ツナマヨ
「おーい、ツナマヨー」
大学会館の休憩所で昼飯を食っていたら、後ろから声をかけられた。
同じゼミの加藤だ。
よく言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者その1。
俺にツナマヨなんぞというけったいなあだ名をつけた張本人である。
「俺はツナマヨじゃない」
毎度のごとく渋い顔で苦言を呈するが加藤はどこ吹く風だ。
「だってツナマヨじゃん」
けらけら笑って奴は俺の昼飯を指差した。
食べかけのコンビニおにぎり。味はツナマヨである。
「今日もツナマヨ、昨日もツナマヨ、明日もツナマヨ。もうみんなの認識はお前=ツナマヨだから」
いやまだ明日は決まってないだろうが。
まあ、たぶんそうなるだろうけど。
別に俺はそこまでツナマヨが好きなわけじゃない。
ただ単に、具入りのコンビニおにぎりの中で一番安いってだけのこと。
ついでに言えば、梅もおかかも苦手だからだ。鮭は高い。
そんなわけで、日々の昼食にツナマヨおにぎりを選択した結果、おちゃらけ担当加藤から不名誉なあだ名をつけられる羽目になった。
まったく、食事くらいで人の存在を決めつけないで欲しいものだ。
ていうか、食事ぐらい自由に食べさせていただけませんでしょうかね…?
人の話を一切聞かない加藤を振り切ったさきでまたも声をかけられた。
「あ、マヨ君!」
……珍妙なその名前で呼ばれて、反射的に振り向いてしまう自分が悲しい。
愛らしい声の主は部活の先輩である高杉さんだ。
ああ、そんなにこやかな笑顔でそのけったいなあだ名を呼ばないでください。
なんかさらに省略されてるし。
先輩の手前否定はしなかったが、情けない胸の内が表にでていたのだろうか。高杉さんがくすくす笑う。
「何、マヨ君このあだ名嫌い?」
えーと、まあ。嫌いというかなんというか。
別にツナマヨに罪はない。しかして俺はツナマヨではないのですよ先輩。
なんと説明したものか口ごもっていると高杉さんが顔を覗きこんでくる。
え、なに、なんか近くないですか!
「……私、ツナマヨ好きなんだけどな」
ささやくような声に心臓が射抜かれた。
俺はツナマヨじゃない。
俺はツナマヨじゃない。
おれはつなまよじゃない。
だからこれは俺とは一切関係なくて彼女はただ単に食品のあのマグロのほぐし身の油漬けのマヨネーズ和えのおにぎりいやもしかしたらサンドイッチかもしれないけどとにかくあの食べ物のことが好きだと言っているのであって決してけっして俺のことを指しているのではないからしてだから頼むから沈まってくれ心臓なに勘違いしちゃってるのやめてくださいよっていうかそれもこれも加藤がみょうちきりんなあだ名をつけるからだバカヤロー。
頭の隅でただひたすら加藤を罵倒しながら俺は先輩の前から逃げ出した。