったが、急にみんなで笑い始めた。
「逆井さん、じゃああんたは何ができるんだ?」
「ああ、お前らは勘違いしてんだ。超能力ってのは、魔法じゃあねえ。つまり離れたものを動かすとか、そんなたいそうなこたあできねえんだ。俺の能力はよお、変わってんだ。くくく」
「月は綺麗だよなあ、おい。今日はお月様は何歳だか知ってっか? 十四歳だよ、十四歳。若くて良い感じだあ。俺はなあ、月が満月に近づくほど、、酒が強くなんだよ! 今日満月だから、絶対に負けねえな! まだまだ酔い足りねえぜ」
みんな少しキョトンとしていたが、理は納得していた。こいつはこうして月が満ちた日を狙って飲みに現れ、勝負を仕掛けていろんな人間を酔わしていたというわけだ。
「で、誰か俺と飲み比べしねえか! 金をかけようじゃないか! いくらからでも良いぞ! さあ、誰かいないか?」
他の部員達は顔を見合わせ、どうしようかと悩んでいた。理はそんな中無言で逆井の隣へ行き、自分のテーブルにあったビールのジョッキを逆井の目の前に音を立てて置いた。
「面白い、やろう」
部員は唖然としていたが、逆井はニヤリと笑い、どうなってもしらんぞと、見下していた。
ルールは簡単、どちらかがギブアップというまで飲み続ける。そして倒れるか、吐いたらその時点で負け。酒はなくなったら注文しなければならない。10分飲まずにいた場合も、負けとなる。
俺はジョッキにビールを注ぎ、逆井と取り合えずビールで乾杯した。二人とも一気に飲み終え、新たに酒を注文する。ワインを何個か頼み、ジョッキに注ぎ直して、イッキに飲む。こんなことを繰り返していく。こいつは本当に酒が強い。本格的に酔いが回る前に何か手を打たないと、負ける気もしてきた。一般的に、人は酒を飲むとエタノールの作用で酔う。この酔いというのは気持ちよくなり多弁になったりする。これは1段階目の酔いだ。ここまでだったら良いのだが、人間はこのエタノールを分解する酵素を体内に持っている。分解すると、アセトアルデヒドと呼ばれる物質が体内にできる。こいつがクセもので、このアセトアルデヒドの影響で人は悪酔いするのだ。そして日本人は、エタノールを分解する酵素を大量に持っていて、アセトアルデヒドを分解する酵素は少量しか持っていないのだ。
「なあ、そういやお前名前はなんて言うんだ?」
「豊四季理。一つ聞きたいことがある。お前はなんでこんなことをしてるんだ?」
「あ? この酒飲み大会のことか? 決まってんだろ勝負に勝ちてえんだよ。自分の優れてるところを相手に誇示したい。そんで金をかければそれも手に入る。こんなに良いことはねえだろ?」
「お前はまだ敗北したことがないのか?」
「ああ、ねえな。酒だったら絶対負けないぜ~」
そう言って、逆井は立ち上がると、トイレに行くといってしっかりとした足取りで、席をはずした。
まあ、正直こんなことだろうと思って、この勝負は堂々としたものにする予定は初めからなかった。
俺はカバンから粉を取り出して、逆井のジョッキに入っている日本酒に混ぜた。勝ちにこだわるとはこういうことである。
逆井が戻ってきてからまた飲み始めた。最早逆井が倒れるまで時間の問題なので、その間の時間が暇だった。俺も結構酔っていたので、逆井に尋ねてみた。
「おい、一つ聞きたいことがある。相談だが…」
「なんだよ、お前からしゃべるのは珍しいな、もう限界近いんじゃねえか?」
「限界近いのはお前の方だろ。そんなことより、ある女がいるんだが、俺はその女が大嫌いだ。だが、そいつは俺に付きまとってくる。なぜこんなことするのか、わけがわからない。いつも俺に問題解決を強いてくる」
「おいおい、お前そんな簡単なこともわからねえのかよ。それは、愛だよ、愛。女が男を頼る理由なんてのは一つだ。恋してんだよ。お前に。」
……嘘だろ? あの女が、俺に?
「うっぷっっ」
必死に手で口を押さえた。勝利目前で、自滅するところだった。吐きそうになるぐらい気持ちの悪いことだ。あいつは機械みたいな女で、何となく人間的な感情はないような気がしていたが。
あいつは俺のことが好きだったのか? 確かに、
ならば辻褄が合うか……いや、しかしなぜ俺なんだ? 理由がみつからん。何かしたか? 俺は。
「おい、でも……」
そこで、逆井を見ると、ガタガタ震え始めていた。ああ、さっき入れたロキソニンが効いてきたのか。そろそろ終わらせるか。
「おい、大丈夫か?」
そういって俺は逆井の背中を強く叩いた。すると、一瞬逆井の動きが止まり、固まった。しかし次の刹那には、逆井は口から大量に酒を吐き出し、小刻みに震えていた。俺の勝利だった。そして高揚感は一気に俺の体内をあふれ出た。
ああ、俺はこの時を待っていた! 勝負に勝ち、敗者を眺める瞬間を。相手がどんな能力だろうと、負ける気がしない。あの女を除いて。ただ、今は正に勝利の美酒というやつだ。上から敗者を見下すのは中々の絶景だ。この愉悦はクセになる。周りの部員がこちらを見ている。勝者の俺を見ている。これが勝った者の特権でもある。羨望の眼差しも、時には快感に思えるのだ。こいつらの存在価値なんてものは、そのぐらいしかない。俺を気持ち良いようにしてくれれば、それで良い。そして、今日の勝負で分かったことがある。塚田京子の胸中である。俺は正直他人の心を慮るのは苦手だから、これは収穫だ。そして、人に愛されるなんてまっぴらゴメンだ。しかもよりによってあの女である。問答無用で改心させなければならない。
逆井は薄れゆく景色の中で、理の顔を見た。彼は恍惚とした表情で、とても美しい笑顔だった。まるで、心の闇が晴れていくような感覚が、最後に残った。
五.解決
京子は相当怒っていた。なぜなら、問題は解決したものの、逆井が病院に運ばれたからだった。彼は容態が悪く、当分学校には来れないらしい。いくらなんでもやり過ぎだ。だから京子はあの理は嫌いなのである。限度を知らない。血も涙もない感じがして…… そして今日、彼と会う約束をした。これで縁を切ろう。そう思っていた。もう関わりあいたくないし、彼のことなどもう興味がない。ただ、事件解決に協力してくれたことは確かだから、切り出すのが難しい。そうこうしている内に、待ち合わせのカフェに来てしまった。
中に入るともう豊四季の姿があった。
「こんにちわ。豊四季君、ご苦労様だったわね」
豊四季は何も反応せずに、こちらを見ている。何だかいつもよりもこっちを見てるような……
「えーと、今回はありがとね。協力してくれて」
何だか恥ずかしい。結局初めは感謝の言葉が出てしまった。こんなやつにはもったいない言葉だけど。ただ、いつもと豊四季の様子が違う。こっちを凝視しているのだ。
何かおかしいなと思い、口を開こうとしたとき、驚くべき光景が目に入ってきた。
豊四季が、笑っていた。