歓迎されたのです
「素晴らしい!」
と言うアインスさんの声とともに、私の周りで拍手が巻き起こりました。
いつの間にか部屋にいた人が皆、私とアインスさんを取り囲むように集まっていたのです。
私は褒められて伸びるタイプなので、そんなに褒められるといろいろと頑張ろうという気になっちゃいます。
魔石の選別にはちょっと自信があるのできっとお役にたてるのです。
なぜこんなに褒め称えられているのかと言えば、先ほど用意された魔石と魔力測定機により、私の特技が証明されたのです。
私がしたことは魔石を見て魔石の魔力残量を当てたり、指示された通りの量の魔力を注入しただけなんですけどね。
それでも、私のほかにそんなことができる人はいないらしく、皆さんとても珍しがっています。
珍しいからって、解剖したいとか剥製にしたいとか思う人がいないといいのです。
研究室の皆がザワザワと話をしている中、アインスさんは少し困ったように眉を寄せ私を見ました。
どうしたのでしょう?
お腹でも痛いのでしょうか?
「本当に素晴らしいですが……イチカさんがいないとジェーシャチ国では魔法障壁を維持するのが難しいのでは?ジェーシャチ国はよくイチカさんが国外に出ることを了承しましたね」
「私は国を出る直前まで、私の代わりに魔石を使ってちょうどいい魔力を注ぐ研究をしてたんです。あともうちょっとで完成だったので、次に城の魔法障壁に魔力を注ぐときには何とかなると思いますよ」
いきなり国を出ることになったので、最後まで研究に携われなかったのは心残りですが、しょうがないのです。
でも、まあ、私は下っ端研究員なので言われるままに魔力を流したり、目視で魔力を量ったり、ちょうどいい魔力の魔石を選んだりと、いればちょっと便利だな~くらいの存在だったので、あんまり難しいことには携わってなかったんですけどね。
「そう……ですか……」
アインスさんは何か引っかかることがあるのか、困った顔から難しそうなことを考えているような顔に変わりました。
あ、この顔ちょっとかっこいいかもしれません。
悩める男性ってなんか響きもいい気がします。
「アインス様、そろそろイチカ様をご自宅へお連れになられては?長旅でお疲れでしょうし……」
そう、アインスさんに声をかけたのはジェーシャチ国から一緒に旅をしてきたディエテ国の外交官さんでした。
まだ一緒にいたのですね。
部屋の中の人々に紛れていて気が付かなかったのです。
「ああ、私としたことが。すみませんイチカさん。旅の疲れも癒せぬまま、このようなところに引っ張り込んでしまって」
と、アインスさんは言うが早いか私を城から連れだし、また二人馬車に乗ることとなりました。
「あの……、これからアインスさんのご自宅へ行くのですか?」
「はい、イチカさんもお疲れでしょうから、とりあえず我が家でゆっくり休んでください」
わざわざアインスさんのお家に行かなくても、どこか適当な宿屋を紹介してくれればいいのにと考えてハッとしたのです。
私、手持ちのお金がジェーシャチ国の通貨しかないのです。
ジェーシャチ国から出たことがなかった私はジェーシャチ国で使っていた通貨がディエテ国でもそのまま使えるのかどうか知らないのです。
そういえば、物価とかはどうなのでしょう?
たとえ今持っているお金が使えるとしても、価値がジェーシャチ国と同じとは限らないのですし、今持っているお金で、どのくらい暮らしていけるのかさっぱりわからないのです。
そういえば、今後アインスさんの研究のお手伝いをするとして、給料や勤務時間、福利厚生などどうなるか全く知らないのです。
……とりあえず今日はアインスさんのお家におじゃまして、今後のことを相談することにします。
連れて行かれたのはとてつもない豪邸でした。
服装や外交官さんからの態度でなんとなく分かっていましたが、やっぱりアインスさんはお金持ちなようです。
難しい事はよくわからないのですが、きっとすごい貴族さんかなんかなのでしょう。
ジェーシャチ国の城は身分によって使う門が違い、さらに使える廊下や入れる場所が制限されていました。
研究所は城の敷地内の奥の奥の端っこの方に立っていて、私の使える門からは研究所までの道は全くと言っていいほど貴族の方に会うことはなかったのです。
一応、ジェーシャチ国の研究所に貴族階級の方がいるにはいたのですが、あそこでは身分だなんだという事が重要視される場所ではなかったのです。
むしろ、年齢性別も関係なく研究がすべてな特殊な空間でした。
今更ながら貴族のお家への御呼ばれにドキドキ緊張してきたのです。
アインスさんにエスコートされ馬車を降りた先、大きなドアが開かれると、長ーい廊下の両端に人がずらーっと並んでいました。
「おかえりなさいませ」
一番ドア側にいた男性のあいさつとともに皆さん一糸乱れぬ動きでお辞儀をしました。
服装から見てどうやらみなさんこのお屋敷に務めている方たちなんでしょうが、こんなお出迎えテレビや漫画の中だけだと思っていたのですよ。
ちょっと現実離れした光景にぽかんとその場に立ち止っていると、いつの間にか女の人たちに囲まれました。
皆さんおそろいの紺色のワンピースに白いエプロンをつけているのです。
まさにこれはメイドですね!
年齢は私より年下の10代くらいの子から私のお母さんくらいの人まで様々です。
「ようこそいらっしゃいました!」
「お部屋は用意してありますので」
「さあさあこちらへ」
「湯あみはされますか?用意してありますよ」
皆さんの表情は優しく笑顔を浮かべていて、口々に上る言葉はどう考えても好意的なものなのです。
私はなされるままに屋敷の奥へと連れて行かれたのでした。
なぜか歓迎されたのです。