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星屑の鍛冶師  作者: タクミンP
第2章 友達探し
6/45

6・行動開始

 イサラ・アルコリス学園は、「才能の発芽と成長」を主題に掲げた、国内でも五指に入るほどの大規模な学園である。

 国内の学園としては入学金が破格の安さであり、中流家庭の平民ならばなんとか捻出出来る程度の額である為入学者は年々増加傾向にある。

 剣術や槍術、馬術などの武芸を始め、指揮者としての戦術論などを学べる「ソード」。

 詠唱魔法、方陣魔法など、様々な魔道を学び、生徒の研究や実験なども支援する「フォース」。

 金属の鋳造、鍛造、出来上がった作品の加工、装飾など、様々な職人を育てる「スミス」。

 読み書きや簡単な計算から始まり、商業における一般常識や各地の特産品など、商人として、また中流以上の家庭の教育機関としての側面を持つ「ビジネス」。

 現在学園には、この四つの科が設立されている。

 その中でも「ソード」ならば、実技、指揮、戦術論、歴史を学ぶ座学など、色々な講義の中から自分の希望するものを選択し、授業を受ける。

 進級には、その学科毎に決められた必修授業の内容から出される幾つかの試験に全て合格する必要があり、「ソード」の必修授業は実技だ。

 試験の難度は高く、その学年における最後の進級試験ともなれば当然それなりの実力が必要になる。

 救済措置として、各学年毎の進級試験を合格した者はその学年の卒業生として学園を去る事も許されている。

 入るは易く、出るは難いこの学園において、最高学年である四年を無事に卒業出来た一握りの者たちは、様々な分野から引く手数多となりまず職に困る事はない。

 学園の利点は、それだけではない。

 この学園の最大の特徴は、王国貴族や他国の貴族までもが多く入学し平民と同じ教室で授業を習うところだ。

 身近な立場で机を並べて学んでいれば、お互いに身分を超えた理解が深まる。

 学園に通う貴族は自分自身の目で人材を品定めする事が出来、平民はそんな貴族相手に自己アピールの機会を多く与えられる。

 この学園は、そういった貴族への就職斡旋所としての側面も同時に持ち合わせていた。

 他にも、純粋に勉学に励む者、己の才能を探す者、技術を身に付け独立を目指す者など、事情や出自も異なる様々な者たちが集い日々を過ごしている自由度の高い学園なのだった。


「わりぃな、付き合わせちまってよ」

「いいよ。僕も、授業や実験ばかりで身体が鈍ってると思ってたところだったし」


 昼下がり、昼食前の運動気分で一年生の鍛練場を訪れたレオンとディーエンが、会話をしながら素手での組み手を開始する。

 武具も魔具も使わず、心技も魔法もない純粋な徒手空拳のみでの戦闘だ。

 まずは、調子を確かめるように互いの手の平で軽く拳を受け合う。


「でも、ちょっと意外かな。僕よりコミュニケーション能力は高いのに、誘う相手が居ないなんて」

「あー……ここに入学して来てるほとんどの奴ら、弱過ぎて話になんねぇんだよ。強そうな奴らは軒並み武芸大会を意識して手の内隠してっから、組み手に誘っても断られるだけだしよぉ」


 右、左、右、と次第に速度と重さを増していく拳の応酬を繰り返しながら、レオンはしかめ面で愚痴った。

 折角強くなる為に入った学園だというのに、自分より強い者や切磋琢磨出来る相手と出会えないのでは期待外れも良い所だ。

 現在は入学直後という事もあり、初心者の為の体力作りを目的としたトレーニングを中心に授業が行われ、たまの組み手も相手となるのは初心者か日和見な連中ばかり。

 そんな毎日が続いている現状では、彼の口から不満が漏れるのもある意味当然と言えた。


「まぁ、この学園に入学して初めて剣を持った生徒も居るぐらいだからね。「フォース」も似たようなものだけど、村と違って図書館が簡単に利用出来るから僕は来れて良かったと思ってるよ」


 そんな意気消沈しているレオンとは違い、魔道士として、また乱読家として未知の書籍と大量に出会えたディーエンは、変化した生活にご満悦の様子だった。


「そういやお前、写本しなくなったな」

「ネージュ先生の手伝いで貰える報酬には、限りがあるからね。教会じゃ出来なかった実験や研究とかも研究塔の許可を取って素材を持ち込めば出来るから、正直お金が全然足りないんだ」


 学園のある王国都市ギラソールは、街中に居を構える様々な店舗の実に七割近くに学園の息が掛かっている。

 生徒たちは入学以降、放課後や休日を使って斡旋して貰ったそれらの店で働いたり学園の教師の手伝いをする事で報酬を貰い、月々の授業料を支払う。

 貴族の子弟に関しては実家から学園に直接授業料を支払うのが普通なのだが、まれに「平民の生活を学ばせる為」と称しわざわざ送り出した子供に仕事をさせる面倒な親も中には居たりする。

 学園教師の助手や手伝いは、街で仕事をするよりも手当てが低い代わりに金額の変動が大きいのが特徴だ。これは、手伝わせた教師がその生徒を気に入った場合自分の懐から色を付けて報酬を渡してくれるからだ。

 教員である為に教養は深く、授業では習わないような小話も合間に聞けるので、「フォース」の生徒たちはこぞって自分の研究分野に関係する教師の助手になろうと名乗りを上げる。

 ディーエンは比較的運が良かった部類に入り、最初の仕事として手伝って以来魔力文字ルーンの授業担当であるネージュ・エクレールの元で、助手扱いとして彼女の手伝いをしていた。

 因みに、現在レオンは街で日雇いの力仕事を転々とし、シロエは学園が仕入れた鉱石を製錬し、鋳塊インゴットにして提出する仕事で報酬を得ている。

 デジーは実家から送られて来る様々な商品を、生徒に売ったり商店に転売したりして出した利益の何割かを懐に入れ、残りは実家に返還しているとの事らしい。息子の商才を磨かせつつ実家の名を広める、実に商家らしい稼ぎ方だと言えるだろう。


「嬉しい悲鳴ってやつか? けっ、そいつはご愁傷様なこった、な!」


 日々を満喫しているだろうディーエンに向けて、嫌味な態度で舌を出しながら右足を相手の脇腹に向けて振るうレオン。

 これだけ学園生活に差が出ていれば、皮肉の一つも言わなければ納得がいかない。


「っと、シロエも似たようなものみたいだ、よ!」


 ディーエンは危な気なくその蹴りを折り曲げた腕で受け止めた後、真横に強く弾いてレオンの体勢崩すと同時に素早くしゃがんで相手の残った片足へ向けて足払いを仕掛ける。


「ほっと」

「授業で習う鉱石の特性とかの内容が新鮮で、勉強になるって喜んでたしね」

「……アイツにそれ、必要なくねぇ?」


 器用に片足だけで跳躍して足払いを避けたレオンが、追加の説明にいぶかしげな顔で問い掛けた。

 あのガモフから合格を言い渡された彼に、今更金属や素材についての知識など語るだけ無駄にしか思えない。


「ガモフさん、結構感覚だけで教えてる部分が多いみたいだからね。改めて言葉や文章にされると、新しい発見があるみたいだよ」

「そんなもんかねぇ――ふっ!」

「っと、はっ!」


 再び距離を詰めたレオンからの肘打ちを屈んでかわし、ディーエンはお返しとしてその胸へと両手を重ねた掌打を見舞う。


「おふっ! ――にゃろ」

「ふふっ」


 攻防が苛烈さを増し、戦闘時特有の高揚感が二人を包み始める。

 笑い合う二人の瞳は、普段は潜めている獰猛さが滲み出していた。


「デジーの方もなんやかんや充実してるみてぇだし……ちぇっ、割り食ってんのオレだけかよ」


 同室となった新たな友は今、あちこちの科に赴いては友好を広げ人脈を築いている最中なのだそうだ。

 自分たちの部屋に戻って来ると、今日は何処に行って誰がどういう性格だったと世間話や愚痴と一緒に学園の情報をシロエたちに教えてくれていた。

 同室の中で、レオンだけが学園に意義を見出せていないのだ。彼の不満は溜まる一方だった。


「それじゃあ、僕たちも武芸大会に出てみる? まだ少し先だけど、目標を作るのは悪くないと思うし」


 そんな不貞腐れるレオンに対し、ディーエンは慰める為の話題として近い将来の話を持ち出した。

 学園が誇るイベントの一つとして、一年に一度行われる武芸大会がある。

 学年毎に分かれて行われ、優勝者には賞金を始め様々な特典が用意された「ソード」主体で催される武の祭典だ。

 木剣を振るう授業とは違い実戦を想定された真剣で試合を行うこの大会は、学園の生徒は勿論各国の軍部や大手の戦闘系ギルドまでもが注目する、盛大な娯楽の一つとなっていた。


「その間に腕が鈍っちまうって。なぁディー、なんか良い手思い浮かばねぇ?」


 風を切る拳打とは裏腹に、レオンはディーエンに向けて情けない声で対策を希望した。

 強くなりに学園に来たというのに、逆に弱くなってしまったのでは笑い話にもなりはしない。


「うーん」


 唯一無二の親友の願いだ。三人の中で参謀の位置に立つ蒼の魔道士は、逆襲の蹴りを繰り出しながら彼の要望を叶えようと頭を捻る。


「そういやよ、大会って四対四の対抗戦だろ? オレとディーで二人として、誰かオレら以外のメンバーに当てはあるのかよ?」


 二人でも参加出来ない事はないが、流石にそれで勝ち進めると思うほど自惚れてはいない。


「正確には確かに四対四だけど、控えとしてもう二人追加で申請出来るみたいだね。メンバーに関しては、正直難しいかな――あぁ、良いね。それでいこう」


 レオンのもっともな疑問に、ディーエンは補足の情報を加えた後一人て勝手に納得して頷いた。


「それってどれだよ?」

「だから、仲間集めだよ。折角の学園なんだから、デジーからも情報を貰って良さそうな人には声を掛けていけば良い」


 競う仲間が居ないのなら、これから作れば良いのだ。一緒に大会に出場する以上、自主練に誘えばレオンは全力で組み手の出来る相手が増える。


「それと、シロエに仲間になった人の武具を作って貰おうか」

「お、それありだな。アイツも腕を鈍らせちまわないよう、鎚が振るえるって訳だ」


 二人にとって、シロエの鍛冶師としての腕前は疑う余地もなかった。

 僅かな時間を過ごしてみただけだが、この学園でレオンとディーエンは実力者として生徒たちから噂され始めていた。

 そんな彼らでさえ、分野が違うとはいえシロエの秘めた才能の器に全く敵う気がしないのだ。

 シロエが作った武具を与えれば、それが同時に楔となる。シロエの武具を持った者に、それが欲しければ仲間になれと語り掛ければ断れる者は少ないはずだ。

 それに、シロエは自信はなくとも自分の腕を高めたいという向上心を人一倍持っている。

 相手へのプレゼント感覚で頼めば、きっと二つ返事で頷いてくれるだろう。


「決まりだね。早速明日から動き始めよう。大会までにはまだ時間があるけど、その方がシロエも落ち着いて武具を作成出来るだろうし」

「ひひひっ、楽しくなって来たぜ」


 身近な目標が出来た事でやる気を増した二人が、実に楽しそうに笑い合う。

 今まで普通に会話を交えているが、熾烈な攻防は留まる事なく続けられている。お互いを知り尽くした長い経験によって、まるで口とそれ以外を別の世界の出来事として平行させているのだ。


「ぜぁっ!」

「ふっ」

「うぉっと!」


 結論が出たと同時に繰り出されたレオンの右拳を半身でかわし、ディーエンはその伸ばされた腕強く引く事で相手の身体を盛大に泳がせる。

 前のめりになったレオンの首筋に向けて、ディーエンのかかとが勢いをつけて直角に振り上げられた。


「せぇあ!」

「ぐぅっ」


 延髄を断ち切らん勢いで、断頭台として繰り出された右のかかと落とし。

 不安定な体勢にありながら、レオンは咄嗟に首へと添えた左手でディーエンからの蹴撃を受け止めてのける。


「っらぁ!」


 そのまま腕一本で受け止めた足ごと相手の身体を引き寄せようとするレオンだったが、その行動はディーエンにとって予想の範疇でしかなかった。


「はぁっ!」

「ぶっ!?」


 足を引かれると同時に跳躍し、ディーエンは残った左足で無防備なレオンのあご目掛けて強烈な跳び膝蹴りを叩き込む。


「――ひひっ」

「なっ!?」


 しかし、レオンは持ち前の頑丈さでその一撃を耐え切ると、わざわざ捕まりに来た左足も掴み取り肩車のような体勢で真後ろへと倒れ込んだ。


「よいっしょお!」

「がっ!」


 両足を封じられ、身長を倍にした高さから地面へと叩き付けられたディーエンの表情が苦痛に歪む。


「よっ―― どうだ!」


 隙を与えず、上半身だけ起こしてディーエンの足を引き摺り込み、レオンは決着としてその関節を捉えてみせる。


「――『魔雷ラ・ヴォルト』」


 しかし、蒼の魔道士は腕を伸ばしてレオンの背中に手を付くと、唐突にその手の平から紫電を迸らせた。


「ぎぉっ!?」


 威力を増幅する杖を介さない些細な威力の魔法だが、レオンにとっては完全に予想外の一撃だ。驚いて拘束を解けた事で、ディーエンは悠々と脱出を果たす。


「って~な~」


 背中を擦りながら立ち上がり、レオンはすでに構えを取り直し終えたディーエンを半眼で睨んだ。

 互いに言葉にした訳ではないが、最初の決まりでは体術以外は「なし」だったはずだ。取り決めを無視したディーエンの行為は、反則以外の何ものでもない。


「ったく、この負けず嫌い野郎が」

「そのまま返すよ」


 だが、レオンはディーエンの反則を強く咎めない。同じ状況に陥ったなら、自分も迷わず心力で肉体を強化していただろうからだ。

 意地っ張りで負けず嫌い同士の二人は、口角を釣り上げながら体内の力を循環させ深く静かに互いの心力と魔力を練り上げていく。


「そんじゃぁ、まぁ――」

「そういう事で――」


 無粋な言葉は最早不要だ。ここから先は、最初に決めたルールなど完全に無視したなんでもありの戦いとなるだろう。


「レオ~? ディ~?――あー、やっぱりここに居たぁ!」


 そんな張り詰めた空気の中、間延びした声を出しながら三人目の幼馴染が鍛錬場へと姿を現す。

 一緒に昼食を取ろうと約束の場所で待っていたシロエが、二人を見つけて頬を膨らませていた。


「ここまで、かな?」

「ま、良い気晴らしにはなったよ」


 良いタイミングで冷や水を掛けられた二人は、構えを解いて服に付いた汚れを払いながらシロエの元へと近付いていく。

 数えられないほどの組み手をして来た二人だ。決着が着かずに終わっても、不満や遺恨は残らない。


「もー、お昼ご飯の時間なくなっちゃうよ?」

「ごめんね。軽い練習のつもりが、つい熱が入っちゃって」

「あ~はいはい、悪かったよ」


 睨まれたところで全く恐くないシロエに適当な謝罪を入れつつ、頭を撫でてご機嫌を取ってみる。


「もぅ、髪の毛ぐしゃぐしゃしないでよ!」


 しかし、今のシロエには逆効果だったらしい。

 頭に置かれたレオンの手を振り払い、手櫛で乱れた髪を直しだす。


「手の置き易い位置に、お前の頭がある方が悪いんだよ」

「むー、毎日ちゃんと牛乳飲んでるのになぁ……」

「それ、ただの俗説だよ?」

「そうなの!?」


 会話を弾ませながら、三人は一緒になって鍛錬場を後にしていく。


「なんで教えてくれなかったの!? 知ってたなら教えてよ!」

「まぁ、俗説は俗説として、ちゃんとした結果は出るかもしれないからね。それに、シロエの努力を否定するのは気が引けたんだ」

「ディーの嘘吐き! そんな事言って、本当はレオと二人で笑ってたんでしょ!」

「おいおいバカ言うなよ。お前が一生懸命頑張ってんのを笑うとか、ある訳ねぇだろ……ぶふっ」

「むー! むー!」

「いたた、ごめんごめん。今度学食のハンバーグ奢ってあげるから、それで許してよ」

「煮込みハンバーグ!」

「はいはい」

「レオンは、特盛りミックスパフェね!」

「へいへい」


 同郷である事は元より、記憶のある頃からずっと三人で過ごして来た彼らの関係はある意味そこで完結していた。

 学園という同年代が多く集まる箱庭の中でさえ、彼らは今まで積極的に外に輪を広げようとしていなかったのだ。

 彼らは世間を知らず、未だ世間は彼らを知らない。

 少年たちが動き出した先に如何なる騒動が待つのか、どちらもまだ知る(すべ)はない。


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