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La Marseillaise

続・イタリア紀行(La Marseillaise)

 ぼくはグロ画像は苦手だ。2チャンネルのグロ画像を見ると魂が穢れる気がする。過って肉ミンチ裁断機に手を突っ込んでしまった人、鮫にお尻をほぼ全て齧られた人、銃で頭を打ち抜かれる瞬間の人、ボンバーマンの爆死のようにメルヘンチックにもロマンティックあげにはいかない肉片としての爆死、交通事故で人が死ぬ瞬間、山奥の惨殺レイプ死体、ゾクゾクワクワクといった歪んだサロメの美を享受しては人の不幸でゾクゾクワクワクした感情をもう二度と味わない、と誓って、またシャーデンフロイデならぬシャーデングロイデを堪能するわけだ。ぼくは初めて目の当たりにするであろうグロ視覚リアルタイム画像に胸を高鳴らせ、少し場の雰囲気にも飲まれたせいもあろうか、世界が心臓の音と呼応して脈動の度に視覚がアップになりパンになりを瞬時に切り替え目の前の人だかりがブレて止まない。カメラを調整してワキガの先輩の袖口付近の隙間から36000秒分の1の筋弛緩剤を打ったゴルゴ13のように一瞬を逃さず顔を埋め中のブツを凝視した。凝!

 幸いにしてバンジーガムもチェーンジェイルも身体に付いてはいなかった。もっとも自分は旅団ではないからチェーンジェイルを心配する必要は無いのだが、冷蔵庫のブツはキレイに少しだけ腐敗して横たわっていた。部屋は元からゴミだらけではじめから鼻はいかれポンチなおたんこナースてしまっていたが、少し瘴気が肺に入ったのがわかるように嫌な臭いが鼻孔を立ち上った。徐々に人を昔の浅草の様子をブラタモリに出ていた地元のおばさんが説明していたように、人をかき分け、かき分けして、より詳細に世界の記述を試みようとMarchons, marchons!とドイツ国家が高らかに歌われるリックの店内でラズローが、Play la Marseillaise!と楽団の前で鼓舞しようとしたとき、リックが頷くカタチで始まったマルセイエーズのようにぼくは中核派雑誌、前進!と心の中で念じマルシェ!マルシェ!マルシェ・ドゥー!とよろしくフェンシングばりにブツを拝んだ。実際にその物を目の当たりにすると臭いにまずがつんとみかんで頭がガツンとやられてしまう。とはいえ、眼前にあったのは予想に反し四肢切断されたサイコ一巻冒頭の宅急便で届けられた女の子ではなく、猫の死骸であった。せめて冷凍庫に入れておけばいいものを、冷蔵庫に入れるから腐敗が進んでいる。何ヶ月放置していたのであろうか灰色の毛並みからピンク色の綺麗な肉が脇腹から少し覗ける、あぁ、ブリティッシュショートヘアーか、とぼくがソシュール的に世界をコトバで区切り認識した瞬間、若い同僚の一人が、おうぅえ、と言ってトイレに駆け込んだ。これからついさっきまで食べていたツナサンドと御対面するのだろう。バトーみたいにかっこよく何か気の利いたコメントでも言えたらいいのだが、こんな現場で善知識をひけらかしたって白い空気が流れるだけだ。しらー…あぁ、シラーの美しき魂!まだ希望は捨ててはいなかった。猫の死骸でももしかしたら、いや、そんなことはない、いやでも、可能性としてはまだあるかも…、っと思ったが矢先、はいはい、仕事に戻った、戻ったと、業者さんの声が即座に入り、また何事も無かったかのようにみなが作業に戻る。バリリっ(稲川淳二風)、とガムテープを伸ばす音がする。がちゃがちゃっ(稲川淳二風)、と食器の音が響く。わしゃしゃっ(稲川淳二風)とゴミ袋を広げる音がする。猫一匹の死骸で仕事が終わることは無かった。まぁ、いいさ、分かっていたことだ。そういうふうにしてDie Weltは回る。腐った猫の死体が出てきた時には肝胆相照らす肝も縮み上がったがそれはほんの短い時間で、それは一夏の思いでとなって虚空に消えた。ゴミ屋敷の冷蔵庫を開けるときには覚悟して開けなければならない、それが教訓にもなった。人の四肢とかじゃなくて本当によかった、いい夜明けだった、今日もあつうなるぞ、といったちょっとしたトラウマになるかもしれなかったけどそれもなくてよかった。あぁ、楽しい人生だった。

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